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(ケイティの視点)聖堂図書室での調べ物

 離宮に戻るとすっかり日が暮れていて、急いでお風呂に入り、夕食を摂って、部屋に戻る頃には、普段ならもう床に着いている時間だった。でも、体は疲れていても神経は昂ぶっているようで、まったく眠くない。


「色々あってお疲れでしょう? もうお休みになりますか?」

「いいえ。まだ眠くないので、少し話し相手になってもらってもいいかしら?」


 ロザリアこそ疲れているだろうと思うけど、寝る前に頭の中を整理しておかないと寝付けないような気がしたので、少し話し相手になってもらうことにする。


「ロザリアは悪魔がいると思いますか?」

「どうでしょうか? 神がいるなら悪魔がいてもおかしくはないと思いますが」

「神はいるのですか?」

「……ケイティお嬢様がそのようなことを言われては困ります」


 私の母は聖堂出身だし、周りにいる側近もみな聖堂出身だ。私も幼い頃から聖堂の教えを聞かされて育ってきたけど、心から神を信じているとは言い難い。たしかに神に祈ることで魔術を使うが、それが神の存在を証明するとは一概に言えないと考えている。


「まぁ、神の存在については置いておくとしても、あの男が本当に悪魔なのかどうかは、大きな問題です」

「はい、万一本物でしたら、大変なことになりかねません。とくにアグネーゼ様が仰っていたように、他の国がその力を利用するようなことがあれば、戦争が起きる可能性もあります」

「悪魔ともあろう者が、簡単に利用されるとも思えませんけどね」


 最悪なのは、利用しようとして裏切られ、破滅を招くような国が出ることだと思う。たった五人で世界を滅ぼしかけたというのが本当なら、一人でも大きな力を持っているはずだ。ベアトリーチェの魔導書を得たエヴェリーナ以上かもしれない。


「次のお休みにでも聖堂に行って、悪魔のことを調べましょう」

「聖堂ですか? オーフェルヴェーク大司教にお話しを聞くのですか?」

「いえ、お爺さまに聞いても分からないでしょう。聖堂の図書室なら、神や悪魔についての書物もたくさんあると思うのです」




 聖堂の図書室に入るのは久しぶりだ。あまり利用する人はいないのだが、とにかく多くの書物があるのが特徴で、フィルネツィア全土からさまざまな宗教関係の書物が集められている。


「書物を片っ端から確認して、ヴィットリーオという名や五人の悪魔のような表記があったら詳しく見てみましょう」

「かしこまりました」


 ロザリアと二人で書物を漁り始める。図書室の書物はある程度分類されて並べられているのだが、悪魔などという分類はないので、順に色々見ていくしかない。私はとりあえず、一番関係ありそうな『歴史』に分類されている書物を順に見ていく。


「……ありそうでありませんね。神話や伝承的なところも見なくてはなりませんね」


 昼食も摂らず、書物をめくり続けたが、それらしい記述の載った書物は見当たらない。そろそろ日も傾きかけてきて、無駄骨だったかと思い始めてきたところに、「ケイティ」と声を掛けられた。お爺さまだ。図書室に来るようなタイプではないと思っていたのだが、意外だ。


「どうした、ケイティ? 図書室にくるなど珍しいではないか」

「ごきげんよう、お爺さま。ちょっと調べ物があったのです」

「女学校や王宮の図書室ではなく、ここに来たということは宗教関係の調べごとか? 目当ては見付かっていないようだが、何を探しておるのだ?」


 正直に答えるべきか一瞬迷ったが、悪魔について調べていることだけなら話して問題ないだろうと判断して、聞いてみることにした。


「悪魔について調べているのです。ですが、ここにはないようですね」

「悪魔とな? なぜそのようなことを?」

「神がいるのであれば悪魔もいるのではないか、という話がありまして、実際のところどうなのだろうと思ったのです」

「……ずいぶん、不吉な話をしているのだな?」

「姉妹での戯れ話ですよ。ですが、神に仕える以上、その対となるものについても知っておく必要があると考えたのです」

「おぉ、なるほど。ケイティは勉強家だな」


 そう言うとお爺さまは少し目を細めた。多少脚色しているので内心恐縮ではあるが、姉妹での話であることは間違いない。


「悪魔関係の書物は公にするようなものではないので、別の場所にまとめて保管しているのだ。ケイティが見る分には問題もないので、案内させよう。自由に見るが良い」

「まぁ、そうなのですか。ありがとうございます、お爺さま」


 神官に案内され、聖堂の奥まった一室に入ると、書物が並べられている棚があった。二十冊程度の書物が並んでいて、それが悪魔関係のものなのだろう。終わったら呼ぶので退出するよう神官に命じ、私とロザリアで書物を確認していく。


「ケイティお嬢様、こちらに記述があります」

「この本にもありますね。関係しそうな部分を書き写しましょう」


 伝承や言い伝えの類が多いが、いくつかの書物にヴィットリーオの名が出ていた。書物によって表現は異なるが、まとめると次のようになる。


 ヴィットリーオを含む五人の悪魔が世界を滅ぼそうとしたのは、約二千年も前の話のようだ。圧倒的な闇の魔術により、多くの町や国を焼き尽し、たくさんの人が殺された。しかし、一人の少女が立ち上がり、五人の悪魔を倒して封印した。


「これがベアトリーチェのことなのか、そして、どうやって封印したのかは、どの書物にも書かれていませんね」

「ですが、どの書物も五人の悪魔という点では同じです、ケイティお嬢様」

「ええ。パーヴェルホルト、コルヴタール、クラインヴァイン、クローヴィンガー、そしてヴィットリーオですね。せめてどこに封印されたのか分かればよかったのですが」

「そうですね。ですが、実際に書物にもその名が書かれていることだけでも分かったのは大きいと思います。完全な作り話というわけでもなさそうですね」

「その判断はまだ早いでしょうが、参考にはすべきことでしょうね。ガブリエラに手紙を出しますので、届けてもらますか?」

「かしこまりました」


 次の休みにはガブリエラが件のダンジョンに行き、ヴィットリーオと話をする予定と聞いている。それまでに知らせておく必要があるだろう。

図書室で調べ物でした。

次話は明後日予定です。

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