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(ブレンダの視点)戦い終わって

「ルオナイトを私にくれるなんておかしいと思いました。でも、すぐには何のことか分かりませんでしたよ」

「ケイティ姉上なら必ず気付いてくれると信じてたわよ」


 ベッドから体を起こして、ニッと笑うアグネーゼに、ケイティは苦笑する。ルオナイトという石は最高の治癒魔術の触媒になるらしい。

 それにしても大きな賭けだったと思う。抱き合って相手の左背中を狙えば、自分の方は右の胸に刺さることになる。心の臓は外れるけど、それでも下手をすれば死んでいたはずだ。


「もう、身体は大丈夫なようだな、アグネーゼ」

「ええ、心配掛けたわね、ブレンダ姉上」

「まったくだよ」


 私も苦笑せざるを得ない。三日も寝続けて、ようやく起きたと思ったら、すっかり元気になったようだ。私はベッドの脇でアグネーゼを見守るエレノアに目をやる。


「エレノアも傷が残らず、よかったな」

「ウェンディ殿とロザリア殿のおかげです。本当にありがとうございました」


 エレノアがウェンディとロザリアに頭を下げる。エレノアはあらかじめ自分に神聖魔術を掛けてエヴェリーナの攻撃を軽減していたようで、傷を残すことなくすっかり回復していた。


「アグネーゼ姉様には、驚かされてばかりですね。でもご無事で本当に良かったです」

「ターニャにも心配掛けたわね」

「これからは、何かビックリするようなことをする時は、私たちに相談してくださいね。姉妹なのですから」

「うん。ありがとう」


 ターニャもずいぶんと心配して、この部屋に泊まり込んでいた。元気になって心からホッとしている様子がよく分かる。みんなに笑顔が戻って本当に良かった。




 戦いから三日。すでに後始末が始まっている。


 エヴェリーナは消滅し、ベアトリーチェの魔導書も消えた。ターニャ曰く、ベアトリーチェらしき少女の魂が天に昇るのを見たということなので、魔導書も消滅したのかもしれない。


 イェーリングにいたグレイソンは拘束され、王宮の牢に幽閉された。エヴェリーナの一存で巻き込まれたのだろうが、それ以前に王からの課題を放棄しており、王籍から除かれ、平民に落とされることになるようだ。なお、エヴェリーナの側近たちは、ネーフェに戻されることになった。


 ヴィーシュ侯をはじめとする、イェーリングに遠征していた領主たちはみな無事で、昨日揃って王宮へ戻り、国王陛下に無事を報告した。王宮の入口でヴィーシュ侯を見つけたターニャがいきなり駆け出し、「お爺さまー!」と叫んでヴィーシュ侯に飛び付き、ひと通り無事で良かったことを抱きついたまま喜んだ後、私たちにその姿を見られていることに気付いて顔を真っ赤にして恥ずかしがっていたのがとてもかわいかった。


 ゼーネハイトからは和睦の使者が来ており、じきに戦争は正式に終結するだろう。すでにイェーリングに侵攻してきたゼーネハイト軍は殲滅されていて、フィルネツィアに有利な条件で和睦ということになりそうだとガブリエラが言っていた。


 王宮、とくに玉座の間の被害は甚大で、天井が落ちてしまっていることもあって、中央部分は立て直すことになるらしい。私は以前の王宮が好きだったので、あまり意匠が変わらないことを祈っている。


 女学校は予定通り、このまま冬の休暇期間に入る。年が明けてからの再開が楽しみだ。




 翌日、私たち姉妹は国王陛下から呼ばれ、陛下の私室に通された。戦いから四日経ち、国王陛下の顔色もずいぶんと良くなっている。


「四人、いや、護衛たちも含め、その方ら八人。今回の件ではよくやってくれた。改めて礼を言わせて欲しい。本当にありがとう」

「お褒めに預り恐縮です」


 私が代表して答えたが、三人の妹たちも、後ろの四人も心なしか誇らしい顔をしている。


「アグネーゼよ」

「はい」

「もう傷は癒えたか?」

「はい。ご心配おかけしました」

「うむ。その方はこれからも第三王女として、しっかりと学ぶが良い」

「ありがとうございます」


 エヴェリーナの娘ではあるけれど、今回の件はアグネーゼなしでは解決できなかった。お咎めなしで良かった。


「ターニャからの申し入れにより、アグネーゼとエレノアは今後、桔梗離宮で暮らすがよい」

「かしこまりました。ありがとう、ターニャ」


 アグネーゼがこれまで暮らしてきた山茶花離宮は閉鎖され、庭園に作り直されることになった。アグネーゼとターニャが微笑みあっている姿を見て、私も自然と笑顔になる。


「アグネーゼ」

「はい」

「その方は母を亡くしたが、まだ父はここにいる。何かあったら遠慮なく言うと良い」

「……ありがとうございます」


 国王陛下はそう言うと少し微笑んだ。優しい父の一面を見たような気がした。アグネーゼはまだ完全には立ち直っていないし、完全に立ち直ることは無理かもしれない。でも、父の気持ちと私たち姉妹の気持ちは同じだ。これからもアグネーゼを支えていこうと改めて思った。


「四人に改めて申し付ける」


 国王陛下の言葉に私たちは背筋を伸ばす。


「四人とも課題はまだ途上のはず。これからも学業に、課題に励むこと。以上だ」

「かしこまりました」


 そう言えば、最近まったく勉強していないな。今日からまたウェンディと勉強を再開しよう。

一章のラストです。

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