表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/129

(ケイティの視点)形見

 要求が届いて三日経ったが、エヴェリーナには特に動きはない。すぐにでも王宮に押し入ってくるものと思っていたのだが、グレイソンと一緒にイェーリングの城で留まったままだ。

 その間に王宮では、エヴェリーナへの対策が進められている……かと言えば、まったく進んでいない。


「いかがですか? ガブリエラ。これが神聖魔術です」

「うーん……」


 私が見せた神聖魔術に、ガブリエラは考え込む。


「たしかに効果はあるかもしれないけど、使いどころが難しいわね」

「そうかもしれません。基本的には、敵を倒すためではなく、神へ祈りを捧げるための魔術ですので」


 神聖魔術は、神に祈りを捧げ、平和や安全などを願うための魔術だ。攻撃でも防御でもなく、強いて分類するなら加護を願う魔術だ。

 闇と相反する属性のため、闇の加護を消したり、効果を弱めたりはできるだろう。


「ただ、今やエヴェリーナの魔力は強大だわ。加護を消せるとしても、ごく短時間でしょうね。つまり、ほんの一瞬、隙を作れるかどうかというくらいの効果ね」


 ガブリエラはずいぶんと憔悴しているようで、敬語もなにもあったものではないが、この非常時に礼儀を気にしている余裕はないと私も思う。祠のダンジョンに入る前に少しだけ話をしたが、あの時と違って、余裕の無い表情、口ぶりだ。


「ええ、そのタイミングで何か効果的な攻撃ができれば、ということですね」

「それが問題ね」


 ガブリエラは苦悩の眉をさらに曇らせる。


「国王陛下はルフィーナの剣技に期待しているみたいだけど、物理的な剣攻撃ではどんなに速くても防がれる可能性が高いわ」

「属性を宿せる剣はどの国でも秘宝扱いですからね。フィルネツィアにもあるのでしょうか?」

「私の知る限りはないわね。この後、何か知らないか、騎士団長を締め上げてみるわ」


 神聖属性を宿した剣でもあれば良いのだろうが、そのようなものは存在しない。聖堂や教会で祈る際には、神器として短剣を使うこともあるが、あれは剣の形をしているだけで、人を傷つけるような能力はない。


「ケイティ様、どのような作戦になるかはまだ分からないけど、神聖魔術もその中に組み込むことになると思うわ。また相談させてね」

「分かりました」


 ガブリエラは難しい顔をしたまま、部屋を出て行った。




「なかなか難しいようですね」

「はい。しかし戦いの場に出るなど、危険ではございませんか、ケイティお嬢様?」

「そうね、だから私を守ってくださいね、ロザリア」

「もちろんです」


 部屋には私とロザリアの二人しかいないので、もうちょっと踏み込んだことも話し合っておける。


「ところで、ロザリアも神聖魔術は学んでいますよね?」

「はい。本当に初歩的なお祈りだけで、実際に使ったことはありませんし、しっかり見たのも先日のロイスナー教会が初めてです」

「エレノアはどうかしら?」

「そうですね、使えるとしても、ごく簡単な神聖魔術だけではないかと思います」

「……なるほど」


 アグネーゼはすっかり立ち直ったように見え、皆と食事をし、話もしている。だが、本当に立ち直ったわけではあるまい。何かをしようと考えているに違いない。


 何かといってもそれは分かりきっていて、自分の手でこの問題を片付けようと思っているに違いありませんね……。


 具体的にどうするつもりなのかは分からないが、聖堂出身のエレノアが神聖魔術を使えるのであれば、それを利用してアグネーゼが直接エヴェリーナを倒しに掛かる可能性は大きいと思う。そしてそれはとても危険だ。


 せめて相談してくれれば良いのですが……。


 アグネーゼの性格を考えると、私たちには相談することはないだろう。言葉遣いこそ丁寧とは言えないが、その実、姉妹想いの優しい娘であることは分かっている。だからこそ、何とかしてあげたいと思っているのだが、なかなか難しい。


「ケイティ様とエレノアと私の三人で神聖魔術を使えば、比較的大きな隙を作れるかもしれませんね」

「たしかにそうですね。上手く三人で連携できれば、というところですね」


 その隙を突いてルフィーナが攻撃すれば、効果はあるのだろうか?


 そんなことを考えていると扉がノックされる。ロザリアが対応に向かう。


「ケイティお嬢様、アグネーゼ様です」

「お通しして」


 アグネーゼがエレノアを連れて、部屋に入ってくる。私が席を勧めると、アグネーゼは首を振って、「ううん、話は簡単なので、ひと言だけ」と言った。


「なんでしょう?」

「ケイティ姉上、今まで色々とありがとう。そのお礼にこれを持ってきたのよ」


 なぜ今?と戸惑っていると、私の手に輝く石を握らせる。


「なんですか、これは?」

「ルオナイトという宝石よ。私の宝物なんだけど、ケイティ姉上にあげる」

「ルオナイト……。月の力を宿すという貴重な石ではありませんか。このようなものをなぜ」

「言ったでしょ、お礼って。じゃあ、これからもよろしくね」


 あっけにとられる私に手を振りつつ、笑顔でアグネーゼは部屋から退出していった。


「……どうしたんでしょうか、アグネーゼは」

「思いたくはないですが、形見分けなのかもしれません」


 色々と急がなくてはならないかもしれませんね……。

ルオナイトはとても貴重な石です。

次話は明日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ