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(ターニャの視点)エヴェリーナからの要求

 イェーリングにはお爺さまがいる……。お爺さまを助けないと!


 エヴェリーナがイェーリングに向かったことを聞いた瞬間から、私はそれ以外のことを考えられなくなっていた。

 ブレンダから割り当てられた部屋に入ると、私はさっそくルフィーナに言う。


「ルフィーナ、お爺さまを助けに行きたいのですが、何か方法はありませんか?」

「ヴィーシュ侯を助けに、ですか?」

「ええ、エヴェリーナが向かったということは、危ないではありませんか」

「ターニャ様が行くと、さらに危険なことになると思いますが」

「うぐっ、……ですよね。ガブリエラでも倒せなかったのに、……私がどうにかできるものではありませんね」


 すぐにでも助けに行こうと思っていたのに、頭から水を被った気分だ。私は非力だ。大事な人も守れないのかと気持が落ち込んできた。


「そんなに落ち込まないでください。まだ、ヴィーシュ侯が危険とは決まっていません」

「でも……」

「エヴェリーナ様、ではなくて、エヴェリーナがどう動くかを確認してからでも遅くはありません。魔術士団の大半がイェーリングから戻っているようなので、いざとなれば転移魔術をお願いすることもできると思います」

「そうですね……」

「それにヴィーシュ侯はお強いです。多くの護衛も付いていますし」


 たしかにお爺さまは強い。齢六十に近いにも関わらず、並みの騎士よりも強いくらいだ。しかし、エヴェリーナは危険だ。


「ここにいれば情報は集まります。とりあえずターニャ様は今日は休んで疲れを取りましょう」




「おはようございます、ターニャ様」

「……おはようございます、ルフィーナ」


 色々考えて眠れないかもしれないと思っていたけど、ベッドに入るとすぐに眠ってしまった。よっぽど疲れていたのだろう。なんだかお腹も空いている。


「よく寝ました。朝食はこの部屋で摂るのかしら?」

「ブレンダ様から一緒にとお誘いが来ています。行きますか?」

「ええ、行きましょう」


 顔を洗ってさっぱりして、ルチアにも着替えを手伝ってもらい、私はルフィーナと食堂に向かう。

 食堂に行くと、すでにブレンダとケイティがいた。アグネーゼはまだ立ち直っていないようで、出てきていない。


「おはようございます、ブレンダ姉様、ケイティ姉様」

「おはよう、ターニャ」

「よく眠れましたか? ターニャ」


 朝食を摂りながら、ブレンダが女学校の休校を教えてくれた。エヴェリーナの件は一般には伏せられているけど、祠の件もあるのでしばらく休みだそうだ。「そのまま冬期の休暇に入ってしまうだろうな」とブレンダは言う。


「まだ情報は届いていないが、朝になってエヴェリーナも動き出すはずだ。その動きによって私たちもどうするかを考えねばならないな」

「どうするとは?」

「決まっているだろう、ケイティ。知らなかったとはいえ、私たちが招いてしまった事態だ。黙って見ているわけにはいくまい」

「そうですね。私も黙って見ているつもりはありません。ちょっと話したいことがあるので、後ほどガブリエラを呼んでいただいてもよろしいですか?」

「分かった。手配しよう」


 二人がこのまま引き下がるつもりはないことが分かって、私はちょっとホッとする。私もまだお爺さまを助けるために動きたいと思っているからだ。


 ちょうどそんな話をしていると、食堂の扉がノックされ、騎士がウェンディにメモらしき紙を手渡した。何のメモかはみな分かっている。エヴェリーナの件だ。ウェンディがブレンダにメモを渡す。


「エヴェリーナは、今朝ほどイェーリングに現れ、ゼーネハイト軍の駐屯地を一人で殲滅した後、グレイソンとともにイェーリングの城に入ったそうだ」

「……殲滅ですか?」


 ケイティが呆れたように声を上げる。私も一瞬意味が分からなかった。三ヶ月以上に渡りフィルネツィアが撃退できなかったゼーネハイト軍を一人で殲滅?


「このメモだけではどう殲滅したのか分からないな。それにイェーリングの城に入ったというのも意味不明だ」

「そうですね、イェーリングの城にはまだ騎士団もいるはずです。戦ったのか、降伏したのかも分かりませんね」

「とにかく、後で国王陛下に面会してみよう。これだけではよく分からない」




 国王陛下との面会は午後になった。アグネーゼが心配だったので午前中に部屋へ行ったけど会えなかった。エレノアによると、布団を被って起きてこないそうだ。

 そう簡単に気を取り直せることでないのは分かっているので、今はそっとしておくしかないと思う。幸い、アグネーゼに罪がないことは国王陛下が認めている。今の内に私たちにできることはしてあげたい。


「エヴェリーナから書簡が届いた」


 国王陛下は私たちに一通の書簡を示す。国王陛下の部屋に集まったのは、ガブリエラ、ブレンダ、ケイティに私だ。もちろん、ウェンディ、ロザリア、ルフィーナもいる。ちなみに、今は国王陛下の護衛はガブリエラが務めているので、部屋にいるのは八人だけだ。


「読んでもよろしいですか?」


 ブレンダの問いに国王陛下は軽く頷く。ブレンダが書簡を手にとって読み始める。


「では。ゼーネハイト軍を殲滅したことはフィルネツィアにとって大功であること、その功は我が子グレイソンのものであることを認め、次期王をグレイソンに定めるとともに、十四世フィルネツィア王は退位せよ。なんですかこの書簡は?」

「それがエヴェリーナの要求だそうだ」

「このような馬鹿げた要求を聞かれる必要はありません、父上」

「無論、聞くつもりはない。その前に罪を認め、出頭するよう申し伝えるつもりだ。しかしその場合、戦いになる可能性が高い」


 ゼーネハイトを退け、グレイソンを王位に就けようというなら、フィルネツィアを滅ぼそうと考えているわけではないようだ。だが、こんな無茶な要求が通ると考えているわけではないだろう。となると、グレイソンを王位に就けるには、現国王とその娘たち、つまり私たちが邪魔ということになりそうだ。国王陛下の考えはこんなところだ。


「戦いは……避けられそうにないですね」

「うむ……」


 別に困らせようと思っているわけではないのだけど、私の呟きに皆黙ってしまった。


「たとえば、隙をついて魔導書を奪えばエヴェリーナは元に戻りませんか?」

「兵の報告によれば、エヴェリーナはすでに魔導書を手にしていなかった。つまり、融合してしまった可能性が高い」

「……融合ですか?」


 それでは、もうエヴェリーナを救うことは無理なのかしら。


「では、倒すのではなくて、封印したり、封じ込めたりすることはできないのですか?」

「あれほどの力を持ってしまっていたら、封印することは不可能ね。そんな魔術はないわ。そもそも、彼女と戦うのであれば、そんな余裕はないでしょう」とガブリエラが断じる。


 アグネーゼのことを考えると、どんな形であれ、エヴェリーナを殺したくはない。でも、そんなことを言っていたらこちらが殺されてしまうということだ。


「ターニャ、あなたがアグネーゼのためにエヴェリーナを殺さずに何とかしたいという気持ちは分かる。でも、今はそれ以上に、あなた自身やあなたの大切な家族が殺されてしまう可能性も考えなさい。イェーリングの城にはヴィーシュ侯もいるのよ」

「……お爺さまは無事なのですよね?」

「城にいる者は今のところ誰も傷つけられてはいないようだ。だが、この先は分からぬ」


 丸く収まる方法はないようですね……。

お爺さま大好きターニャです。

次話は明日です。

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