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(ケイティの視点)ケイティの考え

 これから、と言われても私たちに何かできるだろうか?と考えていると、エレノアが手を挙げ、発言を求める。


「恐れながら、アグネーゼ様はどうなるのでしょうか? 山茶花離宮の者はすべて拘束されたと聞きました。ですが、アグネーゼ様には何の罪もないのです。すべてはエヴェリーナ様と、それをお止めしなかった私たち側近の咎なのです」

「うむ」


 国王陛下はひと息吐くと、アグネーゼとエレノアに向かって話し始める。


「アグネーゼには何の罪もないことは承知している。少し休ませてやりたいが、状況は良くないのだ。しばらくは他の姉妹たちと一緒に待機するように。エレノアはアグネーゼに付いてやっていて欲しい」

「ありがとうございます、国王陛下」


 エレノアは心からホッとしたようだ。私も良かったと思う。どう見てもアグネーゼはエヴェリーナに利用されただけにすぎない。しかも、その実の母に殺されそうになっているのだ。その上、罰をという話ではあまりに救いがない。


「先ほど報告があり、エヴェリーナはディトゥースの城に降り立ち、グレイソンを抱えるとさらに西に飛び立ったそうだ」

「さらに西? というとイェーリングですか?」

「そうだ、ブレンダ。イェーリングでエヴェリーナが何をするつもりなのか分からない内は迂闊に動かないほうがいい」


 ゼーネハイトと手を組むつもりなのか、あるいはイェーリングにいる騎士団、魔術士団を配下に組み敷くつもりなのか、たしかに状況によっては国が滅びかねない。


「……イェーリング、……お爺さま」


 隣の席で小さくつぶやくターニャの声が耳に入った。そう言えば、ターニャの祖父であるヴィーシュ侯もイェーリングに出征しているはずだ。ターニャの深紅の目の色がさらに燃えているように見えて、私は思わずターニャに、「大丈夫ですか?」と小さく声を掛けるが、返事はない。

 私たちのやり取りは聞こえなかったのだろう、国王陛下がさらに言葉を続ける。


「王宮と後宮の守りは、イェーリングから戻した魔術士団に固めさせている。そなたたちは後宮で待機するように。アグネーゼとエレノアについてはブレンダが保護するよう」

「かしこまりました、父上」

「それから、ケイティ」

「はい、何でしょうか?」

「後宮には、安全管理上そなたの母も呼んでいるが、接見を禁止する。ドナートの側近についても同じだ。理由は分かるな?」

「はい、国王陛下」


 この忙しい時に聖堂や教会の相手をしている暇はないということだろう。私も母の相手をしたい気分ではないので、接見禁止はかえってありがたい。




 とりあえず今日は休むようにとのことで、夕食を摂った後は、私とターニャはそれぞれ、ブレンダの隣の部屋を貸してもらうことになった。私の側近は、ロザリア以外もいるのだが、その者たちも母の方に行ってもらい、私の周囲はロザリアだけに頼むことにした。他の者は母との繋がりが深いので、何を話すにも面倒だからだ。


「ロザリア以外に信頼できる側近がいないのも困りものですね」

「みな聖堂の者ですから……。その、私も聖堂出身ですが、よろしいのですか?」

「ロザリアが隠し事のできない性格なことは分かっています。それに、ロザリアが私を信頼してくれているように、私もロザリアを信頼していますよ」


 ロザリアはちょっと嬉しそうにはにかんで、「お茶を入れますね」と席を外した。私は椅子に少し深めに腰掛けて、思考の海に沈んでいく。


 ちょっと頭を整理しないといけませんね。


 あまりに多くのことがありすぎた。祠のダンジョンの試練については、問題はなかった。魔物と戦うような経験は初めてで、それほど役に立ったわけではないけれど、みなで戦い、上手く運べたし、充足感もあった。


 私が回復魔術を使わなくてはならないような事態にならず、幸いでした。


 問題はその先である。まさか、石碑の下に魔導書があるとは誰も考えなかっただろう。そもそもガブリエラがお宝を別に用意してくれていれば、あるいは私たち姉妹の誰も石碑に触れなければ、あの魔導書が表に出ることはなかっただろう。

 そして、ドラゴン復活の気配がなく、あの場で魔導書と分かっていれば、エヴェリーナの手に渡ることはなかった。ただその場合、アグネーゼがどう動いていたかは分からない。


 最悪の場合、アグネーゼがあのようになってしまっていたかもしれませんね……。


 魔導書の力を得たエヴェリーナの姿を思い出す。光を放ってはいたが、あの光は闇の光だ。あのように邪悪な波動を感じたのは初めてだ。


「お茶をどうぞ、ケイティ様」

「ありがとう、ロザリア」


 私はお茶に口を付け、ロザリアにも意見を聞いてみる。


「大変なことになってしまいましたね」

「はい……。アグネーゼ様があまりにお可哀そうで……」

「本当にね。彼女のことは私たち姉妹で支えていかなくてはいけませんね」

「はい」

「力を得たエヴェリーナについてはどう思いましたか?」

「飛び去る前に、まだ馴染んでいないと言っていました。あれ以上の力を得るとなると、どうにかしようがあるのか、心配ですね」


 万全ではなくてもガブリエラと互角だったということは、万全ならどうなってしまうのか。


「そうですね。倒すのは難しいかもしれません。どうするのが良いのでしょうね?」

「魔導書を奪えば元に戻るのかどうか……。ただ元に戻っても、もはや叛逆の誹りは消えません」

「ええ。アグネーゼとの関係も戻りようがありませんね」


 残念だが、倒す以外にはないように思える。


「仮に、エヴェリーナを倒さなくてはならないとなったら、方法はあるでしょうか?」

「彼女を取り囲む複数の魔術陣を超えて、剣なり魔術なりを届かせるしかありません。あの魔術陣は防御の役割も攻撃の役割も担う、厄介なものですね」

「魔術陣を無効化することはできないのかしら?」

「私には分かりません……」


 ロザリアと話をしながら、一つ頭に浮かんだのは、聖堂の儀式で使う、神聖魔術でなんとかならないのかなということだ。

 エヴェリーナは闇の光をまとっていた。光の属性を持つ魔術で無効化できそうなものだが、ガブリエラは光属性の攻撃魔術も使っていた。それでも攻撃は届かなかった。だが、闇の対となる属性は光だけでなく、神聖属性もあるのだ。神聖魔術は基本的に聖堂や教会とゆかりのある者しか使えない。


 ガブリエラと話してみる必要がありそうですね。

アグネーゼがお咎め無しでホッとしたケイティでした。

次話は明日です。

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