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(アグネーゼの視点)アグネーゼの思惑と本音

 私はアグネーゼ・フィルネツィア。十五歳。フィルネツィア王国の第三王女だ。

 離宮内がなんとなくバタバタと落ち着かない中、食堂で一人朝食を摂っていると、護衛のエレノアが入ってきた。私はエレノアに声を掛ける。


「エレノア、お母様は何か言っていたかしら?」

「……何かどころではありません、アグネーゼ様」


 エレノアは頭を抱えて、ため息混じりに答える。ふわふわの深緑の髪に藍色の瞳で、いつもは落ち着いた雰囲気をまとっているけど、今日は朝から少し疲れているようだ。


「女学校でならともかく、迂闊にターニャ様に近づくことはなりません、と厳しく申し渡されました」

「まぁ、お母様ならそう言うでしょうね」

「……聞くつもりはないのですね?」

「フフ」


 お母様に言っても許可が出るわけがないので、エレノアに「報告」しておいてと頼んだのだ。別に許可を求めたわけではない。

 昨日届いたゼーネハイト侵攻のニュースで、ここ山茶花離宮(さざんかりきゅう)もてんやわんやだ。母も情報を集めるのに忙しいに違いない。


「なぜこんな時にターニャ様を訪ねるのです? どうせすぐに女学校でお会いできるではありませんか?」

「こんな時だからよ、エレノア」


 ヴィーシュから出てきたばかりのターニャはおそらく情報を集める手段がほとんど無いに違いない。王都に連れてきた側近もヴィーシュの者ばかりという情報もこちらには入っている。


「王都にきたばかり、そして戦争のニュースよ。きっと情報が少なくて心細いに違いないわ。そんな時に尋ねてきた姉には好感度も上がるでしょう?」

「……ずいぶんとターニャ様を重視しているのですね」

「第四王女といっても、有力領主ヴィーシュ候の孫娘よ。仲良くして損はないわ」


 といっても、損得だけではない。私は個人的にもターニャに興味があるのだ。


「それに、ずいぶんと素朴な子らしいじゃない。早く会ってみたいわ」

「……そちらが本音ですね」


 事前に集めていた情報によれば、ターニャは、ヴィーシュでは平民とも隔てなく親しく遊び、王族どころか貴族らしさもまったくなかったそうだ。私の周りには王族か貴族かそれに仕える者しかいない。きっとターニャは、これまでに会ったことのないタイプのはずだ。本当に興味がある。


「とはいえ、女学校に入学されるわけですし、国王陛下ともお会いになるのですから、貴族の礼儀や常識は学ばれていると思いますが」

「うわべだけ学んでも、にじみ出るものは隠せないわ。エレノアもしっかり観察なさい」




 エレノアとそんな話をしているところに、母のエヴェリーナが扉を開けて入ってきた。にこやかではあるが、目が笑っていない。怒っているなと思いつつ、私は席から立ち上がり、挨拶を交わす。


「おはようございます、お母様」

「おはよう、アグネーゼ」


 母は私の前に腰掛けると、ひとつ大きなため息をついた。用件は分かってるし、それに対する回答もお互いに分かっている。


「止めても無駄でしょうけど、一応聞きますね。ターニャに会うべきなのは女学校ではなく、今のタイミングなのね?」

「ええ、お母様。今ですよ」

「分かりました。観察が目的なら、顔見せ程度にしておきなさい。さすがにあちらも貴女が何の思惑もなく会いに来たとは思わないでしょう」

「そうかしら? 喜んでくれると思いますよ」


 そういって私がにっこり笑うと、母はちょっと肩をすくめて続ける。


「仲良くなれるならそれに越したことはないでしょう。よく見ていらっしゃい」

「大丈夫よ、お母様。ところで戦争の方はどうなのです?」

「ゼーネハイトはかなりの戦力を出しているようです。簡単には終わらないかもしれません」

「ふーん。今この時期にフィルネツィアを攻める利があるようには思えませんけど、何が目的なのでしょう?」

「情報を集めさせているから、貴女が戻る頃にはもう少し分かると思います」


 よく見れば母の目の下には少し隈が出ている。やはり一晩中情報を集めて分析していたようだ。そんな時に私が動くのは少し悪いなと思いつつも、ターニャを訪ねるのを止めることはない。


「心配しないで、私は上手くやるわ。お母様も少しでも休んでね」

「ありがとう、アグネーゼ」


 母の目が少し優しくなったことに安心して、私はターニャの住む桔梗離宮へ向かう準備のために席を立った。

ちょっと短いですが、第3話です。

第三王女アグネーゼ・フィルネツィアの登場です。


第4話は明日予定です。

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