(ターニャの視点)祠のダンジョン攻略 その4
「やったあ! 勝ちましたよ!」
「みんな、よくやった!」
倒れたドラゴンはピクリとも動かない。もう大丈夫だ。みんな嬉しそうだ。倒れたドラゴンの側で、ブレンダとルフィーナが握手しているのも見える。
「それで、ガブリエラの言っていた石碑はあれですね」
ケイティが指差した部屋の奥に石碑が見えた。最奥まで行った証拠にお宝を持ち帰ることがガブリエラの指示だった。私たちは石碑のほうに足を進める。私の背の高さと同じくらいの石碑にはなにやら文字が刻まれている。
「何の石碑なのでしょうね?」
「文字が書かれているみたいですが、昔の文字ですね」
「ケイティ姉様は読めるのですか?」
「フフフ、読めませんよ」
しかし、石碑の周りを見ても、お宝らしきものは見当たらない。
「……何もありませんね」
「ドラゴンのブレスで燃えてしまったのでしょうか?」
「不吉な想像は止めてください、ルフィーナ。もう一回行けとか言われそうで怖いです」
お宝が燃えてしまうようなミスをガブリエラがするとは思えない。もうちょっと良く探してみようと思って歩き出したら、足元の小石に躓いてしまった。「おっと」と転び掛けた私は、とっさに石碑に手をついた。すると、石碑が少し光り、ズッと横に動いた。
「あら? この石碑動きますね」
「ちょっとお待ちください、ターニャ様。私が調べます」
石碑があった場所の下に小さな空間が見える。そこに何やら箱のようなものが置かれているようだ。
「あ! これがお宝ですかね?」
「お待ちください。箱に罠などがないか調べますので」
罠がないことを確認したルフィーナが箱を取り出す。さらに、箱自体も調べてから、ようやく箱の蓋を開く。中には包みような物が見えた。何やら布で包まれているけど、大きさ的にはまた小さな箱でも包まれているように見える。
「見てみましょう」と私が包みを解きかけた時、「ちょっと待ってくれ、ターニャ! ドラゴンが復活しそうだ。それを確認するのはダンジョンを出てからにしてくれ!」とブレンダの声が響く。
振り返ってドラゴンを見ると、先ほどまで完全に停止していたはずのドラゴンの体がビクビクと動き始めている。これはマズい。
「すぐにここから出るぞ! 皆続け!」
ブレンダに続いて、私たちは出入り口まで駆け抜けた。
一階の祠の内部まで戻ると、祠の入り口の方でガブリエラと誰かが言い争っている。誰かな?と考えると、ルフィーナがブレンダと試合をした時に国王陛下の隣に座っていた騎士団長だと思い出した。
「ターニャ様、こちらです」とルフィーナが私に包みを渡す。受け取った包みを紐解くと、中に包まれていたのは箱ではなく何かの本だった。表紙に書かれたタイトルは古い言葉のようで読めない。私が本を開いてみようとすると、
「ターニャ! それを開いてはダメよ!」と叫びながらアグネーゼがこちらに駆けてくるのが目に入った。
その刹那、ドンッ! と後ろから押されて、私は転びそうになる。
「あっ!」
「ターニャ様!」とルフィーナが支えてくれる。いったい何なのだろうと振り返ろうとすると、手に持っていたはずの本がない。
「お母さま!?」
アグネーゼの声が響く。私を押して、本を奪ったのであろうその人物は、少し離れたところで本を開いている。すると本が光を放ったかと思うと、その人物も光に包まれた。
「遅かったか!」と騎士団長らしき人物の声も響く。
さらに強い光を放ち、その人物は本を開いた形のまま、宙に浮いていく。光が落ち着くと、その人物には見覚えがあった。アグネーゼがお母さまと呼んでいたとおり、第二王妃のエヴェリーナだ。
「フフフフ。ついに手に入れたわ! これがベアトリーチェの魔導書の力なのね!」
騎士団長が「それを返せ!」と剣を抜いて、エヴェリーナに襲いかかると、いくつもの魔術陣がエヴェリーナの周りに浮かび上がり、剣を防ぎながら、さらに騎士団長に火撃や雷撃を浴びせる。
「ぐわあっ!」と呻き声をあげて騎士団長が倒れる。
「あなたが慌てて双鷲の堂舎を飛び出したと聞いたので、追跡して大正解でしたわ。案内してくれてありがとう、騎士団長」
「うぐぐ……」
「ベアトリーチェの魔導書は私が使わせてもらうわ。これでグレイソンを王に就けられるわ」
「お母さま! いったいどういうことなの!?」
「アグネーゼ……。あなたはよくやりました。でももう用済みです」
エヴェリーナがそう言うと、彼女の周囲に展開された魔術陣が光はじめる。
「アグネーゼ姉様!」
私は急いでアグネーゼの前方に防御魔術を出す。ほぼ同時に、エヴェリーナの魔術陣から攻撃魔術が撃ち出されたが、なんとか防ぐことができた。
「そんな……、何を言っているの、お母さま……」
「アグネーゼ様! 危険です!」
呆然と膝をついてしまったアグネーゼを抱きかかえて、エレノアが後方へ飛ぶ。変わって前に出てきたのはガブリエラだ。
「王妃エヴェリーナ、これはフィルネツィアに対する叛逆ということでよろしいですわね?」
「フフフ、叛逆? 私は王の母になるのよ。叛逆はあなたたちの方よ!」
二人の間で攻撃魔術の撃ち合いが始まる。どちらもお互いの攻撃は完全に防御していて、当たらない。周囲への被害のほうが大きくなってきた。
「よせ、ガブリエラ! 祠が崩れるぞ!」
ブレンダの言葉に私たちは急いで祠を出る。二人を除く全員が祠を出たところで、建物は白い煙とともに崩れ落ちた。
「……二人は?」
「います。ご注意を、ターニャ様」
ルフィーナが指差す方の白煙が薄れていくと、淡い光を放ちながら宙に浮いているエヴェリーナと、瓦礫の上に立っているガブリエラが見えてきた。どちらも無傷だ。
「まだ完全には体が魔導書に馴染んでないわね。あなたはまた今度殺してあげます」
エヴェリーナはそう言うと、西の空へ飛び去っていった。
急展開です。
次話は明日です。




