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(ブレンダの視点)ブレンダの良い考え

 私、ブレンダ・フィルネツィアが属する三年生の人数は三十人弱。クラスは一つだけなので、同じ顔を見るのも三年目だ。その中で私の成績はお世辞にも褒められたものではなく、下から数えた方が遙かに早い。


 真面目に聞いていればなかなか面白い授業もあるな。


 三年生にして初めてしっかりと授業を聞いてみた私の正直な感想だ。これまでは授業に出席していても、頭では剣技のことばかり考えていた。ちょっと勿体ないことをしたかもしれないと思う。

 首席を取るよう王命が下り、私はそれまでを取り戻すべく必至で勉強している。幸いなことに、私の護衛のウェンディは二年前にこのフィルネツィア王立女学校を卒業したばかり、しかも首席だったそうだ。そこで、後宮ではウェンディに勉強を教わりつつ、学校での授業も真面目に聞いている。


 三十人弱とは言っても、その中で一番を取るのは難しい。


「私に首席が取れると思うか?」

「もちろんです。ブレンダ様がこのまま努力を続ければ、結果は必ず付いて参りますよ」


 私が不安になり、ウェンディに尋ねると、彼女は必ずこう答えてくれる。実に頼もしい存在だ。




 今日も四姉妹揃っての昼食だ。妹たちと話をしながらの食事は実に楽しい。私は、ちょっと疲れた顔をしているケイティに話しかける。


「ケイティは近くの教会に祈りに行ったのだろう? どうだった?」

「王都の外に出たのは初めてでしたので、新鮮な経験ができました。夕焼けの田園風景が綺麗でしたよ」

「それは良かった。王都の外に出れる機会はあまりないからな。フィルネツィアは広いので、北と南、東と西では景色も違う。楽しむといいさ」

「はい。そうしますわ」

「いいわねぇ、ケイティ姉上は。私も行政管理局の仕事で外に出れないかしら?」

「ハハ、それは難しいだろう」


 ふと、ターニャの方を見ると、ターニャも何やらあまり元気がない。食事もあまり進んでいないようだ。


「どうした、ターニャ? 体調でも崩したか?」

「いえ、魔術の練習疲れと言いますか、魔力切れと言いますか……。なかなか上手くいかないものです」

「そうなのか、私は魔術のことは分からないけど、体調を崩しては元も子もないぞ」

「そうよ、ターニャ。無理しちゃダメよ。そんなに大変なの?」

「そうですね、よく分からないことがありまして、試行錯誤しながら進めている状況なのです」


 そんなに魔術とは難しいものなのかと思ったところで、我ながら良い考えが浮かんだ。


「そうだ、ターニャ。ここにいる私の護衛のウェンディは、とても優れた魔術士だ。良ければ、悩みを聞いてヒントを与えるくらいはできるのではないかと思うのだが」

「えっ、それは、教えを請えれば助かりますが……」

「ただ一つだけ条件がある」

「はい? 条件ですか?」

「私はルフィーナと一戦、剣の試合をしたいのだ」


 ターニャの後ろに控えていたルフィーナがちょっと不意を突かれたように目を瞬いている。私の申し出にターニャも驚いたようで、いったんルフィーナを振り返ってから、私に問いかける。


「試合……ですか、ブレンダ姉様とルフィーナが?」

「そうだ。ルフィーナが素晴らしい剣士であることは聞いている。機会があればぜひ手合わせを頼みたいと思っていたのだ」


 私の後ろで控えていたウェンディが、たまりかねたように声を掛けてくる。


「ブレンダ様、お話中失礼いたします。突然そのような申し出をされても、ターニャ様もお困りになるでしょう」

「うむ、そうだな。済まない、ターニャ」


 私はウェンディからターニャに視線を移して、ひと言わびた上で話を続ける。


「条件として釣り合いが取れるかは、ひとまず持ち帰って検討してくれて構わない。ただ、ウェンディが教えれば解決するのか分からなければ、検討のしようもないだろう。差し支えなければ、悩んでるところを聞かせてくれないか?」


 私の言葉にターニャはちょっと考え込む。だが、私の母の実家が魔術大国エーレンスで、ウェンディもその教えを受けた魔術士であることはターニャも知っているはずだ。ルフィーナが私とちょっと手合わせするくらいで、悩みが一つ解決できると思えば、悪くない話のはずだ。


「分かりました。別に秘さねばならないことではありません。防御魔術を祈り無しで出すよう課題を与えられていて、悩んでいるのです」

「なるほど、それはそんなに難しいことなのか、ウェンディ?」


 私がまた振り返って尋ねると、ウェンディの目にちょっと驚きと戸惑いが見える。


「……できないことではありません。お教えすることも問題ないと思います」

「そうか、それは良かった。ではターニャ、ルフィーナと私の手合わせの件、ぜひ検討してほしい」




 後宮に戻ると、さすがにちょっと不満顔のウェンディがお茶を出してくれながら言う。


「ブレンダ様、あのような申し出をされるのであれば、せめて事前にお教えいただきませんと困ります」

「済まない、ウェンディ。あの時突然思い付いて、思わず口に出してしまったのだ。今後は気を付ける」

「お願いします。でも、私も良い考えと思います」


 そう言ってウェンディはちょっと微笑む。


「ただ手助けするだけでは、ターニャ様も受けづらいでしょう。でもブレンダ様が条件を付けたことで、貸し借りなしの手助けができますね」

「うん。ターニャにはもっと気兼ねなく頼って欲しいのだが、なかなかそうもいかないだろうしな。ところで、祈り無しに魔術を展開するのはそんなに大変なことなのか?」

「……はい。ただ、ちょっとしたコツがあるので、それさえ分かれば、後は才能次第というところです」

「才能次第? 誰でもできるわけではないのか?」

「はい。数十人に一人いるかどうか……。エーレンスの魔術士団でもそう多くはないと聞いています」

「そうなのか……。ガブリエラもひどい課題を出すものだな」


 私がそう言うと、ウェンディはちょっと考えて、また話し出す。


「いえ、ブレンダ様。ガブリエラ様は、ターニャ様ができると分かっているからこそ、課題として出したのでしょう。ターニャ様が魔術を学ぶのは王命です。できない課題を学ばせるはずはございません」

「なるほど、そうかもしれないな」

「熟練の魔術士でも難しいことを、魔術を学び始めて一ヶ月も経たないターニャ様の課題とするのです。ガブリエラ様がターニャ様の魔術の才能を高く評価している証拠でしょう」

「なるほど……。フィルネツィアの大魔女にそれほど評価されるとはな」

「私もお教えするのがちょっと楽しみになってきました」

やっぱり剣のことは忘れないブレンダでした。


※誤字を訂正しました(2017/11/30)

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