表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/129

(ケイティの視点)教会でのお祈り

 馬車に揺られて私が向かっているのは、ロイスナーという小さな町だ。王都から北東に馬車で数時間、王都からもっとも近い直轄地の町ということになる。

 女学校が休みの今日、とりあえず一番近い町の教会から始めようということになり、神事を執り行うために向かっているわけだが、ここまでこぎ着けるのが本当に大変だった。

 案の上、「ケイティが祈りに行くとなれば、聖堂から神官を引き連れ、荘厳で壮大な神事にしなくてはならぬ」とお爺さまが言い出し、それを止めるのがひと苦労だった。「最初ですし、小さな町の教会ですので大げさにはせず、感触を掴みたい」と説得して、何とか馬車数台の行列にとどめることができた。これでもずいぶんと大げさとは思うけど、荘厳で壮大にされるよりはマシだと諦めた。


「道がずいぶんと悪いですが、お気分は大丈夫ですか? ケイティお嬢様」

「大丈夫です、ロザリア。それにしても、王都からほど近いこのあたりの道ですら、このように荒れた状況なのですね。アグネーゼに頼んだ方が良いかしら?」

「え? あ、たしかに行政管理局のお仕事ですね。アグネーゼ様にお約束を取りますか?」

「フフ、冗談よ」


 ロザリアに調べてもらったアグネーゼの行政管理局の上司には、とくに怪しい点は見付けられなかった。王都出身の女性官僚で、貴族との怪しい繋がりもない。アグネーゼか望むように仕事をやらせているようで、何かの思惑が働いているような気配はない。そして、アグネーゼはずいぶんと楽しそうに働いているそうだ。


「アグネーゼが楽しく執務で取り組んでいるようで何よりですね」

「はい。おかしなことに巻き込まれていなくて良かったですね」


 それはまだ分からないし、巻き込まれるのではなくて自ら突っ込んでいくこともあるだろうと思いつつも口には出さず、私は窓の外の流れていく景色を眺める。もうすっかり田園風景だ。間もなくロイスナーの町のはずだ。




 ロイスナーの教会に着くと、神官たちの出迎えを受け、私とロザリアは教会の神官長室らしき部屋に通される。聖堂から連れてきた神官たちはさっそく馬車から荷物を下ろし、儀式を行う礼拝堂に運び込んでいる。


「ようこそいらっしゃいました、ケイティ王女殿下。私がロイスナー教会神官長のバリアスです。王族に神事を執り行っていただけるとは光栄の至りです」


 バリアス神官長の言葉に私はちょっと微笑んで頷く。私からは直接返事はせず、ロザリアが応える。


「急な申し出を受けていただいて助かります。王命によりケイティ様が神事を行いますので、今日はよろしくお願いします」


 直接は話をしないとか、なにやら偉そうだが、これが聖堂のしきたりらしい。というか、大司教が教会の者と話す時のルールらしく、直接は言葉を交わさないのだそうだ。私はそんなルールどうでもいいが、大司教が直接言葉を交わさないのに、さらに上の身分である王族が直答を許しては困るとお爺さまからくどいほどに念押しされた。


 とことん権威主義ですね。まぁ、教会側がそれを受け入れてるなら良いのですけど。


 一休みした後は、礼拝堂に移動して神事だ。礼拝堂の一段高いところで私が跪き、私の後ろには聖堂の神官たちが並んで跪く。


「天にまします我らが主たる全ての神々よ。願わくは尽きることのない平和をこの地にもたらしたまえ」


 私に続いて聖堂神官たちも祈りの言葉を復唱する。私は祈りのための神器である宝玉のちりばめられた短刀を捧げ、さらに祈りを続ける。


「我らが捧げるは切なる祈り。その深いご慈悲で我らを守りたまえ」


 捧げた短刀が強い光を放ったと思うと、その光が帯となって上へ伸びていく。光の帯は高い天井を突き抜けていく。おそらく天に届くのだろう。




 ロイスナーでの神事はつつがなく終わった。教会からは宴の用意をしていますと誘われたが、明日はまた学校なので長居は無用だ。

 王都への帰りの馬車に乗る頃にはすでに夕焼け模様で、急いで帰らなけば夜になってしまう。


「無事終わって良かったですね、ケイティお嬢様」

「ええ、ロザリアもお疲れ様」

「いえ、美しい神事が見られましたし、王都から出たのも初めてで、とても良い経験になりました」

「あら、そう言えば私も王都から出たのは初めてだわ」


 こんなことでもなければ王都を出る機会はなかったかもしれない。


「そう言えば、ケイティお嬢様。あの短剣から放たれた光は何なのでしょう?」

「あぁ、あれは魔力よ。私と神官たちから引き出された魔力を天の神々に奉納したわけよ」

「なるほど、それで光の帯が天に上っていったのですね」

「ええ、今度はロザリアも一緒にお祈りしてみますか?」

「よろしいのですか? ぜひやらせて下さい」


 目を輝かせるロザリアを微笑ましく思っていると、御者が少し速度を上げたようで、これまでよりも馬車の揺れを感じる。すでに外は夜の帳が降りかけているので、急ぐよう指示が出たのだろう。

ケイティも課題開始です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ