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(ブレンダの視点)別れ

 突然現れた空間の裂け目からルフィーナとアグネーゼが飛び出してきたのは良いものの、なかなかターニャが出てこなくてヤキモキした。


「間に合ったー!」ターニャが裂け目から飛び出てきて、草原に座り込んだ。無事で本当に良かった。


「ターニャ様!」

「ターニャ、大丈夫?」


 みながターニャを取り囲んで無事を確認する。どうやら怪我はないようだ。


「ターニャ、無事で良かった。ところで、アレクシウスはどうした?」私はターニャに尋ねた。

「え? ああ、ええと、アレクシウスは闇の世界に残りました」ターニャが慌ててポケットに何かを入れたように見えたが、気のせいかもしれない。


「そうか。それはなんというか……」思いもしなかった結末だ。ちょっとあっけなくも感じる。


「それはともかく、あ、クラインヴァイン!」とクラインヴァインを見付けたターニャが立ち上がって彼女の方へ歩き出す。

「何かしら?」とクラインヴァイン。ちょっとバツの悪そうな顔にも見えなくない。ターニャを巻き込んだことを悪く思っているのだろうか。


「アレクシウスが“よろしく”と言ってましたよ」

「よろしく? 何をかしら?」

「さあ、それは自分で考えてくださいませ」と言ってターニャはニッと笑った。


 自分を無の世界に放り込んだことの文句を言われると思っていたのであろう、クラインヴァインは目を丸くして呆気にとられている。


「さぁ、とにかく終わりました。早く私たちの世界に帰りましょう。イグナシオ様、お世話になりました。ヴィットリーオ、お願いできる?」ターニャがイグナシオに礼を言い、ヴィットリーオに渦を出すよう頼んだ。

「うむ。良い結果であったな」イグナシオが微笑む。

「では、帰りましょう」と言うとヴィットリーオは青い渦を出した。ずいぶんと魔力を消費していたようだが、まだ大丈夫なようだ。




 渦を出て戻った先はケイティの白百合離宮だった。もっとも心配しているのは姉妹で一人フィルネツィアに残ったケイティであろうから、ヴィットリーオはなかなか気が利いている。


「おかえりなさい、みんな」渦を抜けるとケイティが笑顔で出迎えてくれた。ケイティの後ろにはロザリアだけでなく、エレノアとコルヴタールもいる。ここに戻ると分かっていたかのようだ。二人とも無事に戻った私たちを見て喜んでいる。


「ただいま戻りました、ケイティ姉様。一人も怪我することなく帰ってきましたよ」

「良かったです。さぁ、お茶を用意させますのでみんな座ってください」

「私はエーレンスに――」と言い掛けたクラインヴァインの腕をターニャがガシッと掴んだ。「クラインヴァインには聞きたいこともありますので、もうちょっと付き合ってくださいませ」


 クラインヴァインは肩をすくめると、諦めてソファーに腰をおろした。


「では、どのような経緯だったのか、順に教えていただけますか?」ケイティが着席したみんなの顔を見回しながら尋ねた。代表して私が見たままを説明する。


「――というわけで、最後にターニャが無の世界から戻って、話は終わりというわけだ」

「なるほど。アレクシウスはその無の世界に残ったのですね?」

「はい」と頷くターニャ。落ち着かないのかソワソワしているようだ。「それはともかく、これでクラインヴァインも人間を滅ぼす理由はなくなりましたよね?」

「そうね。もう止めるわ。また自由な暮らしに戻るとするわ」

「ベアトリーチェの魔導書はどうするのです?」

「遺言だからね。あとで燃やしてあげるわ」


 ようやくここまで辿り着いた。長かったような、あっという間だったような、不思議な気分だ。

 私たち四姉妹とそれぞれの護衛がなんとなく達成感に浸っていると、ヴィットーリオがクラインヴァインに話しかける。


「クラインヴァイン、我は前から思っていたのだが、我らは天に上るべきだと思うのだ。この世界にあまり干渉すべきではないだろう」


 ヴィットリーオの目を見ながらクラインヴァインは少し考え込むと、「そうね」と頷いた。「アレクシウスもいなくなったことだし、天に行きましょうか」

「それが良いだろう」とパーヴェルホルトも同意する。「コルヴタールもだぞ」

「えー。……でもまぁ仕方ないか。天に行こう」ちょっと残念そうにコルヴタールも頷いた。

「ああ、この世界にはいつでも遊びに来られるから心配するな」

「そうだよね!」


 このまま天に上りそうな雰囲気だが、そうもいかないはずの者もいるはずだ。


「クラインヴァイン、エーレンスはどうするつもりだ?」私は聞いてみた。

「そうね。このまま私がいなくなると大混乱だから、ちょっと帰って芝居を打ってから天に上ることにするわ」

「芝居?」

「死んだ演技でもするわ。第一王子にとってもエーレンスにとっても、結婚する前の方が良いでしょう」

「そうかもしれないな」


 なにかやましいような気持ちになるが、クラインヴァインがエーレンスを出るにはたしかにそれしかなさそうだ。


「では、我ら三人は先に天に行くとしようか」ヴィットリーオが立ち上がった。一緒にパーヴェルホルト、ちょっとためらい気味にコルヴタールも立ち上がった。

「もう行くのか」

「早い方が良いのです」とヴィットリーオは私に微笑んだ。


 ヴィットリーオがターニャに深くお辞儀をしてこれまでの感謝を述べている横では、コルヴタールとエレノアが泣きながら抱き合って、別れを惜しんでいる。ずいぶんと仲良くなったものだと感心する。パーヴェルホルトは何か紙にメモしたものをアグネーゼに預けていた。きっとエルフリーデ宛の手紙に違いない。


「では、またお会いしましょう」とヴィットリーオが礼をしながら渦に入っていく。続いてパーヴェルホルトとコルヴタールも入り、渦は消えた。あっけない気もするが、ヴィットリーオが言うようにこういうのは早い方が良いのだと思う。


「じゃあ、私もいったんエーレンスに行くわ」とクラインヴァインも立ち上がった。そして、転移魔術を出しながら笑顔で私たちに言った。「私にとって人間はあくまで敵だったけど、あなたがた四姉妹に会ってその考えは変わったわ。みなの幸せを天から見守ってるわね」




 かつて悪魔と呼ばれていた四人がいなくなって、居間には私たち四姉妹とその護衛だけが残った。


「あの四人には本当に世話になりましたね、……あれ? 四人? そう言えばクローヴィンガーはどうしたのですか?」ターニャが思い出したかのように言った。

「表に出てきたがらない奴だから出てこなかったけど、ターニャたちの話し合いの場所を特定してもらったり、色々と役に立ってくれたわよ」アグネーゼが苦笑しながらフォローした。

「そうでしたか。彼とは結局、会えず終いでした」

「まぁまた会うこともあるでしょう」とアグネーゼは笑う。


 妹たちの平和な笑顔を見て、ようやく本当になにもかも終わったのだと実感した。

あっさりしたお別れでした。

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