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(アグネーゼの視点)話し合い その2

「揃ったみたいね」


 私は会談場所に目を凝らす。見知らぬ女神が一人転移で現れたので、あれがイグナシオなのだろう。


「強化してもらったおかげで良く見えるけど、声はどうなの?」視力を魔術で強化してもらわなければ豆粒程度にしか見えない距離に身を伏せているのだ。声などもちろん聞こえない。


「聴力も強化しよう」とパーヴェルホルトが言って、小さな魔術陣を展開する。「これから先はあまり大声を出さないようにな」


 魔術の光が私を包む。とくに変化は感じない。「変わったように感じないんだけど?」

「聞こうとすれば遠くの声も聞こえるようになったのだ。向こうに意識を集中してみろ」


 私は話し合いがスタートしたと思われる会談場所を凝視し、集中した。ターニャが話をしている。たしかに声が聞こえる。


「遥か遠くが見えて、聞こえるって変な感じね。自分の位置を見失いそうになるわ」

「俺もこの魔術を使うのは初めてだ」


 アレクシウスがすぐに席を立ちそうになったり、それをイグナシオが留めるたりするのを聞きながら、成り行きを注視する。


「とても和解しそうな雰囲気ではないわね」

「アレクシウスが自分の話をするとは珍しい」


 話を聞き続けていると、アレクシウスが光をまとい、なんとドラゴンに変身したではないか。


「ちょっと、パーヴェルホルト! どういうこと?」私は慌てて立ち上がりそうになったが、パーヴェルホルトが私の頭を押さえた。

「落ち着け。あれが本当の姿だと言っていたではないか」

「あ、攻撃し始めたわよ!」


 ヴィットリーオがブレンダ、ウェンディ、ルフィーナを守りながら後退していく。ターニャは留まって説得を試みるようだ。


「大丈夫かしら?」

「分からぬ」


 なんとか防御はしているようだ。クラインヴァインの反撃も激しく、あたりの草原があっという間に燃え尽きていく。


「鱗が秩序ってどういうことかしら?」アレクシウスの話が良く分からない。

「俺に聞かれても分かるはずないだろう」

「あれって、アレクシウスがおかしくなってるわけじゃないわよね?」

「おかしくはない。以前からよく分からぬことを言っていた」

「要するに性格的にきっちりしてないとダメってことかしらね」


 価値観や嗜好が異なるはおかしなことではない。人間だってみんな違う。


「あ、ターニャも飛んでるわ。飛行魔術まで使えるようになったのね」


 ターニャは飛びながら防御魔術陣を展開して、しかも説得を試みている。


「さて、恐れていた事態になったわけだが、どうする?」パーヴェルホルトが落ち着いた表情で私に問う。おそらくこうなるだろうと思っていたに違いない。

「打ち合わせ通りよ、まずはブレンダ姉上たちの救出ね」


 話し合いのメンバーが揃うまで時間があったので、色んなケースを想定しておいたのだが、最悪に近いパターンになりつつある。

 ドラゴン化したアレクシウスが空に飛び上がり、さらに激しく火球を撒き散らし始めた。クラインヴァインは光の矢を撃ちまくっているが、ターニャはいったんヴィットリーオのところまで退いたようだ。


「あ、マズいわね。テオドーラの剣を持ったということは、ターニャはまだ諦めてないのね」


 ターニャがブレンダから剣を受け取り、再びアレクシウスとクラインヴァインの方に飛んでいった。


「私たちも行くわよ、パーヴェルホルト」

「うむ」


 パーヴェルホルトが私を抱えて低く飛んでいく。目指すはヴィットリーオたちのところだ。すごい速さでちょっとだけ怖いけどそんなことを言ってる場合ではない。


「急いで! パーヴェルホルト!」

「喋ると舌を噛むぞ」


 ヴィットリーオは魔術陣を展開しつつ少しずつ後退している。ウェンディも魔力を注いでいるようだが、すでに周囲の草原は焼け落ち、さらに炎が降り注いでいる。


「大丈夫!? ヴィットリーオ?」


 炎の雨の中、ようやく私たちはヴィットリーオのもとに到着した。パーヴェルホルトも防御魔術陣を展開させる。


「アグネーゼ!? 来ていたのか!?」ブレンダが驚いているがその説明は後だ。


「もっと下がらないと危ないわ。あの丘のあたりまで後退しましょう。パーヴェルホルト!」

「うむ」


 パーヴェルホルトが私たちの足元に別の魔術陣を出すと、私たちの体が少し浮かび上がった。


「このまま下がるぞ」パーヴェルホルトの声とともに、私たちを乗せた形で魔術陣が動き出した。これならヴィットリーオが魔術陣を出したままでも動きやすい。私たちはまだ草が残っているあたりまで後退した。


「この辺まで下がれば大丈夫だろう。ヴィットリーオ大丈夫か?」

「ああ。ちょっと魔力を使いすぎたようだが、ウェンディ殿が協力してくれたので助かった」


 ヴィットリーオもウェンディも疲れ果てている。でも怪我などはしていないようで良かった。


「ああ! 危ない!」ブレンダが見つめる先はターニャだ。


 ドラゴンのアレクシウスは火球を吐きまくり、クラインヴァインは光の矢を放ち続けている。ターニャは防御魔術を展開しながら剣で火球を叩き落としている。近づきたくても近づけないようだ。


「いい加減にしてくださいぃ!」ターニャが火球をかいくぐり、アレクシウスに剣を浴びせる。太い首のあたりに剣が当たったようだが、鈍い音ともに跳ね返された。


「フフフ、テオドーラの剣ですか。剣では私の鱗は斬れませんよ」アレクシウスが首を振ると、頭の角がターニャの防御魔術陣に当たり、激しく火花を散らせた。

「むぅ!」ターニャはいったんちょっと下がったが、またがむしゃらに剣を振りながら突っ込んでいく。


「ああ、そんなに突っ込んではダメだ!」ブレンダの悲痛な声はターニャまでは届かない。

「もしかして、逆鱗を狙ってるのかしら?」私はターニャが首を狙って剣を振っているように見えた。

「おそらくそうだろう。女学校の祠のドラゴンの弱点もそうだったし」

「でも、それっぽい鱗はないわね」

「うむ、見えないだけなのかもしれないが、ここからでは確認できないな」


 ブレンダにはよく見えないかもしれないが、視力を強化してもらっている私が見ても逆鱗らしき鱗はない。このままではターニャが力尽きるのが先かもしれない。


「ええい、鬱陶しい」アレクシウスが首を振りながら火球を吐く。

「もとの姿に戻ってくださいませ、アレクシウス様!」

「これが元の姿です」


 激しく攻撃しているのはターニャだが、押されているのもターニャだ。まさか、テオドーラの剣さえ通さないほどに鱗が堅いとは。


 そう言えばクラインヴァインは?


 よく見るとクラインヴァインは少し離れた空中で静止している。目を凝らすと手に本を開いている。あれは魔導書だ!


「いけない! パーヴェルホルト、私をクラインヴァインのところに飛ばして!」

「なに!?」

「ベアトリーチェの魔導書を使おうとしているわ! ターニャが危ない!」


 パーヴェルホルトが魔術陣を展開し、槍を握りしめた私を光が包む。私はクラインヴァインの目の前の空中に転移したがもう遅かった。巨大な黒い魔術陣がアレクシウスの下に展開されて、ドラゴン化したアレクシウスを飲み込んでいく。


「ターニャ!」


 叫びなら突然現れた私を慌てて受け止めるクラインヴァイン。私はターニャがアレクシウスと一緒に黒い魔術陣に飲み込まれていくのを見ているしかなかった。

アレクシウスとターニャは黒い魔術陣に飲み込まれてしまいました。

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