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(ケイティの視点)アグネーゼの考え

 昼食の席で上機嫌だったのはターニャだけだった。明日にはアレクシウスとクラインヴァインを仲直りさせて、すべて終わりにすると意気込んでいる。


「ケイティ姉様とアグネーゼ姉様は吉報を待っていて下さい」にこやかにパンを頬張るターニャ。

「とにかく何が起きても四人の無事を優先させてくださいね。ヴィットリーオも頼みますよ」私は窓際で丸くなっている猫のヴィットリーオにも頼む。一言にゃあと鳴いたので、承知したということだろう。


 ブレンダはとくに何も言わずに、上機嫌に話し続けるターニャの話に相づちを打っている。本当はブレンダには行ってほしくないのだが、話の流れ上もう止めるのは無理だ。


 アグネーゼは何かを考え込んだように黙って食事をとっている。しかし、現タイミングで取れる手はないはずだ。


 すでにベアトリーチェを魔導書に封じてしまった以上、当初の計画であったクラインヴァインを封印することは不可能だ。ターニャに任せる以外になくなってしまったのは、私たちの失敗でもある。本当ならもっと二重三重に策を張り巡らせるべきだった。

 だが、話し合いが上手くいけばそれでいいし、万一上手くいかなくて戦いになっても、アレクシウスとクラインヴァインのどちらが勝っても人間の危機は去るだろう。ちょっと楽観的かもしれないが、どう転んでも大丈夫だと思う。


「ではブレンダ姉様、明朝お迎えに行きますのでよろしくお願いしますね」昼食を終えてターニャが立ち上がりながら言った。

「ああ、分かった。よろしく頼む」




 授業を終えると、本来なら離宮に帰るわけだが、なんとなくまっすぐ帰りたくなくて馬車を大聖堂に回してもらった。

 祭壇のある広い礼拝の間には誰もいない。お祈りでもしようと思ったけど、誰に祈れば良いのか分からない。


「ここにいたのね、ケイティ姉上」


 後ろから響く声に振り返れば、アグネーゼが腰に手を当てて立っている。「離宮に行ってもいないから探しちゃったわ」


 アグネーゼは今日もエレノアを連れていないようだ。片が付いたらコルヴタールの処遇も話し合わなくてはならないだろうとぼんやりと考えていると、ツカツカとアグネーゼが近寄ってきて、長椅子に腰掛けた。


「ケイティ姉上、パーヴェルホルトを貸してくれない?」

「パーヴェルホルトを? ……アグネーゼ、やっぱり何かするつもりなのですね?」


 黙ってターニャからの吉報を待つタイプではないと思っていたけど、やっぱり動くのですね。


「ええ。でも引っ掻き回そうってことじゃないわよ。四人を守るのにヴィットリーオだけじゃ足りないと思うのよ」


 話し合いに参加するブレンダ、ターニャ、ウェンディ、ルフィーナの四人は人間だ。何かあれば、ヴィットリーオに守ってもらわなければならない。学校でもそう念押ししたつもりだ。


「足りませんか? それより、ここでは何ですから離宮に行きましょう。ロザリア、馬車を回してください」


 聖堂では誰に話を聞かれるか分からない。私たちは馬車に乗り、白百合離宮に向かう。屋敷には入らず、そのまま離れの建物に入った。


「二人のうちどちらかは来ると思っていたが、二人とも来たか」


 パーヴェルホルトは私たちが来るのを予見していたようだ。


「私は別に話はないのですが、アグネーゼが話をしたいそうです」私はアグネーゼに話を任せることにした。

「なるほど、では別の世界に行きたいのはアグネーゼの方か」

「ええ、良く分かったわね」

「このタイミングなら、それ以外にないだろう」パーヴェルホルトは少し苦笑した。

「クラインヴァインは、あなたが気配を消すのが得意だと言っていたわ」

「まあそうだな」

「あらかじめ別の世界に潜んでおけば、アレクシウスとクラインヴァインに気取られないようにできて?」

「あまり近寄れば気付かれるだろうが、ある程度離れれば不可能ではない」

「じゃ、決まりね。今夜出発するから」

「ちょっと待ってください」話が決まりそうなので私はひとまず止める。「いったい何をするつもりですか?」


 大聖堂で言っていたように四人を守るためだけなら、アグネーゼが行かなくてもパーヴェルホルトだけ行ってもらっても良いはずだ。狙いがあるのではないか?


「本当に四人を守るためよ。あの二人が暴れ始めたら私がどう動こうと止まらないでしょ?」アグネーゼがパーヴェルホルトに同意を求めた。

「そうだな。アレクシウスが戦っている姿は見たことがないから何とも言えぬが、クラインヴァインとは互角だろう」


 だが、クラインヴァインはベアトリーチェの魔導書を手にした。その分は有利かもしれないとパーヴェルホルトは付け加えた。


「どうにもならないほど戦いが激化したら、ヴィットリーオだけで四人は守り切れないかもしれないでしょ。パーヴェルホルトに、それにクローヴィンガーの協力も必要になるかもしれないわ」

「そう言えばクローヴィンガーもいるのでしたね」

「ええ、話し合い前に行って、彼とも話を付けておくわ。そういう根回しには私が必要でしょ」

「でも、アグネーゼが危険ではありませんか?」

「危険がないとは言えないけど、切り札もあるのよ」アグネーゼがニッと笑って、ちょっと大きめなバッグから一本の槍を取り出した。「アルヴァルドの槍よ」


 後宮の食堂でアグネーゼが貫かれた槍だ。古びた短い木の槍にしか見えないが、魔を封じる力がある。


「持っていたのか」パーヴェルホルトが物珍しそうに槍を見た。

「ええ。コルちゃんが封じられていたのと同じ槍よ。ターニャの話によれば、アレクシウスが持ってたらしいんだけど、あなた方神々は基本的にこの槍には触れられないんでしょ?」

「ああ、触れぬ」


 そうだっのか。であれば、アグネーゼの治療をしたクラインヴァインが槍を取り上げなかったのも分かる。


「念のためこれを持っていくわ。あとはブレンダ姉上がテオドーラの剣を持ってる。この二つがあれば最悪の場合にも展開を変えることができるかもしれない」

「なるほど。それであなたが行く必要があるというのですね」

「ええ」


 そこまで考えているのであれば、もう何も言う必要はないだろう。


「ホントはブレンダ姉上には残ってほしかったんだけど、そういうわけにもいかないだろうから、万一の場合にはフィルネツィアを頼むわね、ケイティ姉上」アグネーゼは真面目な顔で言った。

「万一なんて絶対にダメですよ。必ずみな無事で戻ってください。パーヴェルホルトも頼みます」

「最善を尽くそう」


 アグネーゼが白百合離宮に泊まると桔梗離宮に使いを出し、アグネーゼとパーヴェルホルトの出発直前まで色々なケースを想定してその時に取るべき行動について検討した。そうそう想定通りにはいかないだろうが、こうしてある程度考えておけば事態の急変にも対応しやすいだろう。

やっぱりアグネーゼも話し合いの場に行くようです。

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