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(ターニャの視点)「フィルネツィアの大魔女」との再会

「お久しぶりです、ガブリエラ。我が師として魔術の道をお導きください」

「まぁ、ターニャ様。王族が臣下の者にそのようなかしこまった言葉遣いはよろしくありませんでしてよ、といっても、この場合、私が師になるわけだから良いのか。こちらこそよろしくお願いするわ、ターニャ」


 私がことさら丁寧に再会の挨拶をすると、ガブリエラは最初こそ王族への敬意を表しながらもすぐに態度を崩した。でもヴィーシュで会っていた頃もこのようなくだけた感じだったし、とくに違和感はない。逆に、敬われると裏に何かあるのではと勘繰りたくなる。


「王都にきて、ずいぶんと垢抜けたかしら? 私の中でのターニャのイメージは、野山を走り回ってる、やんちゃ娘だったんだけど」

「最後にお会いしてから何年も経っています。それなりに成長したとお考えいただいてもよろしいですよ」


 ガブリエラは、艶のある濃紺のロングヘアーに切れ長の目が大人の色気を感じさせるし、常にこちらをからかっているような目にも見える。モデルのようなバランスの取れたスタイルも人の目を惹きつける。


 母と同じ年齢のはずなので四十近いはずなのだけど、どう見ても二十代にしか見えませんね……。


「最後に会って三年くらいかしら。マリアベーラはお元気?」

「ええ、母は元気です。私と一緒に王都に来ようとしていたくらいですよ」

「フフフ、マリアベーラらしいわ。ターニャのことが心配なのね」

「でも、さすがに王都の暑さは身体に良くないと周りから止められて、ようやく諦めてくれました」

「そうね、暑さも良くないし、なにより王都は彼女のような心の綺麗な人が暮らすところではないわ」


 では、王都に住んでるガブリエラは……とは言わない。


「ルフィーナも元気そうね。少しは強くなったかしら?」

「……おかげさまで。今度ガブリエラ様の使い魔とぜひお手合わせさせてください」

「まぁ、ずいぶん自信があるのね、フフフ」


 ガブリエラは私の後ろに立っているルフィーナを見ながら楽しそうに尋ねる。ルフィーナも表面上は微笑んでいるが、目が笑ってない。

 世間話もそこそこにガブリエラが本題を切り出す。


「さて、本題ね。ターニャに魔術を教えるよう王命が下ったので、これから一年掛けて教えていくわね。といっても、私は王立魔術士団で忙しいし、ターニャも学校があるでしょう。付きっきりで教えられないのは残念だけど、課題をクリアしていく形で学んでいってもらうわ」


 ずっと一緒でなくて私は安心したが、そうした素振りは見せない。


「かしこまりました。最初は何をいたしましょう?」

「まぁ、せっかちね。フフフ。やる気があるのは良いけど、その前にいくつか確認しなくてはいけないことがあるわ」

「……なんでしょう?」

「ターニャは次期王を目指すつもりはあるのかしら?」


 正直に答えるのが良いのか、正解があるのかを考えて、ちょっと躊躇っていると、私の答えを待たずにガブリエラは続ける。


「まぁ、ピンとこないわよね。まだ十五歳だし。でも覚えておいて欲しいのは、王命に従って課題を進めていけば、あなたの意志に関わらず、次期王を目指していると周りは解釈するってことよ」

「……そうでしょうね」

「そうすると、あなたの周りにはあなたを王に押し上げて、恩恵を受けようという貴族たちが群がってくることもあると思う。もちろん、ヴィーシュ候に近づく貴族も増えるでしょう」

「……はい」

「あなたもヴィーシュ候も、ことによってはマリアベーラも政争に巻き込まれかねない。王からの課題があるので、表だった争いにはならないでしょうけど、裏では多くの勢力がぶつかることになるでしょう。ヴィーシュを巻き込んでも進んでいく覚悟はあって?」


 その可能性はすでにルフィーナから指摘されていたけど、それ以上に深くは考えなかった。王命を果たす過程で何か起きても、それは私が解決していくしかない。私に何ができるか分からないけど、そういう意味では覚悟はある。


「……与えられた課題は果たすつもりです」

「フフフ、少しは成長したようね。では課題を与える前にもう一つ。魔力を見せてもらうわ」

「魔力を?」

「そうあなたが持っている魔力を見せてもらわないと課題の出しようがないからね。さぁ、手を出して」


 私がガブリエラの差し出した手に自分の手を重ねると、魔力がスッと引き出される感触があった。


「わっ!」

「ふむ、なるほど。やっぱりそうか」


 ガブリエラは何か納得しているようだが、何がなるほどなのか分からない。


「あなたの魔力はよく分かったわ。じゃ、あなたにはこれを練習してもらうわ」


 そう言うとガブリエラは立ち上がって、神への祈りを唱え始める。


「水を司る女神ティートよ、我の祈りがきこえせば、その守護の御力を貸したまえ」


 祈りとともにガブリエラの前に魔術陣が展開される。丸く青い光を放つ、複雑で美しい魔術陣だ。


「これは?」

「守護魔術よ。他の属性もあるけど、まずは水属性の守護魔術を練習してね」

「なぜ水なのです?」

「火の攻撃魔術を使う魔術士が多いからよ」


 水だけあって、火の魔術を打ち消すらしい。


「でも、ただ練習するだけじゃダメよ。最終的には祈り無しで出せるようになってね。期限は一ヶ月よ」

「え? 祈らなくても出せるのですか?」

「出せるわよ」


 ガブリエラは出していた水の守護魔術陣を消し、今度は祈ることなく、赤や緑の魔術陣を展開した。赤は火属性で、緑は風属性の守護魔術なのだろうか。


「ね? だいたい、身を守るための魔術なのに、ノンビリ祈ってたら間に合わないでしょ」

「……祈らないやり方は教えてくれないのですか?」

「フフ、こればっかりはたくさん練習して、自分で掴むしかないわ。あなたに才能があればできるわよ」

「……才能ですか」


 私に才能があるんだろうかと考えかけると、いつの間にやらガブリエラの目が、人をからかう目になっている。これ以上質問しても無駄だろう。


「分かりました。努力します」

「じゃ、この魔術本を持っていってね。これを読めばたいていのことは理解できると思うから」


 分厚い魔術本を受け取り、私とルフィーナはガブリエラの屋敷を辞した。

魔術の課題です。

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