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(ケイティの視点)ベアトリーチェの魔導書 その2

「あら? パーヴェルホルトじゃないの。どうしてここに?」


 部屋に入ってきてパーヴェルホルトを見付けたアグネーゼが目を丸くした。一緒にいたコルヴタールが「パー兄だー!」と飛び付いた。


「その話は改めてにしましょう。用事があって来たのでしょう?」パーヴェルホルトの事を話すと長くなるので、私は先に用事を促した。

「そうそう」と言って、エレノアから受け取った手紙を私に見せるアグネーゼ。「クローヴィンガーからコルちゃんに手紙が来たのよ」

「ああ、その手紙なら先ほどパーヴェルホルトのところにも届きました。ベアトリーチェに追われているようですね」

「なんだ、じゃ、話は早いわ。さっそく行くわよ、ケイティ姉上」

「はい?」

「パーヴェルホルトもね。例の渦よろしく!」




 ということで私たちは再び別の世界、通称ベータにやってきた。転移魔術でクローヴィンガーのもとに転移すると、疲れ果てた顔で大きな木にもたれかかっていた。疲れたおじさんにしか見えない。


「クロたん、大丈夫?」コルヴタールが心配そうにクローヴィンガーに駆け寄る。

「パーヴェルホルト、周りを警戒して。ベアトリーチェの気配がしたらすぐに教えてね」アグネーゼはそう言うと、クローヴィンガーに話しかけた。「ねぇクローヴィンガー、ベアトリーチェは前にあなたを追ってきた時と違いなかった?」

「ああ、どうだろう? とにかく攻撃魔術を連発してくるので、逃げるのに精一杯でな。今ここまで逃げてきたところなんで、しばらくは大丈夫だと思うよ」


 どうやら攻撃魔術を連発して、魔力が尽きると止まるらしい。魔力が溜まるとまた追い掛け始めるらしい。


「その魔力が尽きてる時にあなたが攻撃すれば、ベアトリーチェは避けようがないんじゃないの?」

「まあそうだけど、俺から攻撃するのは嫌なんだ。なんとか諦めてくれないかな」


 そう言えばクローヴィンガーは戦いを好まないと聞いている。だが、自分が命を狙われていても戦わないとは、ずいぶんと平和的な悪魔だ。


「でも、おかしいわね」アグネーゼが首を傾げる。「魔力が尽きるほど攻撃魔術を連発って、作戦としてどうなのかしら? クローヴィンガーはともかく、普通は魔力が尽きたところで反撃を受けることを考えるわよね?」

「そうですね。クローヴィンガーだからと油断してるのでしょうか?」

「あるいは、もう以前のベアトリーチェではないのかもしれぬ」周りを警戒しながらパーヴェルホルトが会話に入ってきた。「以前の奴は、話も聞かずに攻撃してくるようなことはなかった。もっと余裕があった」


 となると、いきなりコルヴタールに槍を撃った時にはもう変わってしまっていたのかもしれない。


「ベアトリーチェは封印するしかないようね」アグネーゼが皆を見回しながら言う。「エレノア、あれをケイティ姉上に」


 エレノアが私に一冊の本を渡す。何の変哲もない本だ。フィルネツィア史について書かれているようだ。


「この本が何か?」

「ベアトリーチェをその本に封印するのよ。どうやら本の種類は何でも良いみたいなので、手近にあった本を持ってきたの」

「なるほど、たしかにクラインヴァインはそのようなことを言っていました」

「なので、ケイティ姉上。それにベアトリーチェを封印してほしいの」


 と言われても封印の魔術はかなり難しい。展開にとても時間が掛かるし、その間に攻撃を受ければ防御できない。


「パーヴェルホルトとロザリアがケイティ姉上の防御で、私とエレノアが攻撃してベアトリーチェの気を逸らすわ。コルちゃんはクローヴィンガーを守ってやってね」

「うん!」

「それではあなたが危険ではありませんか? アグネーゼ」


 攻撃と簡単に言うが、攻撃すれば反撃されるはずだ。


「そうね。でも多分、ベアトリーチェは封印の魔術を展開するケイティ姉上を狙ってくると思う。パーヴェルホルトがいてくれて良かったわ。ロザリアと二人でケイティ姉上を守ってね」

「分かった」

「さぁ、クローヴィンガー。もうひと仕事よ。さっきまで戦っていたという場所に連れて行ってね。

「ああ、分かったよ」

「まずは話をしてみたいけど、応じてくれないようならすぐに戦闘になるわ。みんな気を付けて」




 しばらく歩くとその場に着いたのがすぐに分かった。木が倒れたり、地面が剥き出しになったりしている。ベアトリーチェの魔術の跡だろう。私たちはベアトリーチェを探す。


「誰を探しているのかしら?」


 頭上から声がした。ベアトリーチェだ。ゆっくりと私たちの前に降りてきた。飛んでいたと言うことはもう魔力が回復しているのかしら?


「あなたを探していたのよ、ベアトリーチェ」アグネーゼが応えた。「久しぶりね」


 目の前に立つベアトリーチェの体から魔力のオーラが出ているように見える。詳しくは分からないが、もしかすると魔力が暴走しているのかもしれない。


「話をする余裕はあるかしら? ベアトリーチェ?」と問うアグネーゼに、ベアトリーチェは不敵な笑みで返した。

「話す必要はないわ」


 そう言うとベアトリーチェの周囲に魔術陣が展開され始めた。


「エレノア!」とアグネーゼが声を上げると同時にエレノアが剣を抜いてベアトリーチェに斬りかかった。凄い速さだ。だが、彼女を取り囲む魔術陣がそれを弾く。

 返すようにベアトリーチェの魔術陣が光り、周囲に攻撃魔術を撃ち出す。私たちはそれを避けるように少し下がった。


「はっ!」アグネーゼが弓を構えると、素早く矢をつがえて撃ち出した。矢はベアトリーチェの魔術陣に弾かれる。そこにすかさずエレノアが剣を打ち込んだ。魔術陣がベアトリーチェを守ったが、反撃の隙を与えない攻撃にベアトリーチェが怯んでいるようだ。


「ケイティお嬢様」ロザリアの言葉に私は頷き、本を開いて封印の魔術を展開し始める。


「!」それに気付いたようにベアトリーチェがこちらに向けて攻撃魔術の雨を降らせてきた。パーヴェルホルトが防御魔術ですべて防いでくれるが、凄い攻撃の勢いだ。


「こちらを忘れてもらっては困るわね!」アグネーゼとエレノアの連携攻撃が再びベアトリーチェを襲うと、また防御に手一杯になったようだ。


「くっ!」ベアトリーチェが苦しそうに後ずさりしている。


 攻撃がこないのは助かるけど、あまり離れすぎると封印の魔術が届かなくなる。アグネーゼとエレノアはその辺も考慮して戦ってくれているようだ。


 また隙を見てベアトリーチェが攻撃魔術を撃つ。四方に広がる範囲魔法だ。こんなに強力な魔術を使い続けられるものなのだろうか? 私の祈りの言葉はまだ半ばだ。耐えてもらうしかない。


 アグネーゼの放った矢が魔術陣に跳ね返されたところに、エレノアが踏み込み剣を繰り出す。よくエレノアに矢が当たらないものだと感心するが、感心している場合ではない。


「エレノア! 気を付けて!」アグネーゼが矢をつがえつつ叫んだ。ベアトリーチェの魔術陣から二本の剣が現れ、ベアトリーチェは両手に剣を持った。まさか剣術もできるのか?


「フフフ」ベアトリーチェは笑いながら、エレノアに双剣を繰り出す。途端にエレノアが押され始めた。アグネーゼの矢は魔術陣に防がれている。


「私もいきます!」ロザリアがパーヴェルホルトの防御陣から飛び出し、エレノアの助勢に向かった。


 エレノアとロザリア、二人の剣を相手にしてもベアトリーチェは余裕に見える。攻撃を防ぎつつ、転回しては二人に剣を浴びせる。


 キィィン!とエレノア、ロザリアの剣を弾いたベアトリーチェが一転、アグネーゼに向かって駆けだした。周囲に攻撃魔術を撃ちまくりながら急速にアグネーゼに向かって距離を詰める。


「アグネーゼ様!」エレノアの叫びが響く。

戦闘が続きます。


その3は明日です。

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