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(アグネーゼの視点)王都への帰還

 私たちはとりあえずロスヴァイクの教会に戻ってきた。ベアトリーチェが別の世界に居ることが分かったので私もフィルネツィアに帰るつもりだが、エルフリーデにパーヴェルホルトを借りたお礼を言っておきたいところだ。


「お疲れ様でした、パーヴェルホルト、コルちゃん。助かりました」パーヴェルホルトの部屋のソファーに座りながらケイティがお礼を言った。「二人のおかげで先に進めそうです」


 ケイティの言うとおり、これで見通しが立ってきた。後はいかにアレクシウスをおびき出すかだが、ある程度は考えているし、ケイティにも考えはあるだろう。

 エレノアとロザリアがみなにお茶をいれてくれたので、私はそれをひと口飲んだ。


「今はお昼くらいね。といっても、出発して何日経ったのかしら?」

「おそらく、二日か三日というところだと思う」パーヴェルホルトが言う。


「三日後ですよ」と言いながら扉を開け、エルフリーデが部屋に入ってきた。今日は護衛も連れている。


 私たちは立ち上がって礼を執る。「エルフリーデ王女、パーヴェルホルトの協力を感謝します。ありがとうございました」

「いいえ、こちらこそブレンダ様にお返しできないほどのご恩を受けてしまいました」と言ってエルフリーデは微笑んだ。

「ブレンダ姉上から?」


 なんと、昨日ついに第一王子との内戦が起きてしまい、ブレンダの支援を受けたエルフリーデ側が勝利したそうだ。


「それは……、フィルネツィアとしての援軍ではなく、ブレンダお姉様の独断なのですか?」ケイティが目を丸くしている。

「国元の許可は存じませんが、傭兵としてとおっしゃいました。皆さん黒いマントをかぶって」


 ケイティが言葉を失っているが、私も驚きのあまり口が開いていた。これが独断専行なら大変なことだ。そしておそらく、ブレンダは私たちのためにエルフリーデに援軍を出す決断をしたに違いない。これは急いで王都に帰ってブレンダを擁護しなくてはならないかもしれない。


「パーヴェルホルト」エルフリーデは座ったままのパーヴェルホルトの前に立った。「怒ってますか?」

「……いや、無事で良かった」


 怒ることなどないように思うが、二人の世界に口を出してはいけないと思って、私たちはちょっと下がった。


「お前は出陣前に必ず俺からのお守りを外してしまうだろうと思っていたよ」

「それで私に内緒で防御魔術を掛けておいたのですね」

「そうだ。発動したということは、やはり危なかったのか」

「ええ、討たれる寸前でした。……ありがとう」エルフリーデは目に大粒の涙を溜めている。


 パーヴェルホルトが立ち上がったところで、私は皆を部屋から外に押し出した。エルフリーデの護衛も今は必要ないだろう。エレノアとコルヴタールが名残惜しそうに振り返っているが、抱き合う二人に観客はいらないでしょ。




「さぁ、コルちゃん、帰るわよ」

「うん。エーレンスへ?」

「いえ、フィルネツィアよ。ベアトリーチェがターニャの中にいないことも分かったし」

「分かった。みんな一緒にあの広間でいいかな?」

「ええ、よろしくね」


 コルヴタールが転移魔術を展開し、私たち五人はフィルネツィアに戻った。王宮の広間に着くと、エレノアとコルヴタールにはとりあえず私の部屋に行っているよう話し、私はケイティと国王陛下に会うことにする。広間にいた文官に尋ねると、国王陛下はブレンダと私室にいるらしい。

 部屋の前にいた護衛の騎士に取り次ぎを頼むと、中に通された。


「ケイティ、アグネーゼ、無事で良かった」ブレンダが喜んで迎えてくれる。ブレンダは鎧を着たままだ。イェーリングから戻ったばかりなのだろう。

 国王陛下も気持ちホッとした表情に見える。「二人ともよく戻った。さぁ、座ると良い。別の世界とやらの話を聞かせてくれ」


 私は別の世界で見てきたことを国王陛下とブレンダに報告した。こうした報告は苦手なのだが、ケイティがちょいちょい補足してくれたので分かりやすく報告できたと思う。


「それで、ゼーネハイトに戻ってブレンダ姉上のことを聞き、急いで帰ってきたんです。ブレンダ姉上は私たちのことを考えて、エルフリーデ王女に助力してくれたのだと思います。なにとぞ寛大なご処置を」と私は国王陛下に頭を下げた。

 国王陛下はブレンダとちょっと顔を見合わせ、微笑んで言った。「心配はいらない。ブレンダを処罰するつもりはない」

「そうなのですか?」

「うむ。状況をよく見て、フィルネツィアにとって最良の選択をしたと褒めたところだ」


 なんだ、独断専行、無断出兵の咎を問われるものだとばかり思っていた。お咎めなしなら良かった。


「ケイティ、アグネーゼ、ありがとう」ブレンダがちょっとはにかんだように笑って言葉を続ける。「私を心配して急いで戻ってくれたのだな。あの時、エルフリーデ王女への助力を決めたのはたしかに二人のこともあったけど、フィルネツィアのことを考えての選択だ。国王陛下は分かってくださると思っていたよ」

「良かったわ。エルフリーデ王女はきっと平和な国作りを進めてくれると思うわ。フィルネツィアの良い友人になるはずよ」

「私もそれを望んでいるよ」


 イェーリングに出兵していた軍も順次王都へ戻っているところだそうだ。これでまたしばらくは平和な日常へ戻るに違いない。もっとも、私たちに平和を謳歌している暇はないのだけど。


 仮に別世界ベータを戦いの場と定めるとして、どうやってアレクシウスをおびき出すかについて、改めて話し合いをすることになった。夏まではまだ三ヶ月ほどあるが、実行は早い方が良い。後日それぞれの案を持ち寄って検討をしようと決めた。

 国王陛下とブレンダとの面会を終えるとすでに夕方になっていた。部屋に戻る前にターニャと話がしたいと思ったら、桔梗離宮にいるとのことでどうするか考える。


「ケイティ姉上、悪いんだけど桔梗離宮に送ってもらえないかな? コルちゃんと再会させる前に、一度ターニャと話しておきたいんだよね」

「良いですよ。私もターニャに確認しておきたいことがあるのです。一緒に行きましょう」

アグネーゼが久しぶりに王都に帰ってきました。

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