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(ターニャの視点)王都での日

 エーレンスから転移魔術で桔梗離宮に戻るとすっかり夜になっていた。

 アレクシウスのことを考えようと思ったのだけど、明日は学校だ。夕食をとって、お風呂に入って、明日の支度をしたら、もう寝なくてはならない時間だ。


「考えるのは明日にしましょう。今日はお疲れ様でした、ルフィーナ、ヴィットリーオ」

「おやすみなさいませ、ターニャ様」




 朝起きると何やら離宮内が慌ただしい。ルチアによれば、またゼーネハイトが戦争を仕掛けてきそうな雰囲気らしい。


「先ほど、ブレンダ様からのお使いが来て、迎撃準備のためイェーリングへ向かうが、ターニャお嬢様はいつも通りに過ごされるようにと」

「いつも通り……どのような暮らしがいつも通りなのかよく分からなくなってきました」

「学校へ行きなさいということでしょうね」

「そうですね。戦争で私が役に立てることはありません」


 離宮が慌ただしいのは、イェーリングへの戦時物資の提供を依頼されているからだそうだ。突然の出兵なので何もかも足りないらしい。できる限りの提供をルチアに頼んで食堂へ向かう。


「ヴィットリーオはどうしたのですか?」食事をとりながらヴィットリーオがいないことに気付き、ルフィーナに尋ねた。

「少々用事ができたとかで出掛けました」

「昨日はずいぶんおかしなことになっていましたけど、自由なところは相変わらずですね」


 私のことを女神とか言い出したときは頭がおかしくなったのかと思った。


「今朝も同じでしたよ。ターニャ様のために出掛けて参ります、と言ってましたから」


 ああ、そうですか……。私のために動いてくれるのはありがたいが、崇めるようなのは怖いので止めてほしいものだ。




 久しぶりの学校ではあったけど、休んだ分を勉強していたおかげで何とか授業には付いていけるようだ。ちょっと安心した。礼儀の実技で何度かやり直しをさせられたのはルチアには内緒だけど。


「私がいないことはあっても、私しかいないというのは珍しいんじゃないですかね」


 昼食のために部屋を移ると、私一人での食事だ。ブレンダはイェーリングへ、ケイティとアグネーゼは別の世界とやらに行っているらしい。


「それにしても、また戦争とはうんざりですね」

「はい」私に給仕してくれながらルフィーナが答える。「昨年フィルネツィアに負けたばかりなのに、すぐまた戦争とはちょっと考えられませんね」


 昨年の戦争でゼーネハイトが受けた損害は大変なものだったはずだ。わずか数カ月で戦争ができるほどゼーネハイトは豊かな国ではないらしい。


「戦いが好きな方がいるんでしょうね。私には考えられません」

「本当に。ターニャ様がもっと勉強に集中できる、平和な世界になってほしいですね」

「……勉強はともかく、平和が一番です」


 眠い目をこすりながら午後の授業を終えて離宮に帰ると、ようやく考えごとができる時間だ。ケイティとアグネーゼの提案よりも前に動くためには、アレクシウスをどう説得するか考えなくてはならない。


「普通に、争いは止めてください、と言っても聞いてくれませんよね?」

「そう思います」

「誠心誠意、心を込めて言ってもダメですかね?」

「神が人の心を理解してくれるのかどうか、私には分かりません」ルフィーナが首を振った。

「クラインヴァインもヴィットリーオも感情面は人間に近いじゃないですか」コルヴタールも表情豊かな子だった。「分かってくれると思いますけど、なにか一つ決め手が必要な気もしています」


 扉をノックする音が響き、ヴィットリーオが入ってきた。


「お疲れ様、ヴィットリーオ。どこに行っていたのですか?」

「ベアトリーチェを探していました」とヴィットリーオ。「ようやく居場所が分かりました」

「へー、どこに居たのですか?」

「こことは別の世界です」

「……別の世界ですか」何度かその単語は聞いているし、実際に私も行ったわけだけど、意味がよく分からない。


「たくさん世界が存在しているのです。普段は見えませんし、簡単には行くこともできませんから、気付かないだけなのです」

「たくさんの中からベアトリーチェがいるところを見つけ出したのですか?」

「はい。大変苦労しましたが、何とか見付けだしました。直接会えたわけではありませんが、確実に居ることは確認できました。どういたしますか?」


 どうと言われても今はアレクシウスをどう説得するかで頭がいっぱいだ。


「今はちょっと考えられないので、どうしようもないですね。居なくなっちゃったりしますか?」

「移動してしまう可能性はありますが、とりあえずは見張り役が居ましたので、移動すれば分かるようにはしてあります」

「見張り役? 別の世界にも人が居るのですか?」

「いえ、人は居ませんでしたが、その世界にクローヴィンガーがいましたので頼んでおきました」


 五人目か。偶然もあるものだ。というか、クローヴィンガーがなんでそんなところにいるんだろうか?


「クローヴィンガーは争いが嫌いなのです。以前、クラインヴァインが人間を滅ぼそうとした時も彼だけはほとんど協力しませんでした」

「なるほど。それで別の世界に篭もってるのですね」


 それにしてもヴィットリーオはずいぶん色々と話してくれる。隠しごとは止めたと言っていたけど本当のようだ。


「そう言えば、クローヴィンガーはケイティ様とアグネーゼ様にもお会いしたと言っていました」

「姉様たちと?」

「はい。クラインヴァインとアレクシウスを戦わせる場所を探していたそうです。そこの世界はなかなか有力だと言っていたようですよ」

「なるほど」


 となると、姉様たちの作戦は着々と進んでいるということだろうか。戦わせる前に説得したいのだ。


「ケイティ姉様も王都に戻ってきているでしょうか?」

「どうでしょう? 別の世界は行き来に時間が掛かるのです。どんなに早くても明日か明後日あたりではないでしょうか?」

「あら? 行き来に時間が掛かるのに、ヴィットリーオはすぐに戻ってきたのですね」

「ほう」と言ってヴィットリーオはニヤッと笑った。「さすがです、ターニャ様」


 ヴィットリーオの説明によれば、通常、私たちの居るこの世界とその世界を行き来するだけでも何時間も掛かるのだが、ヴィットリーオはすぐに移動できる手法を知っているのだそうだ。


「実は、ベアトリーチェがアレクシウスから教わったという方法なのです。又聞きなので詳しくは分からないのですが、魔力を必要とする代わりに時間を短縮できるのです」


 なるほど。アレクシウスは知っていて、クラインヴァインたちは知らない方法ということなのだろうか。何かちょっと嫌な感じがしたけど、何が嫌なのかすぐには思い当たらなかった。

ターニャが普段の暮らしに戻りました。


次話はブレンダです。

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