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(ブレンダの視点)戦争へ その1

「騎士団第五隊! 転移準備急げ!」

「魔術士団イリーナ隊は魔術展開位置に移動!」

「平軍第三師団がブートリア到着の報あり! 第四師団も急がせろ!」


 双鷲の堂舎の中庭は、普段は主に騎士たちの訓練場として使われているが、有事には騎士を集合させたり転移させたりするための場所に変わる。

 中庭に臨時で設けられた司令所には騎士団、魔術士団からの報告が次々と上がってくる。騎士団長代行である私と魔術士団長のガブリエラは報告を受けつつ、次々と指示を出していく。


「順調だな」報告が一段落したところで私はホッと一息ついた。

「ブレンダ様の支度も完了しています」ウェンディがニコッと微笑む。殺伐とした雰囲気の中でもホッとさせてくれる笑顔だ。

「第七隊が転移したら私たちの番だな」

「ええ。ガブリエラ様は今日の最後の便ですね」転移順の書かれたタイムテーブルを見ながらウェンディが言う。


 ゼーネハイトで大規模な軍の動きがあるとの報告が王都に入ったのは今朝のことだ。ゼーネハイトの首都アルテランタ近郊に数個師団規模の平軍と騎士団、魔術士団の姿も確認できたという。


 昨年イェーリングに侵攻してきた時並の軍勢である。そして今、ゼーネハイトは周囲に敵対する国を持っていない。攻めるとすればフィルネツィア以外にない。


「昨年あれだけの損害を受けてなお戦争をしようというのは、ちょっと考えられませんね」司令所で隣席に陣取るガブリエラも一息ついたようで、私に話しかけてきた。

「何度攻めてこようと撃退するまでだ」


 昨年の戦争では兄にくっ付いて見ているだけだったが、今回は違う。騎士団を統括し、私自身も戦う立場だ。報を受けた時には思わず兄の仇をとる好機!と血が沸きそうになったけど、私は私怨ではなくフィルネツィアのために動くのだ。


「和睦をして間もないのです。フィルネツィアは迎撃の立場であることを忘れないでくださいませ」私の気持ちを見透かしたかのようにガブリエラが諌める。

「分かっている。まずはイェーリングと国境の防衛が先決だ」先ほど国王陛下もやってきて、くれぐれも先に手を出すなと言われている。


 一息入れている間にも次々と騎士団がイェーリングへ転移していく。すぐに私が転移する順となった。「ブレンダ様、行きましょう」とのウェンディに言葉に頷き、私は中庭中央の転移陣展開場所に移動する。ウェンディの他、側近たちも一緒だ。


「ガブリエラ、一足先にイェーリングで待つ」

「すぐに参ります」




 昨年の戦争で大きな被害を受けたイェーリングの城や砦は、急ピッチで修復が行われたおかげで今やほとんどその傷を感じさせない。防御拠点が壊れたままでは敵が侵攻しようという気になりやすいからすぐに直せ、という国王陛下の方針は正しいと思う。


 あれから一年も経っていないのか。


 最後に兄と会い、兄と話したのもこのイェーリング城だった。


 その後いろいろとありすぎたな。


 でも、それらの経験により少しは成長しているはずだと信じたい。


 イェーリング城には続々と騎士団、魔術士団、平民で構成される平軍師団が入城し、装備などを整え、砦防御に向かっていく。

 城の広間に司令所が設置されており、私が座る席はその中央、総司令の席だ。


「各部隊の展開状況を報告しろ」


 私の声に反応して次々と騎士や魔術士が報告を行う。どうやら順調なようだ。


「イェーリング侯、ゼーネハイトから何か新しい情報は入っていますか?」私は隣席のイェーリング侯に尋ねた。イェーリングは昔から対ゼーネハイトの諜報も担っており、今回の迅速な展開もイェーリングの諜報の賜物だ。

「アルテランタに集結したゼーネハイト軍はすでに一部が東へ移動を開始したようです。さらに、ゼーネハイト東部のロスヴァイクにも軍が集結しつつあるようです」

「合流して進軍か……。昨年以上の規模かもしれんな」


 昨年以上の大軍なら我が軍は苦戦するかもしれない。騎士団の質は多少上がってはいるものの、数で上回られては苦しい。


「夕方にはガブリエラも参ります。彼女が来たらすぐに軍議を始めましょう」


 イェーリング侯にそう言って、私はいったん割り当ての部屋に入った。


「お疲れ様です、ブレンダ様」と言ってさっそくウェンディがお茶をいれてくれた。転移してきただけなのだが、気が張っているせいもあって疲労は感じている。

「うん。ところで、ウェンディの目から見ても、今回の騎士団の動きはなかなか良いと思わないか?」

「ええ、ブレンダ様の訓練が実を結びつつあると思います」


 訓練と言っても訓練所で号令を掛けているわけではなく、訓練の仕方そのものをを見直したのだ。命令系統を整備して、隊ごとに訓練プランを出させ、集団として連携して動けるように強化している最中だ。


「騎士の戦いは連携が重要だが、その訓練は戦闘前の行動も鍛えることに繋がっているようだな」

「はい、集団で動くことに慣れてきているように思います」


 以前の騎士団の訓練と言えば、がむしゃらに剣を振って、筋肉を鍛え、後は気合いという具合だった。これでは強くなるのは()くらいだ。


「時間は掛かるが、まだまだ騎士団は強くなるよ」


 まだ途中だ。だからこそここで大きな損害は出したくないというのも本音だ。


「ここまでは順調ですが、ブレンダ様とガブリエラ様が王都を留守にされるのは少し心配ですね」

「うん。ターニャ一人では心細いだろう。なるべく早く片付けたいところだ」

「せめてケイティ様がいてくだされば良かったのですが……」

「それは仕方ないな。ケイティとアグネーゼがゼーネハイトの動きに巻き込まれずに済んだことを喜ぶべきだろう」ケイティからは昨日の朝、別世界に出発すると転移魔術で手紙が届いた。すでにゼーネハイトにはいないはずだ。


 そんなことを考えていると扉が激しくノックされた。ウェンディが対応に出ると、「団長! 司令所にお越しください! イェーリング侯がお呼びです!」と騎士が息を切らせている。何かあったに違いない。


「分かった。すぐに行く」


 司令所は張り詰めた空気だ。見れば司令所の下手(しもて)に平民の男が跪いていて、その周りを騎士が警戒している。


「どうした? イェーリング侯」

「ブレンダ様、この者が国境付近でうろうろしていたため警備兵が捕らえましたところ、フィルネツィア王族への使いだと言い張るので城まで連れてきたそうです」

「王族? 王へのではなくてか?」

「はい」


 服装は平民だが、よく見れば跪く姿は平民ではない。おそらく騎士だろう。話を聞こうと近寄ろうとしたが、ウェンディが私を目で制した。ウェンディもこの者が平民ではないと気付いている。仕方ないので、ちょっと遠いが呼びかけることにした。


「そこの者、私はフィルネツィア第一王女ブレンダだ。直答を許す。王族への使いとはいかなる用件か?」

「ブレンダ様」男は顔を上げ、ちょっとホッとしたような表情を見せた。「私はゼーネハイト第一王女エルフリーデ様の護衛騎士アルブレヒトと申します。エルフリーデ様からのお手紙をご覧いただけますか?」


 エルフリーデと言えば、ケイティもアグネーゼも会ったというゼーネハイトの王女だ。手紙はウェンディが受け取り、おかしな魔術が掛かっていないかを調べてから私に渡す。「魔術は掛かっていません。ゼーネハイトの紋章も本物と思われます」


 私はウェンディから受け取った手紙に目を通す。美しい筆跡だ思ったのも束の間、思わず、「なっ!?」と声が出てしまった。


「その者、いや、アルブレヒト殿を別室にご案内しろ。ウェンディはガブリエラに至急連絡し、急いで転移してくるように言ってくれ」

イェーリングです。

次話はこの続きです。

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