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(ターニャの視点)ターニャの決意

 転移魔術でヴィーシュに帰っていく母を見送り、ちょっと寂しい気分に浸っていると、ルフィーナが部屋に入ってきた。


「ターニャ様、ヴィットリーオ殿がきました」

「そうですか、こちらに通してください」


 すぐにヴィットリーオが部屋に入ってきて、私に礼を執った。


「すみませんでしたね、ヴィットリーオ。ようやくいつも通りに戻りましたので、またよろしくお願いします」

「いえいえ、回復なされてよかったです」ヴィットリーオは微笑んだ。

「後宮に留められて退屈だったでしょう?」

「いえ、臨時でブレンダ様の護衛をしておりましたので。色々と興味深い経験をさせていただきました」

「それは良かったです」


 きっとブレンダは、ヴィットリーオに退屈しのぎさせようと護衛をさせてくれたのだろう。今度会ったらブレンダにお礼を言わなくては。


「来週からはもう学校にも行かれるのですよね?」

「ええ、参ります。ずいぶん休んでしまいましたので、その分を今必死に自習しています……」


 春の休暇期間明けから丸々二週間休んでしまっているのだ。苦戦確実な礼儀作法の実技については、昨日までお母さまに見てもらっていたのでなんとかなりそうだが、その他の教科も進んでいるであろう分は自習しておく必要がある。明日明後日でなんとか追い付かなくては。


「ところで、ベアトリーチェとはまだ会えませんか?」

「会えていないです。ケイティ姉様にも私が寝ている間に呼びかけてもらったのですが、現れなかったそうです」

「そうですか」ヴィットリーオはちょっと考え込んで、言葉を続けた。「ベアトリーチェについては私にも考えがありますので、ご心配なさらずにいらしてください」

「分かりました。私が考えてもどうしようもないのでお任せします。なるべく早く状況が分かると嬉しいです」


 実際、もうベアトリーチェは私の中にはいないのではないかと思っている。それならそれでも良いが、色々とこれからの行動にも影響がありそうなので早いところ白黒付けて欲しいものだ。


「さぁ、お話しはそれくらいにして、勉強いたしましょう。もう時間がありません」ルフィーナの非情な宣告で会話は終わりだ。

「はひ……」




 夕食後の勉強を終えると、ようやく一段落だ。頭の芯から疲れた。


「ヴィットリーオも下がってください。お疲れ様でした」

「はい、ではまた明日」と言ってヴィットリーオが下がっていった。


 疲労感に身を任せてソファーに体を沈めているとルフィーナがお茶をいれてくれた。


「ルフィーナも下がって良いですよ。疲れたでしょう?」

「いえ、ヴィットリーオ殿が戻ってきたおかげで多少余裕ができています。それと、先ほどケイティ様の使いが参りました」

「何かありましたか?」

「こちらの手紙をターニャ様にお渡しして欲しいと」と言ってルフィーナは私に手紙を差し出した。


 私は手紙を開いた。アグネーゼからの手紙だ。怪我はまったく問題ない、気にする必要はないし、安心するようにと。睡蓮御苑の花が咲く頃までには片付けたいと書かれている。


「睡蓮の花はいつ頃咲くんでしょうか?」アグネーゼから聞いた気もするが思い出せない。

「たしか、暖かくなり始めたらとおっしゃっていたように思います。六月くらいでしょうか?」ルフィーナも思い出せないようだ。


「それにしても、このままではアグネーゼ姉様と会えるのはいつになることか」


 私の中にベアトリーチェがいて、アグネーゼの側にコルヴタールがいるのであれば、容易には近づけない。


「でも、ベアトリーチェはどこかに行ってしまったのかもしれませんね」ルフィーナが言う。「ベアトリーチェがいなければ、コルヴタールと会っても問題はないと思いますが」

「でも、いない確証がないので、今は何ともなりません」

「ヴィットリーオ殿は何か考えがあると言っていましたね」

「そうですね。進展を見守るしかないでしょう」


 実際、私にできることはほとんどない。


「そう言えば、お母さまとお爺さまがいる間はあまり込み入った話もできませんでしたが、ルフィーナの意見を聞きたいのです。私はどうすれば良いのでしょう?」

「ターニャ様はどうされたいのですか?」

「良く分からないのです」これが本音だ。お母さまにはみんなを助けるとは言ってみたものの、実際のところどうすればみんなにとって良い結果になるのか分からない。

「話が複雑になりすぎましたね」ルフィーナが頷いた。「ケイティ様とアグネーゼ様はクラインヴァインを封印することに反対とおっしゃっていましたね」

「ええ。人間を滅ぼそうとする悪魔は封印してしまうのが早いと思うのですけど」

「そうですね。ただ、お二人はクラインヴァインやコルヴタール、パーヴェルホルトとも色々話をされたようです」

「事情を聞いて、ほだされたということですか?」私はその辺りの話をあまり詳しく聞いていない。

「おそらくターニャ様は、ベアトリーチェが中にいて、アレクシウス様とも会っているので……」ルフィーナがちょっと言いづらそうに言葉を濁したのだ、私がその言葉を引き取る。

「最初からアレクシウス様側と思われているのでしょうね」


 たしかに心情的にはアレクシウス側だ。でも、情報が少ないままではそれは変わらないし、そもそも判断のしようがない。


「ルフィーナ、私は決めました」

「なんでしょう?」

「クラインヴァインに会いに行きましょう」

「えっ? クラインヴァインにですか?」

「そうです。やっぱり双方の話を聞かないとダメだと思うのです。そうでしょう?」

「それはその通りだとおもいますが……」ルフィーナは困惑している。無理もないけど、このまま想像ばかりしていても先に進めない。


「ベアトリーチェがいるかいないか分からない状態では危険ではありませんか?」

「もちろんヴィットリーオも連れていきますから大丈夫です」

「余計に面倒ごとになりそうな気もしますが……」

「きっと話を聞けば、私の道も開けそうな気がしますし、ヴィットリーオもクラインヴァインと話をするべきだと思うのです」

ようやく日常が戻ってくると思ったらクラインヴァインに会いにいくと言い出すターニャでした。


この回で100話です。まだまだ続きます。

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