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吉光里利の化け物殺し 第一話  作者: 由条仁史
第8章 紗那の葛藤
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「ただいま……」


 家に帰ってくるときは、少し憂鬱だ。帰り道にあんなことがあったのに、それとは違う、現実が私を待っている。ルートさんは私のことを認めてくれたようで、私の勇気とやらを認めてくれた。私自身も必死だったけれど、案外、あの化け物の足は遅かったようだ。私の足が速いわけではなく、あの巨体ではあまり速度が出せないのだろう。


「おう、帰ったか」


 父がリビングで缶ビールを飲みながら、私に声をかけてくる。私はそれを意にも介さず、無視して部屋に向かおうとする。


「おい紗那」


 呼びかけてきた。私は嫌悪感いっぱいに父に向き直る。


「何?」


「お前、まだ漫画なんてもの描いてるのか」


 いつものことだ。いつも言ってくる。


「私の趣味にとやかく言わないでって、何度も言ってるでしょ。お父さんに心配されることは何もないよ」


「はぁー……」


 あからさまにため息をつく父。その挙動に私は苛立ちを覚えずにはいられない。私は何も言わず、ただ父の言葉の続きを待った。


「お前、もう17なんだぞ? 将来のことくらい考えろ」


「私の人生でしょ。指図しないで」


「指図なんかじゃない。ただの人生の先輩からの忠告だ。大学に言って、普通の人生を歩んだほうがいい」


 人生の先輩ってなんだよ。

 先輩面してんじゃねえよ。


「……約束は、守ってね。私が新人賞を取ったら、漫画家になることを許してくれるって」


「……ああ、そんな約束もしたな。できない夢を追い求めることなんて、そんな無意味なことをやめて勉強しろと……お前は何度言っても聞かないからな」


 うるせえクソ親父。

 黙ってろ。


 私はその言葉を買わずに、部屋へと戻った。

 壁を軽く殴って、漫画を描く作業へと戻る。


 ……今日、私は一つ乗り越えたんだ。

 そして、明日だ。


 寝て、起きたら――私は、新しい人生を、歩む。

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