第五十話 南の赤き英雄
そうそうの反とうたく連合軍参加の報を聞き、俺たちも早急に軍を出発させた
今回小沛からは3500の兵を出すことになった
これは先のりゅうびのライブの収益を合わせて、一年間余裕を持って戦える最大の数である
まぁ、戦いの性格から考えて、一年はかからないと思うが、それでも何が起こるかわからない
それに形の上では皇帝の住む都に侵攻する為、小沛の守りも手薄にするわけにもいかず、前回と大して変わらない兵数に落ち着いてしまった
しかし、今回の3500名は前回と違い、ある程度の訓練と、最低限の装備と、十分な物資がある
そして、大将のりゅうびは太守と同等の官位を持っているため、正式な軍隊として扱われることになる
もうただの武装集団でも変態の集いでもなく、軍隊なのだ
軍議などにも参加できるし、不利な扱いは受けなくなる
もちろん、この辺りは大将のさじ加減なので、えんしょうの人柄によるところ大きいだろう
俺たちが今向かっているのは、都の玄関口と呼ばれる場所である
皇帝の住まう都にはいくつかの道があるのだが、まともに軍を進められるのは東西に伸びる大きな街道のみとなる
他の道もそこそこの広さがある道もあるにはあるのだが、隘路が途中にあったり、起伏が激しかったりなどと、戦闘しながら進むには不向きなものばかりである
それに対し、東西の街道は都までずっと平坦でちゃんと舗装された幅の広い道が有り、途中に大きな平原などもあるため陣を組んだり、補給拠点を用意したりすることもできるなどと進軍する上で有利な条件が揃っている
ただし、もちろん都を守るために途中に関所が設けられている
そして東側には、難攻不落として有名な二つの関所がある
それが汜水関と虎牢関である
俺の見立てではこの二箇所が今回の大きな戦場となると見ている
小沛を出発しておよそ3週間で連合軍の集合場所に到着した
ここは、一面平原となっており、たくさんの兵が集まるには非常に適した土地だった
そして、その平原一面が天幕だらけになるほどの兵士が既に集まっていた
各地から諸侯が集合しているようで、各天幕には所属を示す色とりどりの旗が掲げられていた
俺たちもスペースを見つけて天幕の設営を始めた
俺とりゅうびが中央で指示を出していると、突然後ろから声をかけられた
驚いて振り向いてみると、そこにはなつかしい人が手を振りながらこちらに向かってきていた
「こうそんさんさん、お久しぶりです」
「なんだこうそんさん、お前も来てたのか」
俺とりゅうびが挨拶を返すと、こうそんさんさんも笑顔応えてくれた
「こうそんさんさんは、ゆう州の州牧になられたんですね。おめでとうございます」
「ああ、いや君たちのおかげだよ。あの戦いでかなり被害を抑えられたからね。その後も転戦を続けて気付けば州牧に任命されたからね」
「で、あのいけ好かないオヤジはどうしたのだ?」
「りゅうえんは、別のとこの州牧になったみたいだね。ゆう州ではあまり活躍できなかったけど、いろいろと裏で工作したみたいでね」
俺たちは久しぶりのこうそんさんさんとの再開で、お互の情報交換に花を咲かせていた
だいたい、話がひと段落したところで、俺は気になっていたことを切り出す
「それで、今回の連合軍はどうですか?」
「うーん、そうだね。今回の連合軍は中心人物はわかっている限り二人いる」
「ひとりは、手紙を出したえんしょうってやつだろ」
「うん、北の名門えん家の現当主のえんしょう殿が連合の盟主になっている。そして、もうひとり、えんしょうの遠縁にあたるえんじゅつ殿が副盟主だね」
「えんじゅつですか?」
「そう、あまり表舞台で活躍しないから名前は広く知られていないけど、かなりの実力者らしい上、今回の連合軍で最大の兵数を率いている」
その後、こうそんさんさんから聞いた話によると、今回の連合軍は総数がおよそ30万弱
都から北と東方面に領地を持つ州牧、太守の多くが連合に参加したらしい
表だって参加でにない者からも物資などの支援も有り、かつてないほどの大規模な軍に膨れ上がっているらしい
そろそろ大まかな諸侯が集まってきたので作戦会議を行うらしい
まぁ、太守補佐であるりゅうびなんかは、参加するだけの会議になるだろうがな
こうそんさんさんと話していると、また声がかけられた
「ここら辺の軍の大将はあんたかい?」
そこには、浅黒く日焼けした燃え盛る炎のような髪の大柄な女性が立っていた
「えーっと……あなたは?」
俺がそう問うと、彼女は堂々と名乗りを上げた
「あたいはけんぎょうの太守、そんけんだ」




