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●ぽんぽこ9-11 質疑応答

「さっきの話はピュシスというゲームの存在自体が消滅する、という意味でいいのか。つまり、サービス終了というような」

「そうだ」

 ライオンの質問に、各群れクランの代表が取り囲む、砂地の中央に腰を下ろしたトラが答える。

「どうしてそんなことがわかる」

「それを教える必要はない。信じないならそれでもいいだろう。指をくわえて消滅を待つんだな」

「もしクリアできない場合、その消滅までの猶予ゆうよはどれくらいあるんだ」

「わからんが、わからんからこそ急ぐべきだろう」

「遺跡の最深部というのはどのくらいの深さにあったんだ」

「階層を百は下ったが、数字ほど遠くはなかった。太陽も月も見えん地の底で、正確な時間はわからんが、ピュシス内の四日か五日といったところか」

 傍目はためには水と油の関係のわりに、息の合ったやり取りで問と答のラリーが続く。

「それで、そちらの言うところでは、その最深部にオートマタ工場があったということだな。オーロックスの話や、マレーバクも言っていたが、現実世界ノモスと似た地下空洞があるというのは本当か?」

「ああ。街があった。人間がいない街だ。奥に進むと工場地区に行きついたが、そこからオートマタが大量に現れたので引き返した」

「その工場地区を越えればクリアなのか?」

「空洞の中央に異質なものが浮かんでいた。影を丸めて球にしたようなものだ。薄っぺらいグラフィックをしていて、まるで奥行がなかった。螺旋階段で地上と繋がっているようで、それが工場地区の中央付近から伸びていた」

「そこに到達すればクリアか?」

「そこまでは知らん」

「トムソンガゼルも深層には行ったのか」

 急に話を振られたトムソンガゼルは、落ち着いてライオンを見据えて「いえ。僕は行っていません。ですが、行軍には他の複数のプレイヤーが同行していました。事実関係を確かめたいのなら、その群れ員クランメンバーを呼び出して、いくらでもお話を聞かれるといいでしょう」

「いや、その必要はない」ライオンは改めてトラと向かい合って、

「いまはクリア云々という話は置いておく。この集まりの本来の目的は敵性NPCオートマタ対策だ。トラ、オートマタの大量発生を止める方法はあるのか?」

「最深部の工場を破壊することだろうな」

「ふむ」と、ライオンはいったんスピーカーを閉ざす。それから、周りに目を向けると、

「他に質問がある者は声を出せ。俺様が指名したら、改めて発言をしてくれ」

「いいですか」

 ばさりと羽が広げられる。

「フクロウ。いいぞ」

「ありがとうございます。すこし話はさかのぼりますが、オートマタが発生する遺跡について、トラは『いまのところはその遺跡だけ』と仰っていましたが、時間がてば別の遺跡からも発生するということですか」

「それは……」トラはしばし思案するように空を見上げ、尻尾をくゆらせると、

「ピュシスには地形変動があるだろ」

「ええ」

 季節のうつろいと共に、本物の自然さながらにピュシスの地形は変化し続けている。

「遺跡の内部構造もそれに応じて変化するのは知っているか」

「聞いたことはあります。出入口が埋まったり、新たな遺跡が突如、口を開けることもあるようですね」

「そうだ」トラは、フクロウにうなずきを返して、

「すべての遺跡は地下深くに進んでいくと最深部につながる道を持っているらしい。機械惑星ノモスを思い浮かべるとわかりやすいだろう。球体をした機械惑星ノモスの表面のどこから地下に掘り進んだとして、中核である惑星コンピューターカリスに辿り着く。そんなイメージだ」

 全員が話を呑み込んだことを見て取ると、

「それでだ。道を持っているはいるが、いつも繋がっているわけではない。繋がる可能性があるというだけだ。最深部に繋がっている道は常にたったひとつ。そして、遺跡の内部構造はさっき言った通り変化する。電子回路が切り替わるように、ある時、急に別の道に繋がり、いままでの道が途切れたりするわけだ」

「なるほど」そこまで聞いたフクロウは現状を理解して、

「つまり、今後地形変動が起きれば、別の経路と最深部が繋がり、その経路と繋がっている遺跡からオートマタが湧き出してくる、というわけですね」

「その通りだ」

 説明は終わったという風にトラはいかめしい顔をして、固くスピーカーを閉ざす。

「他にいまの時点での質問はあるか?」

「いいでしょうか」

「ギンドロ。発言してくれ」

「ありがとうライオン。ではお聞きしますが、遺跡というのはわたくしたち植物族ドリュアスにはあまりなじみのない場所なのですが、最深部の地面というのは根が張れますか?」

 この質問にはトラもすぐには答えられず、しばし記憶を探るようにしながら、

「土は見当たらなかったな。足元は機械惑星ノモスの道路と同じ素材でおおわれているように感じた。道路を突き破ったとして、その下に土があるかはわからん。最深部の少し手前の階層までであれば土の地面だった」

「そうですか。植物族ドリュアスが遺跡最深部に行くのは難しそうですね」

「他はどうだ? なければ次の議題に移るが」

 ライオンが呼びかける。思考をめぐらせている者はいても、いますぐの質問はないようだった。

「もう席に戻ってもらってかまわん」

 ふん、と鼻を鳴らして、トラは自身の群れクランの席に戻る。

「ここまでの話についてこれてない奴はいないな。センザンコウは大丈夫か?」

 眠ったように身じろぎしないリーダーのひとりに確認の言葉を投げかけると、副長サブリーダーのミツオビアルマジロがオオアリクイの背中の上で、

「うちのリーダー無口なだけで全部ちゃんと聞いてるから大丈夫だよ。だめだったら後でぼくが教えるし」

「そうか」それを聞いて気を取り直して「では、次に考えるべきことはオートマタ工場を破壊するための手段だな」

「そんなものは飛び込んでいって、手あたり次第にめちゃめちゃにすればいいだろ」

 ラーテルの乱暴な意見に、ブチハイエナが、

「工場などというものは簡単に破壊したりはできません。大量の敵性NPCオートマタたちがたむろしているとなればなおさらです。それに、いつ、誰が、やるかというのがまず問題になるでしょう」

「そうだな」ライオンがうなずいて「トラ。最深部にはどれぐらいのプレイヤーが入れそうだ? 体格などによる制限はあるか?」

「俺が通った入り口はキリンでも通れるぐらいには広かった。地下空洞は現実世界ノモスに近いと言った通りだ。街中に動植物が現れるのを想像してみろ。そこで許容される分は大丈夫なはずだ。さすがにゾウほどでかければ細い道に挟まるかもしれんし、そこのギンドロなんぞは枝を自由に伸ばせないだろうが、そこまでの大きさでなければ大丈夫だろう」

 皆それぞれに街に動植物が存在する風景を思い浮かべ、不思議な気分におちいる。現実と仮想が入り混じった世界。そんな夢のような光景をかき消すように、

「少しいいですか」と、ホルスタインが鋭く角先を突き出した。

「なんだ。ホルスタイン」ライオンが発言をうながすと、

「遺跡に入る前提で話が進んでいますが、それでいいんでしょうか」

「どういうことだ」

「トラ、さんの話が本当だって保証はどこにもないですよね。なのにそっちに力を集中させていいのかな、と思うんですが」

 疑いを向けられたトラが怒りもあらわにえ、ホルスタインは心の芯からくる恐怖に毛を逆立てたが、ぎりぎりのところで踏ん張って、

「だってそうじゃないですか。私はいまが非常に切羽詰まった状況だと思っています。聞く話だとかなりの戦力を遺跡に送らないといけないんですよね。それが空振りで、別の原因があったとしたら、それこそ取り返しのつかないことになりませんか」

「白黒ちゃんのいうことも一理あるんじゃないのかあ? どうなんだ? おい」

 キングコブラが加勢してめはじめると、トラをかばうようにライオンが一歩踏み出して、

「遺跡からオートマタが出現しているというのは俺様のほうでも確認している。俺様の縄張りに隣接している位置にあるんでな。その遺跡についてはどちらにせよ調査しようと考えていたところだ」

「じゃあまずライオンの調査が終わってから方針を決めればいいんじゃないの」

 タスマニアデビルがぎゃうぎゃうと鳴きながら提案したが、

「負担を押しつけるのはやめましょう」理知的な声でフクロウがせいする。

「ライオンの言う通り調査は必須。あらゆる事態を想定して、調査には多くの戦力を投入するのが懸命。ホルスタインが言ったように空振りに終わる可能性もあるでしょう。しかし、そうでなかった場合はどうです。中途半端に調査をして、結局事実だった場合。最深部と地上を何度も往復することになるのは、それこそ取り返しのつかない事態を招きかねないのではないでしょうか」

「とりあえず一発で決めるつもりで行動したほうがいいっていうのはおれも賛成だな。ぐずぐずせずに、さっさとやれることをやっていくべきだ」とコモドオオトカゲ。この意見に我が意得たりというようにキングコブラが急に前に出しゃばって、

「こういう話になるとはじめから思ってたぜ。俺に良い考えがあるんだ」

「さっきまで茶化していたのは誰だよ」

 叱責しっせきするような声色でリカオンが言う。しかしキングコブラは気にした様子もなく、

「とりあえず聞けって」

 と、強引に語りはじめた。

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