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●ぽんぽこ9-2 ライオンとトラと……

 急増する敵性NPCオートマタへの対策会議、通称ピュシス会議に参加するべく、一頭、また一頭と群れ長クランリーダー副長サブリーダー、その群れ員クランメンバーなどがオアシスに集いはじめた。

 しかし、ほとんどの群れクランは縄張りの防衛に忙しく、群れ員クランメンバーまで引き連れているのは大規模な群れクランのみ。リーダーだけ、リーダー副長サブリーダーだけ、といった群れクランも少なくない。

 砂の荒廃と緑の繁栄が入り混じるオアシスの原。荒々しく葉を伸ばすナツメヤシの木陰で身を横たえる縞模様の猛獣に、

「よお」

 と、声をかけたのはライオン。勇猛ゆうもうな濃褐色のたてがみが、湖から運ばれた水気をびた風にたなびいて、黄金色の毛衣もういいろどりえている。

「……なにか用か」

 答えたのはトラ。いつもの憎々しい雰囲気は薄らいで、体中に刻まれた爪痕のような縞模様が、今日は心持ち落ち着いて見える。

「ただのあいさつだ」

「ならもう終わっただろ。向こうへ行け」

 尻尾で振り払うようにすると、

「どうも!」

 二頭とは別の元気な声が飛び込んできた。

「久しぶりですね! 二回、三回? 群れ戦クランバトルしましたけど私のこと覚えてます?」

 ぴょーん、と一息にライオンの体長の優に五倍ほどの距離をジャンプしてやってきたのはアカカンガルー。自身の群れクランを持つリーダー

「……ああ」

 ライオンとトラがそろって曖昧あいまいな返事をしたが、

「よかったー」

 あっけらかんとした態度で肯定こうていとして受け取って、

「あれも結構前だから、ほら、どうです?」

 カンガルーは横を向いて、小顔を二頭のネコ科大型獣へ向けた。二頭とも微妙な表情をして黙り込むと、目をしばたたかせる。その目の前でカンガルーはボクサーのようにパンチをくり出したり、分厚く太い尻尾で体を支えて蹴りを放つ動作を見せた。

「どう?」

 と、聞かれたライオンが、

「どう、とはなんだ?」

「ほら見て。変わったでしょ」

 人の身長よりも高く垂直ジャンプできる強靭きょうじんな脚の筋肉が、赤褐色の毛衣もういの向こうでぴくぴくと動いた。お腹には有袋類ゆうたいるい特有のふくろである育児嚢いくじのうがついている。

「鍛え直したんですよ」

 嬉しそうに言って、腕の筋肉を盛り上がらせる。

「へえ……」

 風が吹くような声が二重にかさなる。

「おふたりの筋肉触らせてもらってもいいですか。やっぱりすごいじゃないですかネコ科の大型種の筋肉って。憧れちゃいます。後学のために一回、触ってみたいと思ってたんですよ。お願いします!」

 無言で立ち去ろうとするトラに、ライオンが、

「おい待て」

 トラは止まらず離れていって、

「待てよ」

 それでも止まらなかった。

 オアシスにいくつか転がる小山のような岩の向こうへ、隠れるように消えてしまう。

 カンガルーはちょっと傷ついたように、

「私に触られるの嫌だったんでしょうか?」

「いや……、なにか用事でもあったんだろう」

 ライオンが複雑な感情でフォローを入れると、カンガルーは「そっかあ」と安心したみたいに言って、

「じゃあライオンさんの筋肉確かめさせてください。いいですよね?」

 ライオンは断り切れず、会議がはじまるまでの時間、まわりをぴゅんぴょんと跳び回られ、感嘆かんたんと共に体中を撫でまわされるのに耐え続けた。

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