●ぽんぽこ9-3 会議場設営中
ピュシス会議の会議場設営が着々と進められていた。とはいえ邪魔なものをどけて参加者全員が集まれる空間を作るだけ。そして、サイドワインダーが蛇腹をくねらせて、参加する群れの席を地面に描くのだ。
しかし、簡単なはずのその作業が、なぜかいつまで経っても終わらなかった。
「画家、まだ終わらないのかよ」
キングコブラがせっつくが、
「うーん」と、筆代わりの自分の体を置いて、サイドワインダーが、
「なにかが足りない」
「なんでもいいんだよ。丸を囲んで十六のスペースがあれば十分だ」
「いやいや長。こんな大舞台で作品を披露できる機会なんて滅多にないことだ。もう少し時間を」
「んなこと言ってるうちに全員集まっちまうぞ。お前のせいでみなさんをお待たせすることになるんだ。わかるか?」
「それは重々わかってるが。いや。しかし。ここを……」
にょろにょろと砂地に線を書き足しては尻尾ではいて消すことをくり返す。聞き分けのない部下にキングコブラは大きく嘆息して、べったりと熱い砂に体を預けた。
懊悩の唸り声を上げるサイドワインダーに、
「なにかお手伝いしましょうか」
駆け寄ってきたアナグマが声をかける。
「申し出はありがたいが」
サイドワインダーは首を上げ、アナグマの肩越しに後ろを見ると、
「おお」
閃きの声をもらした。
「ちょっと、そこのお三方……」
呼びかけられたのは群れを率いる長のホルスタインと、別の群れの長であるオオセンザンコウ、その副長のミツオビアルマジロ。三名であいさつを交わしていたところ。
「なんでしょうか?」
ホルスタインが、モウ、モウ、と鳴き声と共にやってきて、それにセンザンコウとアルマジロが続く。
センザンコウとアルマジロは鎧をまとったような姿形こそ似ているが、前者は鱗甲目で、体を被うのは幅の広い尖った爪の如き攻防一体の硬い鱗、一方後者は被甲目で、まとっているのは皮膚が板状に変化した防御特化の甲皮。
「あなた。ウシさん」
「はい」
「あっちから」首で指し示して「あっちまで歩いて、蹄の跡をつけてくれませんか」
「普通に歩けばいいんですか」
「なにも意識せず自然体で歩いてください」
「わかりました」
ホルスタインは言われた通りに移動していく。
「あなたたちは丸まってもらえますか?」
センザンコウは体を丸めて棘ばったボールの姿になる。
「ぼくがミツオビアルマジロでよかったね」
アルマジロも同じようにして、センザンコウより二回りほど小さい、まん丸なボールになると、
「ぼく以外の種類のアルマジロはまん丸くなれないんだよ。センザンコウは全員まん丸くなれるのにね」
「そうなんですか」
サイドワインダーは興味なさげに相槌を打って、
「ハイラックス!」
と、同じキングコブラの群れの仲間を呼んだ。
「はいはーい」
耳と尻尾の短い大型のネズミといった風貌だが、齧歯類ではなくイワダヌキ目のケープハイラックスが「なにかな」とやってきた。
サイドワインダーはアナグマに首を向けると、
「えーっと、あなたはタヌキさん?」
「違うよ。ぼくはアナグマ。目元が黒いのは似てるけど顔も体も細いでしょ。それにイヌ科じゃなくてイタチ科だもの。モグラの群れの副長」
「そうですか。ではアナグマさんはそっちのとげとげボールを、ハイラックスはすべすべボールを転がして、ウシさんの蹄の両脇にラインを引いてもらえますか」
「わかった」
同時に言ってふたつのボールが転がされていく。アナグマはちくちくする感触に手こずりながら、自分の倍ほどの体重があるセンザンコウの体を一生懸命に押していく。
「いいですね。いいですよ。ああ、そこちょっと歪んでます。まっすぐ、まっすぐにね」
指示を出しながらサイドワインダーも横這い運動と呼ばれる大きく体をくねらせる移動法で、砂地に美しい図形を刻んでいった。
そうして動物たちの体によって形作られる、摩訶不思議な模様が散りばめられた会議場が、完成に向けて少しずつ姿を現しはじめたのだった。




