VS魔物・後
真っ赤なその目と目が合う。一瞬その威圧感に気圧されるが、すぐにこちらも睨み返す。
瞬間振り翳された鉤爪なんとか避けながら、俺はナイフをソイツに向ける。テレビだとよく、野生動物は武器を見て怯えて去っていくとか言っていたが、コイツはそんな事はなく、むしろ威嚇するようにまた低く唸った。
(やっぱり魔物は普通の生き物とは違うよな…)
対峙してまじまじと魔物の事を見てみるが、テレビで観た熊なんかとは比べ物にならないくらいデカい。硬そうな毛に、地面をも抉りそうな鋭い爪。
ナイフを持つ手が僅かに震える。ナイフなんて使った事はないし、戦いなんてもってのほか。それに子どもの一撃なんて、頑張ったとしてもその最大威力は高が知れている。
でも退けない。相手の挙動を見逃さないようにじっと視線は外さない。
そしてソイツがゆっくりと動き始めた時、俺は洞穴に身を潜めたスーリアに聞こえるように声を上げる。
「今だ!!!!」
「!」
魔物に位置がバレないよう声を出す事はない。口を結んだ彼女は、その水の球体を魔物の上へと落とす。大きいとはいえ、見えないとは思えない程的確な位置に落とされた球体によって、魔物はおろか辺り一面が水浸しになる。
ちょうど前脚を踏み出した魔物は、ぬかるみに足を取られ体勢を崩す。
そこに俺は飛び込んだ。
魔物とて一筋縄ではいかないと、その口を大きく開けて俺へと食らいつこうとする。
だが、俺はこれを待っていた。
「食らえぇぇっ!!」
俺はわざと口に入り込むと、その内側にナイフを突き刺す。
咆哮にならない唸り声と共に、首が大きく振られる。閉じかかった口にしがみつきながら、俺はナイフを離さない。ボタボタと流れ落ちた血が顔に掛かって生臭い。というか全体的に生臭い。
内側からならばと口の中を狙ったのだが、不安定な体勢で踏ん張りが効かなくなってくる。
「うわっ!?」
「アリオさん!」
一際大きく首が振られ、耐えられずに振り落とされた。ナイフも反動で抜けたのか、近くにあった岩にぶつかって鈍い音を立てる。
俺はと言うと、勢いよく振り落とされたものの、スーリアによって地面に叩きつけられる直前に風魔法に受け止められた。お陰で怪我どころか擦り傷さえない。
ホッとしたのも束の間、俺は勢いよく立ち上がると魔物に向かって走り始める。
(マズイ…!!ターゲットが移った…!)
恐らくはスーリアが俺のことを助けた時点で、その存在を認知していたのだろう。魔物は口から血を垂らしながらも、洞穴から出てきていたスーリアに向かってジリジリと距離を詰めている。
スーリアはスーリアで、蛇に睨まれた蛙のように震えながら後退していた。
走れ…!速く!!
俺は何とかなるけど、スーリアは蘇りなんて出来ないのだから。
いや、たとえ蘇れたとしても、痛い思いなんてするもんじゃないし!
「い…いやっ!!」
「スーリア!!!!」
頭を庇うようにして座り込んだスーリア。
そして口を大きく開いて今にも食らいつこうとしている魔物。
「あ…あぁ…!」
ゴリッと牙が骨に食い込む音がして、大量の赤が舞う。
ボタボタと血が溢れ、地面に落ちては溜まっていく。
そうして真っ赤に染まっていく俺は、スーリアのことを見てホッとした。
彼女に目立った怪我はない。間一髪の所で間に入ることが出来た自分のことを褒めたいね。
スーリアは薄桃の瞳を大きく開き、青褪めた顔で俺を見る。
そんな彼女に見えないと分かっていながらも、俺は何とか笑顔を作って呼び掛ける。
「だい…じょうぶ、だから…スーリアは、っ…離れてて」
「でもっ!アリオさんが…!!」
「はやくっ!」
俺のライフが無くなるまでは恐らく後数秒程。だったらやることはただ一つ。
▶︎ダメージを確認。
アナウンスなんかよりも早く
▶︎『死ぬこと以外はかすり傷』が発動します。
相手の口の中に、ありったけのファイアーボールをぶち込む!!
「いっけぇぇぇぇえぇえっ!!!!」
もうダメージを気にする必要はない。
何故ならこの後俺は確定100のダメージで死ぬから!
なら後やることは道連れだよね!!
耳をつんざくような爆発音。
ゼロ距離での火魔法連発に、俺の体も熱によって焼け始める。
もはや痛みなんて感じる暇もない。ただただ体から無くなっていく感覚を寒さと共に認識するだけだ。これだけ火に近いのに、体の震えは止まらない。
魔物も苦しみながらも、俺を絶命させようと何度も何度も地面に俺を叩きつけた。
▶︎MPの使用を確認。
▶︎『身を削る叡智』を発動します。
▶︎MPの使用を確認。
▶︎『身を削る叡智』を発動します。
▶︎MPの使用を確認。
▶︎『身を削る叡智』を発動します。
▶︎MPの使用を確認。
▶︎『身を削る叡智』を発動します。
▶︎MPの使用を確認。
▶︎『身を削る叡智』を発動します。
………
……
俺にとっては無限にも感じられたこの時間だが、驚くことにまだ数秒の出来事である。
先ほどから脳内に響くアナウンスはバグったように鳴り続ける。
数えてないけどめちゃくちゃダメージ量蓄積されてそう。
視界が霞み、そろそろ駄目だなと限界を感じる。
俺はこれが最後だと思い、イメージするファイアーボールの火力を最大限にまで上げた。
「これでっ……おわり、だっ…!」
俺もお前もな!
▶︎ダメー■を■■に■更しま■。
暗転する視界の隅で、最大火力のファイアーボールをくらった魔物が唸る。
しかしソイツは巨体を揺らすと、ドシンッと地に倒れ伏した。
「アリオさん…!アリオさん…っ!!」
近付いてくるその声は酷く震えている。
何か言わねばと口を開くが漏れるのは喘鳴だけで、もどかしい。
手に何かが触れた感覚があり、そのままぎゅっと握られる。
恐らくスーリアが俺の手を握ってくれているんだと思う。
魔物に殺されるのは嫌だななんて思っていたけど、大切な友達を守れたのだから、案外こんな終わり方も良いものかもしれない。
このまま目が覚めなくてもきっと後悔はない。
でもこれが終わりにならないことは分かっている。
だから俺は、次目が覚めた時にちゃんと謝ろうと心に誓って、そのまま意識を手放した。
……………
…………
………
……
…
▶︎一定時間内に受けたダメージ量を確認。
▶︎条件を満たしました。
▶︎新しいスキルを取得します。
▶︎また、一定の死亡数を満たしました。
▶︎『不死者』の効果が一部書き変わります。
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