君と改めての「よろしく」を
何かが聞こえる。
スーリアが必死に俺の名前を呼び続けている。
嗚咽混じりのその声は、時折「ごめんなさい」と謝りながら泣き続ける。
君はなにも悪くないのに、何でそんなに悲しんでいるんだろう。
「私がもっと強かったら…貴方を助けられたのに…!」
ゆっくり、ゆっくりと意識が浮上する。
そのまま重たい瞼をなんとか上げると、ぽたっと頬に何かが当たって流れ落ちた。
ぼんやりとした視界の中、目的の人物が横にいることを確認すると、やけにヒリヒリする喉から声を絞り出す。
「スー……リア…?」
「っ!アリオさん…?」
俺の手を握っていた彼女の手に力が入る。
「だい…じょう、ぶ…?けが、は?」
「ない…!ないですっ……!!」
よかったよかった。
倒し切れてなくてスーリアが襲われていたら、今頃やるせなさで死にたくなっていたところだ。
慣れてないながらも武器をとった判断は間違っていなかったかもしれない。
そんな風に思っていると、突然スーリアが勢いよく俺に抱き着いてきた。
「すっ、スーリア…!?」
「よかった…!貴方が…っ…アリオさんが生きててっ……」
ボロボロと涙を溢しながらそう言ったスーリアに、俺はハッとする。
何が間違っていなかったのか。確かに立ち向かったことは間違っていなかったかもしれない。
でも、俺は彼女に、人が目の前で死ぬという恐怖を味わわせてしまった。
そうして暫く泣き続けた彼女を慰めると、スーリアは俺の体を確認するようにペタペタと触り始める。それは何だかこそばゆくて笑うと、「心配したんですからね!」と怒られた。
「怪我がなくてよかった……でも…確かに血の匂いがしたはずですし、色も見えなく……」
「色?」
「えっ、あ…祝福での見え方みたいな感じです。犯罪者や、危険な人みたいなのは赤く、それ以外は緑や黄色などで見えるんです」
つまりは危険度がちゃんと分かるようになっていると。便利だなと思いつつ、人によってはかなり脅威になるんじゃないだろうかとも考える。
邪な考えを持っていても、スーリアには見抜かれてしまう。権力者などは欲しがりそうだ。
「じゃあ俺もそんな感じの色が見えていたってこと?」
「はい。アリオさんはどちらかというと…その、綺麗な色なんです」
「え、そうなの?」
「どの色にも当てはまりませんが、キラキラしてて…」
キラキラや綺麗なんて俺とは真逆の感じだなぁ…
スーリアには悪いけど、なんか一気に信用出来るか分からなくなってきたぞ。
「あの、私も聞いて良いですか?」
「あー…なんで無傷かってこと……?」
頷くスーリアに、俺はどうしたものかと顔を背ける。
カリスからはあまり口外しない方がいいと言われているが、この状況で上手い言い訳は思いつかない。
「これはあんまり口外してほしくないんだ。だから…」
「はい。決して他に言う事はしません」
即答するスーリアに俺は更に頭を抱える。彼女ならこれで退くかと思ったが、いつになく強い意志を持って俺を見てくる。
あかん。助けて偉い人。可愛い女の子に見つめられてNOと言える人がいますか?
いねぇよなっ!!
…しょうがない。と言うわけで話すしかなさそうだ。
「そのー…気持ち悪いかもしれないけど、俺…死ねないんだ」
「死ねない?死なないではなくてですか…?」
「そう。例えば崖から落ちても時間経過で生き返る。それと同じように、多分老化や病気でも生き返る」
「えっ、え??」
「流石に後者の二つは試せていないけど、少なくとも俺は今日を含めると三回死んで生き返ってるんだ」
信じられないと言ったふうに口を押さえているが、本当なんだよなぁ…
悲しきかな俺の祝福。絶対死にたくないという人だったら喜んでいたろうに。
こんな死にたい系社畜のもとに来てしまうなんて、不死者も運がないね。
「だから、俺が冒険者になった理由は、祝福を消す為なんだ」
「祝福を消す…?」
これも言おうか迷ったけど、言ってしまおう。
これでスーリアが拒絶反応を示したらそこでさようなら。
旅は一人でも出来るし、それでいい。少なくともカリスは味方だし、辛くはない。
さてどうかなと顔色を伺えば、スーリアは目を伏せて何かを考えている。
「…アリオさんは本気なんですよね?」
「そうだね…俺は天寿を全うしたい人だし、生き返るって言っても痛いものは痛いから。俺痛いの嫌いだし…あ、勿論祝福を消すからって他の人には迷惑かけるつもりはないし、家も早々に出るつもりだから…」
再びの沈黙。なんとなくそれが居た堪れなくて、話題を逸らそうとする。
しかし、その沈黙を先に破ったのはスーリアだった。
「アリオさん…私も、その旅に同行してもいいですか?」
「これも他言しないでもらえると………えっ??」
聞き間違いかと思って間抜けな声が出る。
「いや、えっ?祝福を消す旅だよ?」
「はい。私もアリオさんと共にその旅に出たいです」
おかしいな。普通ならドゥールの言う通り、祝福は神からの贈り物。
それを無碍にするのは三神に対しての冒涜だ。この世界の教会からは総スカンをくらうはず。少なくとも今いる王国の民からはいい顔はされない。
「私が冒険者になった理由をアリオさんは覚えていますか?」
スーリアが冒険者になった理由。それは世界が広いことを聞いたから。
つまり彼女は色んな国や文化を知りたいのだろう。勤勉でとても感心する。
「私は色んな世界を見たい…でも私一人じゃ見れないんです」
「祝福のせい…だよね」
「はい。私の場合は物心ついた時からこの祝福に悩まされています」
「え!?」
スーリアの言葉に思わず声を上げる。普通は祝福の効果が現れるのは祝福を授かる十歳頃。それも本当に覚醒するのは教会で祈りを捧げてからだ。
だからてっきりスーリアの盲目は生まれつきのものかと思っていた。
「祖母から日常のあらゆる事は学びました。でも、私は世界を見ることを諦められなかったんです」
「でも、俺がしようとしている旅は正直言って無謀な賭けだよ?」
「分かっています」
「あてなんてないし、頼りにしてるのは子供向けのお伽話だけ。なんなら教会を敵に回すかもしれない」
自分で言っていても、この旅はあまりに無謀だ。それこそ死ねない俺だからこそ出来るものかもしれない。
同行者が増えるかもしれないのは嬉しいけど、今の俺では彼女を守るのは難しい。
「大丈夫です。だってアリオさんとの旅なら、それだけで私の宝物になりますから」
「スーリア…」
でもこんなに言ってくれる子を無碍には出来ない。
それに俺だってスーリアに世界を見せてあげたいしね。
「分かった…じゃあ、改めてよろしくねスーリア!」
「はい!」
そう言って俺達は握手を交わす。
こうして俺には心強い仲間が増えたのだ。
と言ってもまだ旅に関してはノープランだし、二人ともクタクタだからな。
解散しようにもバタバタと逃げ回ったせいで、ここが何処だか分からない。途方に暮れていた俺だったが、それはスーリアによってあっけなく解決する。
「森の中なら案内出来ますよ。上手く説明出来ないんですが…迷った事はないので!」
その言葉の通り、俺達は迷う事なく森の入り口まで戻ることが出来た。
ん?倒した魔物はどうしたかって?なんとそれも解決しました!
意外にも俺のスキルによってね!
どうしようかと焼き焦げた魔物を見つめていた時に、ポンと頭の中にアナウンスが流れた。
なんということでしょう。収納スキルに目覚めました。しかもMP無料でございます!
まぁMP使うってなったら封印するところでしたけどね!!
勿論無料なものは使います。
そのままにしておくのもなんだしと、スキルに気付いて早々に魔物をストレージに仕舞い込む。説明をザッと読んだらなんと時間停止機能も付いていたので、薬草を売るのも後日にしようと、スーリアから預かってストレージに仕舞った。
この分だと他にもスキルが増えていそうだから後で見てみるのが楽しみだ。
スーリアと別れると俺も帰路に着く。
色々ありすぎてどっと疲れたが、不死者もまた書き変わったのか早めに蘇生出来たおかげで遅くならずに済んだ。
家まであと少しという所で、馬車の音が聞こえて咄嗟に草陰に身を隠す。魔物に噛まれて、更に至近距離で火魔法を放ったことで、俺の服は血やらなんやらで見るも無惨な状態だったからだ。
馬の足音と車輪の音が遠ざかるのを確認してから、ガサガサと草を分けて出る。
なんだか煌びやかな馬車だったけど、あの紋なんか見たことあるんだよなー。
思い出せないけど、とりあえず露出狂にはならなかったからよし!
その後は特に誰かに会うとかもなく無事に家に帰れた俺だったが、元気にただいまと入った所、出迎えてくれたメイドさん達に絶叫された。
ドゥールまでもが目を丸くした状態で止まり、絶叫を聞いて駆けつけたカリス達も俺の姿を見てピタリと止まったのは軽く怖かった。
やっぱり帰る前に服をなんとかしたほうがよかったかなと、俺はその時反省した。
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