第六話 Le Chat Botte
次回予定は明日の23時。
さて、今日も今日とてマーモット退治である。
朝のうちに今日の分のハーブウォーターは確保した。ハーブを浸してる間に昼飯も済ませた。
そういや昨晩は片付け手伝おうとしたけど断られたんだよな。「坊主は一応客なんだからおとなしくしてろ」ってさ。
まぁそんなわけで、昨日はお言葉に甘えてゆっくりとさせてもらった。
ちなみに今日のお弁当はカツサンド。昨日とは違って柔らかいパンで、ソースのたっぷり付いたカツと潰した卵をサンドしてある。
カツサンドってさ、カツが主役と思ってた。いや、確かに主役ではある。でもパンという脇役がしっかりと仕事をしてこその主役だと感じたね。
パンの風味を出しつつも主役であるカツの邪魔をしない。まさにカツサンドのために生まれたパンだった。
加えて甘みのあるソースと、それがしみこんだ卵も忘れてはいけない。大きなアクセントとなって、カツサンドのクォリティを押し上げている。
現実世界に戻ったらこの味を忘れてしまうのかと思うと、もったいないような、ある意味ありがたいような。複雑な気分になった。
さて、そんなことより狩りを始めるとするか。今日の目標は三十匹だな。
◆
――――終わったーー。
昨日よりは多少は効率がよくなったかも知れないが、あくまで多少。
時刻は昨日よりも遅いのではないだろうか、あかね色の空は端の方から淡い青へと変わっていっている。
「お、やーっと終わったかー」
声をかけられ振り向くと、紫紺の髪の男、トライゾンが手頃な岩に腰をかけて笑っていた。
「ホントに今日も来たのか。一体いつからそこにいたんだよ」
問いかけると、トライゾンは相変わらずの笑い顔で答える。
「んーー、そうだな。昼過ぎだと思うぜ。ま、俺は約束は守るいい男だからな!」
「そんな時間からいたのかよ! だいたいそんな約束守らなくていい、他にやることがあるだろうに」
「いやー、俺もそう思ったんだけどさぁ。昨日俺が帰った後に面白いことがあったらしいじゃん? となると俺としては次は見逃したくないと思っちゃう訳よ」
だから来たんだと、トライゾンはニヤニヤしながら言う。
面白い事って何だ? どうにもいやな予感しかしないんだが……。
「一体どういうことだ。ちょっと詳しく話してもらおうか」
「詳しく話すも何も……。言うなればそうだな。“マーモットハンター(笑)が正座で説教を受けてる件について”ってところだな」トライゾンがポンポンと肩をたたいてくる「掲示板で今日も話題になってたぜ。やったな、これで有名人確定だ」
う、うれしくねぇ。こんな形で有名人になんかなりたくなかった。
「ま、そんなわけだ」落ち込む俺に対してトライゾンが続ける。「今日のところは何にも無かったみたいだけどなー。明日は楽しみにしてるぞ」
「毎日毎日おもしろイベントが起こってたまるか! つかトライゾンもこんなところで暇つぶしなんかしてないで、レベリングでもしてろよ」
「そういうなって。俺だってしっかりレベリングしてるんだぜ。ここにいるのはそうだな、息抜きってやつだ。それにな――」トライゾンは懐から一冊の本を取り出した。「こういうの図書館で借りてきててさ、これ読みながらコダマを眺めてるんだ。別に暇でも何でもない。読み終わるまでは来るつもりだぜ」
「マジかよ……。本なら図書館で読めばいいだろうに。大体なんなんだその本?」
「こいつ?」そう言って見せてくれた本には“ヴァルホルサーガ~英雄達の軌跡~”とある。「こいつはヴァルホルサーガVRの過去作の話だ。暇つぶしに借りてみたけどこれが意外と面白くてな、作品によってはエンディングで主人公が魔王になったりとかするんだぜ」
そういやそんなのもあったな。確か5作目だったっけか。
「……いやまて、今暇つぶしって言ったか?」
「いけね、口が滑った。退散退散っと」そそくさと帰り支度を始めるトライゾン。「あ、そうそう言い忘れてた。昨日コダマに説教してた子、嘘か誠かカネティスって言うんだろ? もし本当にカネティスって名前なら気をつけてあげた方がいいいぜ。VR界隈じゃちょっとした有名人だからな」
手をひらひらと振りながら、そう言い残してトライゾンは町に帰って行った。
あいつ、有名なのか……。
家が家とはいえ、あの引っ込み思案だったカネティスがゲームの方では有名人か。
まぁ現実とは違って、VRだと色々気にせず楽しめるだろうし、悪い傾向じゃないんだろうな。
とはいえどんな風に有名なのかは気になる。悪い意味じゃ無いとは思うんだが……。
夜にでもフジノキに聞いてみるか
◆
夜、部屋に戻ったところで早速フジノキに話を聞いてみた。
『カネティスちゃんがVR界隈で有名かって? うん、たぶんそうだと思うよ』
とはフジノキの言。
『多分ってことは、確証はないわけか』
『まあ本人に聞いたわけじゃないからね。ただ確証は高いと思うよ。僕の知ってる件の有名人って、名前はカネティス、主にリエージュの作るゲームのベータ版等に出没。常に好成績を残し、FPS系のゲームだと特にそれが顕著。だというのに正式版のゲームをやることはない。エルフ系のキャラクターを好む。といった形だ、共通点は多いよね』
『確かになぁ』
『おまけに君の叔父さんってリエージュの関係者なんでしょ。その娘なんだからまず間違いないよ。なんで今回アルヒのゲームをやったかって理由も想像つくし』
『なるほどね、なら一緒にいるときくらいは気をつけるか。基本、保護者といるらしいから心配ないけど』
『確かにね、明日も保護者の人たちと冒険するって言ってた。あさっては姉さんと一緒に冒険するみたいだけど……』
『そっかそっか。それにしてもキツネさんとカネティス仲がいいんだな』
『そうだね。姉さん割と面倒見のいい方だし、それにカネティスちゃんみたいな子、気になるみたいだよ。もしかしたらカネティスちゃんの方は嫌がってるかも知れないけど……』
『うーん、多分あれはなついてると思う。カネティス、いやならいやって言うし』
『……うーん、まあいいか。とりあえずあさっては僕も一緒について行くことになるだろうから、気をつけてみておくよ』
『そうなのか? それなら安心だ』
『……そんなに心配なら一緒に来ればいいじゃないか』
『いや、足引っ張って邪魔するわけにも行かないし、それにもう少しでレベルも上がりそうなんだ。こっちはこっちで頑張ってみるよ』
『君って意外と強情だよね。まぁ、こっちのことは気にしないで。でも時々はカネティスちゃんにも連絡取るんだよ。じゃないとまた……』
くそっ、笑いをこらえてやがる。
『わかったよ! それじゃあな』
『ごめんごめん、それじゃあおやすみ』
◆
明けて次の日。いつも通りのオールドー平原。
昼飯――今日は変わり種のおむすびだった――も食べたし、狩りの始まりだ。
ちなみにトライゾンはすでに昨日の岩に腰掛けている。
というかこいつのおかげでおむすびを堪能できなかったんだ。なんたって遠くにトライゾンが見えてから急いでかきこんだからな。こいつの目の前で食ってみろ。つまみ食いされるに違いない。
「なーにそんな恨みがましい目でこっちを見てるんだよ。むしろ恨めしいのはこっちだぜ」トライゾンは口をとがらせている。「もうちょっとゆっくり食べてくれりゃ、最後の一個ぐらいはつまめただろうに」
やっぱりか。味わえはしなかったが急いで食べてよかった。
「おめーに食わせる飯はねーよ」
「なーに一昔前の芸人みたいなこと言ってんだ? ……ま、俺は心が広いからな。ここで応援してるからがんばんなー」
そう言ってトライゾンは本を広げた。
……いや、ぜんぜん応援してないだろ。
こいつのことはもういいか、それよりも狩りだ。うまくいけば今日、遅くとも明日にはレベルが上がりそうなんだから。
◆
うーん、日も暮れてきたか。
レベルアップまでもう少しなんだけどなぁ。
とはいえもうすぐ日が落ちる。太陽が沈みきるとマーモットいなくなり、代わりに夜行性の魔物が出没し始める。夜の魔物は総じて手強いらしい、
さすがにまだ夜の魔物には勝てないだろう。加えて明かりも持ってきてないしなぁ。今日のところは諦めるとするか。
「お、今日のところはこれで終わりかー?」
トライゾンは岩の上で大きくのびをしている。
「ああ、これで終わりにするけど。トライゾンは今日も半日そこで本を読んでたけど、大丈夫なのか?」
「……いや、その点でコダマに心配されたかねーな。とはいえ言いたいことはわかるぜ。でもな、俺には秘策があるんだよ」
「秘策?」
俺が問い返すとトライゾンは立ち上がり大きく手を振った。
「そそ、おーいこっちだこっちー」
大きな声を上げて呼びかけるトライゾンの傍らに走り寄ってきたのはネコ。
ただし、直立しブーツを履き、しゃれた羽帽子をかぶったネコである。
ネコはこちらを見ると、帽子を取り大きくお辞儀をした。
「それがし、トライゾン殿の獣魔をしておりますペルーと申します。以後お見知りおきを」
「これはこれはどうもご丁寧に。自分はコダマと言います」
……主人に似合わず礼儀正しい獣魔だな。
「お、やはりコダマ様でしたか。我が主がお世話になっております。いやぁ我が主はひねくれ者な割に、顔に似合わず照れ屋でしてな。ご友人と呼べる方が少ないのですよ。コダマ様には今後とも、ゴペェ」
一気にまくし立てたところでペルーはトライゾンからげんこつをもらい、口を強制的に閉じさせられた。
トライゾンは顔を真っ赤にしている。
「コダマ、お前はニヤニヤこっちを見てんじゃねぇ。後ペルー、お前は採取できたかどうかだけ報告すりゃいいんだよ」
「もちろん採取は終わりましたぞ。全く我が輩を一人採取に放り出すとはひどい主だと思いましたが……。ははぁなるほど、ご友人との時間を作るためでしたら仕方ありますまい。このペルー、一肌脱ぎましょうぞ!」
ペルーはなんだか得意げである。それに反してトライゾンは見る間に憔悴していっている。
「はぁ、ホントお前もうしゃべんな……」トライゾンは大きく肩を落とした。「まぁ、こいつに採取頼んでクエストクリアしてるって訳なんだが……、なんかどっと疲れたわ。他にも色々話すことがあったけど今日のところはこの辺で帰る。それじゃあな」
「もう帰るのですか、わかりました。それではコダマ殿、失礼します。また明日も主と一緒に遊んでくだされ」
そう言って先に歩いて行ったトライゾンを追いかけたペルーだったが、案の定トライゾンからげんこつを食らってる。
――――いや面白い主従だった。一日の終わりにあんな面白いものが見られるとは……。
明日からが楽しみだ。せいぜいからかってやるとするか。
エル:しゃべる獣魔はそこそこレアだよ。
エル:現段階で引き当てるには卵から孵すぐらいしかないんじゃないかなぁ。
エル:ちなみにペルーが単独行動できてるのは、ペルーがそれ用のスキルを持ってるからだよ。
エル:さすがに遠くままで言ったら能力制限かかって、採取くらいしかできないみたいだけど。
エル:それでも十分なアドバンテージ!!
エル:トライゾン君は当たりを引き当てたよ、やったね。




