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第四話 ベイビーステップ

次回更新は、5月9日23時予定です。

 開けて次の日、俺は昨日と同じくノトス平原にいた。時刻も昨日と同じ昼過ぎだ。

 何で朝から来てないんだって? あのにっくきマーモットを打ち倒すための準備をしてたからに決まってる。

 用意するものに関しては、昨日おっちゃんが話してくれたからな。ちょっと手間はかかったけど、これに関してはお金がかからないのが何よりいい。


 さて、にっくきマーモットを倒すといいたいところだが、まずは腹ごしらえだ。

 ここに取り出したるバスケット。これは朝方おっちゃんが昼飯用にと渡してくれたものだ。

 ちなみにおっちゃん、昨晩は奥さんにこってりと絞られた様子で、見るからに疲れた顔をしてた。

 もしかしたらまた禁酒令が出たのかも知れない。ご愁傷様である。


 そんなことより昼ご飯だ。バスケットを開けるとそこには、フランスパンに野菜――野草の葉っぱ?――が挟まれたものが二つ入っていた。

 パンのサイズはそこそこあるから食べ応えはありそうだけど。何というか雑である。サンドイッチみたいなのを予想してただけに、残念感がハンパない。

 こんな形にするなら、昨日のソーセージみたいなのを挟んでくれればよかったのに。そうすればホットドッグ見ないな感じでおいしく食べられただろうに。

 あれか? 禁酒令の恨みか? くそ! おっちゃんも図体の割に度量の小さい男だな。見損なったぞ。


 ……いや待て、そうはいっても朝から用意してくれはしたんだ。ありがたくいただくとしよう。

 なにより食べなきゃ空腹で昨日の二の舞になってしまう。


「いただきます」そう言って野草詰めのパン――アイテム名に“ガンツお手製バインミー”とあるのがなんだか悔しい――を口にした。



 ――――なんだこれは!? 外カリ中ふわのパンに挟まれてるのは草じゃない。いや草ではあるんだけど、草だけでもないしただの草でもない。

 少しの酸味と香草の香り、後はパンの内側に何か塗られているのだろうか、クリーミーな味わいがそれらを統括する。

 うまい、うまいが中身が気になる。噛みしめた断面を見てみた。パンの中には香草、大根にんじんの酢漬けの千切り、そして裂いたチキンがぎっしりと詰め込まれている。そしてパンの内側にはしっかりとペースト状のサムシングが塗られていて、これがあのクリーミーさの要因となっているのだろう。

 ちくしょう、いい意味で見た目詐欺じゃないか。手が止まらない。あっという間に一つ目を平らげてしまった。

 だが大丈夫だ。俺にはもう一個バインミーがある。バスケットから取り出し、もう一つにかぶりつく。

 ……む、これは。さっきと味付けが違うだと!? いやそもそも香りも少し違う。ふっと鼻先をかすめる香り。これは魚醤の香りだろうか。加えてチリソースか何かのピリッとした辛みが食欲を誘う。

 いかん、まさか味を変えてくるとは。これまた手が止まらなくなる。

 ……いいやまてまて、正気に戻れ俺。もっと味わって食べるんだ。そうじゃないと昨日の夕食の二の舞になってしまう。




 ――――大変おいしゅうございました。ごちそうさまです。

 ダメだった。勝てなかったよ。気づくとと無くなってたよ。

 あとおっちゃん、器が小さいとか思ってごめんな。むしろ器が小さいのは俺だったよ。おっちゃんは体と同じく心もでっかいナイスガイだよ。


 

 さ、ひとしきり反省したところで次だ。食後のお茶、もとい水である。

 何を隠そうこのお水こそが対マーモット用の秘密兵器なのだ。とはいえ内情はただのフレッシュハーブウォーターなんだけどな。とはいえこれは料理人以外が作れる、数少ない効果付きの食べ物な訳で、その点で一線を画している。ただまあ、メリットデメリットの天秤は大きくデメリットの方に傾いているわけで、使い勝手がいいとは、とてもじゃないけど言えないんだけどね。



 ―――――――――――――――――――――

 ハーブウォーター


 生の薬草に、レモングラスやミント等のハーブをブレンドし水出ししたもの。

 生の水出しなので独特の渋みも出てないが、比例して効果も小さなものとなっている。



 効果  :HPの継続回復(微)

 効果時間:一時間

 ―――――――――――――――――――――

 


 この効果だけ見ればいいじゃないかと思うかも知れないが、そうじゃないんだ。

 効果の具体的な回復量は十秒ごとに1。本当に微々たるものである。レベルが低いうちなら何とか役に立つくらい、か?

 加えて料理効果は一種類しか受けれない。それならこのハーブウォーターじゃなくて、もっと高い料理効果を受けた方がいいに決まってる訳だ。

 とはいえそんな料理、お高いに決まってる。マーモット相手に使うなんて、費用対効果が悪すぎる。

 ハーブウォーターに関しては、午前中に自分で採取したものを材料にしているからな。水は朝用意してもらったし。実質ただである。

 なお採取にはオリゴナイフを使用した。おっちゃん曰く、オリゴナイフの使用用途は基本採取等らしく、武器なんかに使う人はそういないらしい。

 話を聞いて、そりゃそうだと納得したわ。

 ちなみにガンツお手製バインミーに食事効果はついていない。なぜなら調理効果がつくのは基本的に調理技能を持つエインヘリヤルが作った料理だからで、このハーブウォーターのような例外は少なく、またその効果も小さいとのことだ。


 そんなことを考えている間に、一杯目を飲み終わった。

 うん!、口の中がさっぱりして気持ちいい。


 さぁ、心機一転。勝負だ、マーモット




 ◆




 ふ、ふふ。勝った。勝ったぞ。

 苦節十分の激闘を制したのは、この俺。コダマだ。思わず無言で両の手を空に掲げてしまった。

 このマーモット、ライバルにふさわしく強敵だった。

 技能を持っていないせいか当たらない攻撃。たまに当てることができても、そのダメージは微々たるもの。一割も削ることができない。

 マーモットの攻撃もそう当たることはないが、十数回に一回の割合で来るクリティカルアタック。これのダメージが痛い。HPの半分近くを一気に持っていかれる。

 硬い鎧や盾を装備していればうまくいなすことができるかもしれないが、布の服じゃそうはいかなかった。

 うまく連続してクリティカルヒットを食らわないよう立ち回って攻撃して、何とか倒すことができた。

 その瞬間ガッツポーズを取ってしまうのは、致し方のないことだろう。


 いや、そんなことよりも経験値だ。

 マーモットとはいえこいつは強かった。ただのマーモットではあるまい。強個体、あるいはユニーク個体って言われるやつに違いない。

 つまり、経験値は期待できるってやつだ。



 調べてみるが、……おおう。

 メモリが1%位しか増えてない。

 いやね、実はうすうすは気づいてたんだよ。見たくない現実から目をそらしていただけなんだ。

 その現実って言うのはこいつだ……。




 ―――――――――――――――――――――

 戦乙女エルルーンの冥助


 

 依頼達成経験値上昇。

 取得AP微増。

 討伐・生産経験値低下。


 ―――――――――――――――――――――



 明らかにこの、“討伐・生産経験値低下”の影響のせい。おまけに“依頼経験値上昇”のメリットは受けられない。

 見れば見るほど現状、こいつはかなりのハードモードってやつだよなぁ。

 なんというか、いろんなもののかみ合わせが悪すぎる。

 だけど、だからといってここで諦めるわけにはいかない。この逆境を乗り越えてこそ見えてくるものもあるはず。

 エルだって、おっちゃんだって何とかなるって言ってたしな。

 それに、ここを乗り切りレベルを上げさえすれば、これのデメリットを軽減することができる。そうすれば一歩前進だ。

 ふ、ふふふ。やってやるぜ。

 まずは次のターゲットだ!


 そう思いぐるりと辺りを見回したら、一人の男と目が合った。

 紫紺の髪にアイパッチをした彼はこちらを見て、手をたたきながらカラカラと笑っている。


 やばい、もしかしてみられてた……。


「なんだ? 今度は百面相か? いやぁあんた、見てて飽きない! おもしろいなー」


「い、いつから、そこに、おられたので?」


「いや、さっき来たばかりよ。さすがに町のそばでうろうろするほど暇じゃないし」


「そ、そうか……」


 助かった。それなら今の様を見られてない、か。


「いやあ残念だった。もっと早く来てたらマーモットとの激闘を制し、一人エイドリアンのポーズを決め、その後突然笑い出す。そんな姿が見られたかも知れないというのに。いやぁ、本当に残念だ」 


「ふっざけんな、しっかりみてるじゃねーーか」


 ……ていうか、そんなことまでやってたのか。一人エイドリアンポーズとか恥ずかしすぎる。加えて突然笑い出すとか不気味すぎるだろ。

 

「いやー、面白いもの堪能させてもらったわー。掲示板見て来て、今日もいるかとこっちに来てよかったわー」


 ん? この男、今不穏なことを言わなかったか?


「ちょっと待て! 掲示板とはどういうことだ?」


「おや? お知りでない。ゲーム内掲示板の雑談版にあんたのことが載ってたんよ『最弱の魔物マーモットに勝負を挑み敗走した男がいる』ってな」


「まじか……」


 崩れ落ちた俺を見ながら、男は楽しそうな声音で続けた。


「よかったね、これで有名人入りじゃん」


 よくない、まったくよくねぇよ。


「ただなぁ、掲示板には裏切られたわ。あんたのポテンシャルは掲示板の比じゃなかった。もっと面白いもの見せてもらったわー」そう笑いながら話し続ける。「あ、そうそう。俺、トライゾンっていうんだけどあんたの名前は?」


「誰が言うかよ。掲示板にでもあげられたらたまらん」


「心外だわ。そんなことしないって、マジで。俺って秘密主義なんだよねー。こんな面白いこと他にもらすとかするわけないじゃん。」そこまで言ったところで男、トライゾンはにやりと笑った。「でもなー、教えてくれないならあること無いこと言いふらしそー。だからさ、偽名でもいいから教えてくんない? なんて呼んだらいいかわかんないじゃんよー」


 ぐぬぬ、言われてみれば相手が名乗ってるのに、名乗り返さないのも失礼か。業腹ではあるが。


「……コダマだ」


「おっけー、コダマだね。よっろしくーー」そう言ってトライゾンは握手を求めてきた「それでは早速、コダマに質問がありまーす」


 こいつ、見た目通り軽い男だな。


「何だよ、質問って。マーモット倒せないのはそういうクラスを取ってるからとしか言い様がないぞ」


「違う違う。それはいいんだよ。いやね、なんで卵孵してないのかなーって思ってよ。自然孵化目指してるんだろうけど、さすがに諦めて獣魔ギルドなり何なりで孵してもらった方がよくね?」


 そっか、それ聞いてくるか。俺が目をそらしていた事実その2を聞いてくる訳か。


「……ペット職に就いてないから無理」


「……は!?」


「だから!! ……獣魔士にも召喚士にも騎獣士にも、その他諸々にも就いてないから無理なんだよ……」


 そう、朝方獣魔ギルドに行ったけど、クラスに就いてないからって断られたんだ。

 自分で言ってて悲しくなってくる

 さっきまで軽い口調で話しかけてきてたトライゾンも心なしか俺の様子に気圧されている。


「そ、そうか。それはその、大変だな……。でもまああれだ。自然孵化の方が強いの産れるらしいからよ。頑張ればいいんじゃね? ギルドでの孵化みたいに方向性は決められねぇらしいけど。あ、いや、違っ」取り直すようにトライゾンが続ける「その、あれだ。精神の能力値と共感スキルのレベル上げて卵に話しかけてたら、結構いいの産れるってギルドのおっさんも言ってたから頑張れ」


 そう言って慰めるように肩をたたく。

 こんな軽い男に慰められる俺のステータス……。悲しいなぁ。


「まぁあれだ、明日も見に来るから、がんばんな」


「いらねぇ」


 肩に置かれた手を振りほどく。


「そんな悲しいこと言うなって。まぁ今日のところは帰るから。それじゃあな」


 そういってトライゾンは町に帰っていった。

 いや、もう来なくていい。というかトライゾンの奴、ホントに見に来ただけなのかよ……。



エル:作者が見直ししてるとトライゾンの名前が何回もエイドリアンに変わってたんだよね。

エル:それはともかくエイドリアンのポーズって何だろう。

エル:なんとなく語感で書いてたみたいだけど、コロンビアの方がよかったかもしれないね。

エル:なんとなくわかってもらえそうだから、とりあえずエイドリアンで通すみたいだけど。

エル:それはともかく全然話は変わるけどバインミーとフォーを食べてれば、ベトナムの食は満喫できると思うよ(暴論)

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