第三話 酒と涙と……
次回更新は七日23時予定です。
明日あさっては、ボドゲ&TRPGのアナログゲーム三昧。
ごめんないさい。
町外れの入り江。見張りのために作られたのだろうか、そこには2階建ての小さな砦があった。
入り江に突き出した形で建てられているそれは、長年放置されていたせいだろう壊れている場所が見受けられるが、そこを補強するかのように大きな木が覆い被さっている。その木と融合したような様がまた幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「どう? お兄ちゃん。すごいでしょ」
言葉を失っていた俺に、傍らの少女――十才くらい――が語りかけてきた。と同時に俺のおなかがぐぅと鳴る。
「も~、そんなにおなかがすいてるの? それじゃあ早くお父さんにご飯作ってもらお」
そう言って彼女は手を引っ張って中に案内してくれた。「妖精のとまり木亭へようこそ」の言葉とともに。
◆
「娘が男を連れてきたから何事かと思ったら、腹すかせた客かよ。ったく……、今日は忙しくて店休みにしてたからな、こんなもんしかだせねえぞ」
そう言って強面のおっさんが料理を出してきた。体格もごつい。腕周りなんて俺の太ももくらいはありそうだ。
そんなおっさんが持ってきてくれたのは、一口サイズに切り分けられたソーセージにケチャップをかけたものとパンだった。
「ユエが連れてきたんだ、こんなんで金取ろうとは思っちゃいねえよ。さっさと食え」
「あ、はい。いただきます」
おっさんに促されるままに料理に手を出す。まずはソーセージだ。口に入れると、ケチャップの上にかけられているカレー粉の風味が広がり、その後にケチャップの酸味が舌を刺激する。ソーセージだって負けてない。カリカリに揚げられたソーセージの皮はパリッとしていてかみ応えもあり、肉忘れんなよ!、とばかりにそのスモーキーな味わいを主張してくる。そんな個性的な奴らをまとめているのがタマネギさんだ。刻んで炒められたタマネギがケチャップに混ぜ込まれていて、その甘みがこいつらをまとめ上げている。うまい!! ただ惜しむらくはソーセージの量に対してケチャップソースの量がかなり多めなことか。これではどうやってもケチャップが余ってしまう。……いやまてよ。そうか、そういうことか。おもむろにパンをちぎってケチャップをつけて食べてみる。これまたうまい。なるほど、このための多めのケチャップか。
……、ふと視線を感じて顔を上げるとおっさんがこっちを見ていた。
「えっと俺、おっさんに見つめられて喜ぶような趣味は無いんで、困るんですが……」
「あほか、俺にもそんな趣味はねぇよ。だいたい俺はおっさんじゃねえ。一応まだ20代だしガンツっつー名前があるんだよ、覚えとけ。」
いや、そのひげ面で20代とか詐欺じゃないですかね。しかもこの面からあんなかわいい子が産れるなんて、ホント奥さんに感謝だよな。
「なんでぇ、なんか言いたそうな目じゃねえか。……まぁいい。それはともかく、うまそうに食うと思ってよ。料理人、冥利に尽きるってやつだ」
「いや、実際おいしいんだから仕方ないじゃないですか。でもですね、一つ欠点があるんです」
「ほう、なんだ。言ってみな?」
「……ビールがない」
「がはは、言うと思ったよ。ちょっと待ってな」
そう言っておっさんは店の奥へ歩いて行った。
いやほんとにね、この料理おいしいんだけど、無性にビールが飲みたくなる。むしろこの料理ってご飯って言うより完全に酒のあてだよね。
そんなことを考えていたらおっさん、もといガンツのおっちゃんが帰ってきた。手にはジョッキが二つ。あふれんばかりの白い泡で満たされている。ビールだ。
「ほらよ、特別に一杯だけおごってやる」
そう言ってジョッキを前に置いてくれた。
「ありがとうございます。あ、ちなみに手に持ってるもう一杯は?」
「あほう、こっちは俺の分だ」
「はは、ですよね。それじゃあ、ありがたくいただきます。乾杯」
「おう、乾杯」
カチリとグラスを合わせ、ぐっと飲む。鼻に抜けるフルーティな香りとともに広がるすっきりとした苦みが口の中を洗い流していく。ソーセージを口に含む。再び広がる香辛料と肉の味わい。肉を噛みしめ嚥下すると自然にジョッキに手が伸びる。やばいぞこれは、手が止まらない。ビアブルストビアバゲットのエンドレスループだ。肉がビールを飲めと促し、ビールが肉を食えとせっついてくる。
「――――あ……。」
気づくとビールもソーセージもなくなっていた。しかも皿の上はまるでなめたかとでも言うように、ケチャップも含めてきれいに拭われている。
「ははっ、まったくいい食いっぷりだったぜ。話しかけようにもその隙が全く見当たらなかったぐらいだ。料理人冥利に尽きるぜ」
「いや、ホントおいしかったですから。この料理とビールのコラボレーションがたまらないですよ。ごちそうさまでした」
苦笑しながら話しかけてきたおっちゃんに、そう答える。
いやあ本当においしかった。食べてる間はここが仮想空間だっていうことをすっかり忘れてしまってた。VRってホントすごいんだなぁ。
しかも実際の時間的には夕飯を食べたばかりなのに、そんな感じは一切しないっていう。
……そういえばキャラメイクの時、エルは気になること――外部時間で3時間、内部時間で2年――を言ってたな。これについては後でフジノキにでも聞いておかないと。心のToDoリストにメモしておこう。
「さて、落ち着いたところで、少し話いいか?」
少し居住まいを正して問いかけてきたおっちゃんに対して、いいですよと答える。
「そうか。いやなに、難しい話じゃねぇ。なんで初日から腹すかせて行き倒れかけてんだよってことだ。ユエが話しかけなかったら町に入ったところで行き倒れてたかもしれないっていうじゃねえか。 大体おめーは今日この大陸に着いたエインヘリヤルなんだろう? だったら開拓使庁舎で飯食わせてもらえるし、宿舎だって用意されてんだろ?」
「いや、それがですね……」と今日あったことを話した。
「なるほどな、俺的にはクラスを変えずに初心を全うするってのは好感が持てるぜ。こけの一念って訳じゃあないが初心を貫徹して特殊なクラスに就いたってやつもいるしな。ただなぁ、腹減って倒れかけたってのはいただけねぇ。単に自己管理ができてなかっただけだろうが。自己管理できないならできないなりに仲間を頼るとかっと、そこら辺は難しいんだったか。仕方ねぇ、明日から弁当作ってやるから、それ持ってけ」
「え? それって……」
「何度も言わせんな。同じエインヘリヤルだったよしみだ。お前が軌道に乗るまで屋根裏くらい貸してやるし、仕込みついでに弁当作ってやるっつってんだよ。今、かみさんとユエが屋根裏片付けてんだからちょっと待ってな」
さすがにそれはと言いよどむ俺に対しおっちゃんはさらに続ける。
「おっと、勘違いするんじゃねえぞ。もちろんただじゃねぇ。対価はもらう。とはいえ、使ってない屋根裏だ。安くしといてやるよ。何なら取ってきた肉や香辛料とかの現物で払ってもいいぞ」
「それはその……、ありがとうございます。お言葉に甘えます」
そう言って頭を下げた。
いや本当にありがたい。町に戻って宿を探したけどすぐには見つからなかったから、どうしようかと考えてたところなんだ。最悪テントでも買って野宿でもしようかと思ってたくらいだ。
これで宿問題は解決か。おっちゃんにも俺を拾ってくれたユエちゃんにも感謝だ。
それはともかく、そういやさっきおっちゃんが気になることを言ってたな。昔エインヘリヤルだったとか何とか。となるとあの壁に飾ってある細剣と銃はおっちゃんが使ってたって言うことに……。似合わねぇ。
「あん、なんだ? ああ、あの武器か。あれは爺さんが使ってた武器だな。俺はどうもああいうのは性に合わなくてな。やっぱ力isジャスティス、力isパワーだぜ。お前も食うもん食って力つけろよ」おっちゃんは笑いながら話を続ける。「とはいえてめーはその前に知らなきゃならんことが多いからな。仕方ねえから冒険のイロハってやつを教えてやるよ」
そう言っておっちゃんはソロで活動するときの注意点や、知ってるとちょっと得する情報なんかを教えてくれた。
その図体に似合わず意外と細かくてびっくりする。ある意味ここでようやく、みんなが職業ギルドで受けたであろうチュートリアルを受けてるってことになるのだろうか。
そんなことを考えつつおっちゃんの話を聞いていると、奥の階段の方から声をかけられた。
「おとーさん、お部屋の準備終わったよー」そちらを見るとユエちゃん――ここまで案内してくれたおっちゃんの娘――が、俺たちに手を振っていた。「あーー、おとーさんお酒飲んでるー。今日は飲まないって言ってたのに! おかーさーん、おとーさんがお酒飲んでるよー」
そう階上に向かって呼びかけたユエちゃんを見て、途端におっちゃんが慌て始める。
「やべえ、あいつらが降りてくる前に片付けようと思ってたのに、話に夢中になってすっかり忘れてた。この間禁酒令が解かれたばっかだって言うのに、また禁酒を言い渡されかねん。てめーのせいだぞ」
「ええー、俺のせいじゃないでしょう。だいたいこっそり片付けるくらいなら、最初から飲まなかったらよかったじゃないですか」
そう答えた俺に、おっちゃんはさらなる理不尽をたたみかける。
「いーや違う。大体おめーがあんなにうまそーに食わなかったら酒も持ってこなかったんだ。だからやっぱりおめーが悪い」
「いや、いやいや。それならそれで、ビールも一杯だけ持ってきてくれたらよかったじゃないですか!」
「ばかやろう、他人がうまそうに飲んでるのを眺めてるだけなんてできるわけねぇだろ。大体酒を飲めば口の滑りもよくなる。おかげでおめーも冒険のイロハが聞けたって訳だ。だからやっぱりおめーのせい……」そこまで言ったところでおっちゃんは、何かに気づいたかのような顔をした。「そういやおめー、俺の分も飲みたそうな顔してたな。よし、このジョッキは両方ともおめーが飲み干したことにしよう。それなら俺も怒られねぇ」
「なるほど、そうすれば私たちにはばれないと思ったわけですか……」
独り言つおっちゃんの後ろから女性が語りかけきた。
……おっちゃん気づいてないのか。終わったな……。南無。
「そういうことだ。おめーもいろんな事を知れた対価だと思って勘弁して……く……れ……や……」
ギ、リ、ギ、リと後ろを振り向いたおっちゃんの前にいるのは、当然奥さんな訳で……。
「冒険についてコダマ君に教えてたんだから、多少のお酒は許してあげようと思ってたんだけど……。隠そうとするどころか、まさか罪をなすりつけようとするとは。これはお仕置きが必要かしら」
「いや、待て。これには深いわけが……」
おっちゃんはしどろもどろになりながらも、言い訳しようとしてるが、まぁ無理だろう。
「話はゆっくり聞きますよ。さ、ユエはコダマさんをお部屋に案内してあげて」
「はーい」
ユエちゃんは元気よく答えると、俺の手を引いて階段へと向かっていく。
おっちゃん、強く生きろ。
◆
案内された部屋はベッドと机、それにクローゼットがあるだけの簡素なものだった。とはいえ泊まるには十分な広さもあるし、何よりさっき片付けてくれたせいか、ほこりっぽさもない。
崩れかけた壁を補完するかのようにせり出した大樹も、これまた趣があっていい。控えめに言って最高である。
「どう? いいお部屋でしょー」自慢げにユエちゃんが話しかけてくる。「頑張っておかーさんと片付けたんだよー。ほめてほめて」
そんなユエちゃんの頭をくしゃくしゃとなでてあげると、彼女は満面の笑みで見上げてきた。
「んひひー。おかーさんがね、好きに使っていいって言ってたよ」
そうなのか、それはありがたいなぁ。
「それじゃあ、おやすみなさい。お兄ちゃん、また明日ね」
そう言うと彼女は小さくお辞儀をする。
「ああおやすみ、また明日」
おやすみの挨拶を交わすと、彼女は部屋から出て行った。
さてと今日はもう寝るか。
っとその前に心のToDoリストを片付けないとな。
そう考えている俺に通信が入った。フジノキからだ。相変わらずタイミングのいいやつである。
『もしもしコダマ? 今大丈夫かい 』
『大丈夫だよ、どうした?』
『いやどうしたも何も、君今宿舎にいないでしょ。どうしたのかなって思って』
『いや、実は町外れの食堂に泊めてもらうことになったんだ』
そう言っておっちゃんの店に泊めてもらうことになった経緯を説明した。
『なるほどね。それはよかった。でもそういうことはちゃんと説明しとかないと。僕たちはともかくカネティスちゃん、すごく心配してたよ』
げ!? そういや連絡するの忘れてた。
『どうせ忘れてたんだろ、まったく。カネティスちゃんのフォローはしておくから、後で必ず連絡しておくんだよ』
『了解。そういや話は変わるけどこのゲーム、内部で時間は2年間の予定なんだって』
『そうだよ、これだけの高加速のゲームは初めてらしいね。二年たつかゲーム終了条件を満たすと終わり。おのおのの得点を計算してランキング。再度最初からゲームが始まる形になってる。その性質上一回ログアウトしたら――外部要因、内部要因問わず――再ログインは不可だから気をつけてね』
『大丈夫、トイレも済ましてるし、アラームが鳴ることはないはずだ。とはいえそんなに現実時間と差があって大丈夫なものなん? 心配になるんだが』
『政府機関の許可も出てるみたいだし、何よりレーテメモリアの件もあるからね。大丈夫じゃないかな。そもそも高加速で精神に影響の出る人は最初のVR登録の段階ではじかれるしね』
『なるほど、それなら安心だ』
『それならよかった。あ、そうそうβテストとはいえランキング上位には報酬があるらしいから、気になるなら見ておくといいよ。モチベーション増加にもつながるだろうし』
『おっけー、暇なときにでも見ておくわ。それじゃあおやすみ』
『おやすみ、ちゃんとカネティスちゃんにも連絡しておくんだよ』
『りょーかい』
さてと、カネティスに連絡を取るにしても今日はもう遅い。
明日にすることにして寝るとするか。ちゃんと心のToDoリストにメモっておけば忘れんだろ。
おやすみなさい。
エル:コダマの年齢に関してだけど、彼は浪人して二十歳以上かも知れないね。
エル:もしくはここはドイツかも知れない。
エル:後はそうだね、仮想空間なら中毒症状も起こらないし、飲んでもOKかも知れないね
エル:もしかしたら飲酒が十六歳からになってる世界線なのかも知れないぞ。
エル:つまり何が言いたいかというと、お酒は二十歳になってからってこと。
エル:それはそうと今回コダマが食べてたのはカリーブルストさ。
エル:作者がよく行くドイツ料理店では必ず頼んでるみたいだね。
エル:後そこに行くと必ずシュナイダー・アヴェンティヌス アイスボックを飲んでるみたい。
エル:手のひらで温めながらゆっくり飲むビール。じっくり感じる甘みがサイコー、らしいよ。
エル:おすすめではあるけど、度数は12くらいあるから、飲むときは気をつけてね。
エル:それじゃあねノシ




