第20話 スキルチェイン
アルブスが案内してくれたのは外だった。さっき話していた二階に案内してくれるかと思ったんだが違ったようだ。
「また外と思われるかもしれませんが、今の主にはちょうどの施設がありましてな。先にそちらをと思いました次第ですぞ」
そう言って母屋に隣接された離れの扉を開く。
中は庭の手入れの道具だろうか、刈り込みばさみなどがきれいに整頓されておかれている。そして壁際には簡単な物ではあろうが生産施設が併設されていた。
「あくまで簡易的な物ではありますので機能制限はありますが、そちらの方々のメンテナンス等あれば十分かと思いますぞ」
「いやいやアルブス。十分だよ」
ホントの簡易的な施設って言うのはこんなもんじゃない。生産クラスを持っていない俺が借りられる施設なんて、ホント簡単な修理ができるだけのひどい物だった。それに比べればここは天国だ。俺だとメンテナンスや修理くらいにしか使えないけど、ちゃんとしたクラフターが使えば、それなりに使える施設なんじゃなかろうか。
腰の二人は修理なんかを人任せにすることを許してくれないから夢のまた夢だけど……。こいつら、俺のクラスやスキルの範疇での修繕しか認めてくれないんだよなぁ……。
『ふむ、謙遜することはない。なかなかの施設じゃあないか』
『いっぱしのもんだよ。ここならバラしてのメンテナンスもできそうだね』
細剣と銃の声色も高く満足そうである。
「お褒めにあずかり光栄ですぞ。こちらには主にニゲルが詰めておりますので、ご質問があれば彼に尋ねるといいでしょう。また、この建物の上の階は使用人室となっております。何かご用の際は、そちらの呼び鈴でお呼びください」
アルブスが指した先にはベルがあった。なるほど、これで呼べばいいのか。
それにニゲルというと、ここに来て最初にあったゾンビの庭師だな。出会いは驚きだったが、それ以降はなんか微妙に気が抜ける印象だった気がする。
「わかった。早速ここを使ってもいいかな?」
「さようです……。失礼、他の準備が整ったようですので、先にそちらに案内させてもらってもよろしいですかな?」
アルブスは何か通信でも入ったようにコツコツと頭をたたいた。
「そりゃ別にかまわないけど。何かあったの?」
「いえ、どうせならば新しく手に入れたアーツを試した上でのメンテナンスの方がよろしいかと思いまして、ルベールが通信してニゲルに準備をさせていたのですよ」
ルベールは今はサロンのティーセットの片付けとかをしていたはずだが……。いやそうか、彼女は念話が得意って言ってたな。ならその特技を生かして三人で連絡を取り合っていたのだろう。
「わかった。じゃあ先にそっちに案内してもらおうかな」
「ありがとうございます。それではこちらにどうぞ」
そうしてアルブスは俺たちを再度外へと案内した。玄関の前を抜けさっきお茶をしていたサロンの前を通り過ぎ、ついには裏庭へと回る形になる。
そこには先ほど話題に上ったゾンビのニゲルが待っていた。
「ぐぉ、ごしゅじん。お、おで準備した」
「お、おう。ありがとう」
急に声を掛けられ驚きながらもなんとかお礼を言う。
そうしてニゲルが自慢げに用意した物を見ると、そこには巻き藁に簡単な手足をつけたような物が立っていた。まるで等身大の藁人形のようだ。
「ふむ、なかなかいい出来ですぞ。よくやりましたなニゲル」
アルブスがニゲルの肩を軽くたたき、その労をねぎらっている。
「お、おで、がんばった。ごしゅじん、これ使う」
ニゲルも照れくさそうに頭をかきながら頬を緩めた。
「使うとはいってもこのわら人形、どう使った物か……。スキルの的にするにしてもワラだとすぐに壊れるだろうし……」
思い悩む俺にアルブスが助け船を出してくれた。
「ご明察の通りスキルの試し打ちをするために用意をした物ですぞ。確かに主のいうとおり耐久度に難はありますが、そこはニゲルのお手製ですので、そうですな……、一時間程度なら持つかと。試し打ち程度であれば手頃ではないでしょうか」
「なるほど……」
『ま、とりあえずやってみようぜ』
『見る前に跳べともいう、まずは試してみてはどうかな』
フォルティスとレントゥスの言葉も俺の背を押した。
「そうだな、ちょっと試してみる。二人とも離れてくれ」
「かしこまりました」
「わ、わがった」
二人が十分に離れたところでレントゥスを右手に、フォルティスを左手に構える。
まずはそうだな――。
――〈モード:アグリアス〉
攻撃的な構えを取るアーツを発動させる。発動の瞬間、手に持った二人を前に構え前傾姿勢になる。だがその一瞬以降は何の構えも強制はされない。
……見た目にも特に変わりはない……か? レントゥスやフォルティス、それに自分の手足を見るが特に変わった様子はなかった。
……いや、バフとデバフが両方かかっているか。
『今はわかんないかもしれないが、この状態だとアタシを使ってのパリィなんかのタイミングがシビアになる。覚えておくんだね』
『その代わり、攻撃アーツの可動域も増えダメージも高くなる。何よりアーツ同士のつなぎもしやすくなる。まさに攻撃的と言えるね』
「なるほど、じゃあ少し試してみるか」
――〈ランジ〉
使い慣れたアーツを用い一息に間合いを詰め、わら人形を刺し貫く。
そうして刺した右手を軸に左足をさらに一歩踏み出し、今度は左手のフォルティスで――、
――〈ゼロ・コンタクト〉
バンッという音と共にわら人形の脇腹が斜め上に穿たれた。そして――、
――〈ボンナリエール〉
後退のアーツを発動させ大きく間合いを取る。
「ふぅ……」
ひとまず一息ついた。
なんだろう。確かにレントゥスのいうとおり一連のアーツが一つの流れのように発動できた。もちろん今までアーツを連続で発動させる事がなかったから比べる事は出来ないが、もしかしてこれが〈モード:アグリアス〉の効果だろうか。
ぱちぱちぱち
音に驚き振り向くとニゲルがこちらに拍手をしていた。
「ごしゅじん、すごい」
「確かにそうですな。なかなかの腕前でございます」
アルブスも褒めてくれる。ちょっと気分がいいな。
『この程度はやってもらはないとねぇ』
『そうだね、お二人もあまりこやつを甘やかさないでもらいたい』
手の内の二人は辛辣だ。これにはアルブスも苦笑いである。ニゲルも困ったように頭をかいている。
「ああそうだ、主よ。あれを見てくだされ」
困ったアルブスが指さす先を見る。そこにはわら人形があった。さっきの攻撃を受けて胴体と脇腹に穴が空いている。
が、その穴は徐々に閉じてわら人形は元の姿を取り戻した。
「なるほど、あんな感じで元に戻るのか」
「さようです。ただ回復のたびに耐久が減っていき耐久度がゼロになると完全に壊れる、といった形ですな」
「ちなみにどんな損傷でも治るの?」
「そのはずですぞ。損傷の具合によって、減る耐久度も変わるようですが。試してみてはいかがでございますかな」
「そうだな……」
それじゃあ今度はあのアーツを使うか。
俺は左手のフォルティスをわら人形に向かって構えた。
――〈チャージ・ショット〉
視界の片隅にゲージが現れる。何だ?
『早くたまに魔力を込めなっ。不発になるよ』
フォルティスの言葉にとっさに魔力を込める。くっ、デュラハン戦の時はなじませる感じだったから余裕があったが、それとはまた感じが違うな。無理矢理に後から押しつけている感じがする。
だがその効果はあったのかゲージがじりじりとたまりはじめ、程なくして満タンになった。
『準備が出来たようだね、撃ちな』
「くそっ、そんなに簡単に言うな。これ結構つらいぞ」
過剰に魔力を込めたせいか銃が、いや中にある弾がだろうか、それが暴れ銃口が定まらない。
『さっさと撃て、暴発しちまうよ』
「ああもう、わかったよ」
適当にわら人形の胴体に狙いをつけて引き金を引く――。
――パシィィィィン
案の定狙いは逸れ、弾はわら人形の頭をかすって虚空へと消えていった。だがその威力は思った以上に大きく、かすった頭を中心としてはじけるように回転してわら人形は倒れる。
「おお、なかなかの威力ですな」
「お、おで、びっくりした」
ニゲルはその威力に驚いて口を開けていたが、思い出したかのようにいそいそと倒れたわら人形を直しに行った。さすがに勝手に立ったりはしないのか……。
『ふんっ、軟弱だねぇ』
呆れたようにフォルティスがつぶやく。
「片手だったから仕方ないだろ。それにあんなに弾が暴れるとは思わなかったし」
デュラハン戦でたまに魔力を這わせたときはあんな反応はなかったしな……。
そう思い弁解するも武器の二人の反応は冷たい。
『それを抑えられるようにならないと、とっさの時に下手ぁうつかもしれないよ』
『事前に弾に魔力をなじませる。ギリギリまで時間を使ってゆっくりとチャージする。両手でしっかりと構える。どれか一つでも実践していれば多少の結果は変わっただろうがね』
知ってるなら先に言ってくれよ、そう思ったが続くレントゥスの言葉に口をつぐんだ。
『練習し失敗してもよい場があるなら体験しておいた方がよかろうと思い黙っていたのさ。むろん体験せずに理解できるならそれにこした事はないが、君はそんなタイプではないだろう?』
「……ああ、そうだよ」
見透かされているようで感じが悪いが確かに言われたとおりだ。ぐうの音も出ず頷くしかない。
「それでは残る使っていないアーツは〈鎧通し〉でしたかな? ニゲルの方が準備してくれましたので試してみてはいかがでしょう」
アルブスの言葉にわら人形を見ると、ニゲルがわら人形のクビに木の板を掛けていた。
「こ、これ。ぼうぐ」
なるほど、あの木の板をぼうぐに見立てて〈鎧通し〉を使えって事か。
「わかった。試してみるよ。さっきみたいな事になったら危ないからニゲルも離れてくれ」
「わ、わかっだ」
ニゲルが十分に離れたところでレントゥスとフォルティスを構える。構えは……〈モード:アグリアス〉のままでいいか。
わら人形との間は数メートル、〈レンジ〉を使うならともかく〈鎧通し〉のアーツだと少し離れすぎている。
なら――、
――〈ボンナヴァン〉
前進のアーツを使う。すると引っ張られるような感覚と共に一息でわら人形の前に立った。構えも。よし、そのまま攻撃に移れる。
いける――、
――〈鎧通し〉
――カンッ。そんな音と共にレントゥスがわら人形に掛けられた板の中心を貫く。アーツの力か、それともただの板だからなのか、その感触は思った以上に軽かった。
これなら次も――、
――〈スライド〉
今度はレントゥスを跳ね上げるようにしてわら人形を、そして板を切り裂く。
――ザンッ
ワラの裂ける音がする。だが意外な事に板は反発せずそれでいてきれいに切り裂かれていた。それに驚き、しばしそのまま固まる。
『はっ、うまく連携できたようじゃないか』
かけられたフォルティスの言葉ではっと気がつく。
「もしかしてうまくアーツ同士が連携できると、その効果が重複するのか?」
いや、そうじゃないとおかしい。だってただ掛けられただけの板なのに、レントゥスの切り上げで跳ね上げられもせず、ただ上に向けて切り裂かれただけなんだから……。
俺の疑問にレントゥスが答える。
『ふむ、ご明察の通りだよ。うまくアーツ同士を連携させる事でその効果を後ろのアーツにつなげる事が出来る。ただの連携じゃあない、まさにジャストのタイミングで連携させる非常にシビアなものだ。……だがそうだね、相手が動かないとは言え初見のアーツでやってのけるとは。〈チャージ・ショット〉はアレだったが、君は意外とこちらの方が向いているのかもしれない』
『なんだ? レン。ちょっと乗り気になってるみたいじゃあないか』
『いや、色々と問題はあるがなかなかどうして面白そうだと思ってね。よし、とりあえずアーツチェインの可視化をしようか。これに固執しすぎると帰って足を引っ張る事にもなりかねないから本来は消していた方がいいのだが、君には見えていた方がいいと思う』
『くっくっく。ほらコダマ、さっさと設定を変えな。珍しくレンがやる気になってるんだ、早くしたほうがいいよ』
「あ、ああ……」
フォルティスに促されるようにしてバトルの設定をいじる。……なるほどこれか。ジャストタイミングでの連携時にチェイン表示をするかしないかが変えられるようになっている。
こんなもの最初からあったかな? そんな疑問を持ちつつも設定を切り替えた。
『ふむ、準備が出来たようだね。そしたらはじめようか』
待ちかねたように声を掛けてきたレントゥス。うーん、なんだかスパルタの匂いがするぞ。




