第11話 オリオーネ区画 モブ
長くなる&代わり映えしなかったので10~15階の話はカットされましました。
それに伴い、9話での依頼内容や転移できる階層を10階へと変更しました。
出てくる敵変わったので依頼内容が……。
「さて」キツネさんがパチンと手を合わせ声を上げる。「今日のダンジョンアタックはここからが本番だよ。こっから先はアタシたちも初めてだし、気合いを入れていかないとね」
「ここから先は遺跡の様相もがらりと変わるらしいからね。今までとは違って注意していかないと」
フジノキも頷いた。
「様相が変わるって、どんな感じなんだ?」
フジノキにそう聞いてみたが、彼は首を横に振った。
「うーん。それがね、この先の遺跡の区画は候補が幾つもあって、その中からランダムに選ばれるみたいなんだよね。そして踏破数が規定を超えるとさらに高い難易度の遺跡の挑戦権が得られるって形みたい。あくまで今出てる情報だと、だけどね」フジノキが一息ついて部屋を見回す「ほら、その証拠にこの部屋、転送陣だけで他に階段も扉も見当たらないでしょ」
フジノキに言われ周りを見渡してみたが、なるほど確かにこの部屋には転送陣しかないな。
「ま、先の事なんてわからないんだから悩んでてもしょうが無いでしょ。さっさと行こう行こう♪ 世の中強く当たれば後は流れで何とかなるもんよ」
キツネさんはそう言って俺の背中をたたくと、さっさと転送陣に向かっていった。
「あーもう。またサキサキ行って。ちょっと待ってよ姉さん」
フジノキもその後を追いかけるように転送陣へと向かっていく。
あっという間の出来事に、気づくと二人は転送陣から消えていた。おそらく次の階層に向かったのだろう。
あっけにとられる俺の服の袖をカネティスがくいと引っ張る。
「……心配しなくても大丈夫ですよ。あんなこと言ってますけどキツネさん、安全マージンをしっかり取る人みたいですし。……それに兄さんなら何があっても大丈夫でしょう?」
「お、おう」
こちらを見上げて言うカネティスにそんな言葉しか返せない俺は、そのまま引っ張られるようにして転送陣へと入っていった。
◆
【オールドー地下遺跡:オリオーネ区画】
暗転した視界が明けると周りの景色が一変し、苔むした石壁になっていた。
ここまでの階層とは違い、むわりとぬめりつく空気がこの区画の生命感を醸し出している。
灯りがないかと言えば、そういったことは無く、壁に生えたこけがほのかに発光している。
「これはまた……、ずいぶんと趣が変わったなぁ」
「そうそう、いきなり雰囲気が変わったよね。明らかにここまでの遺跡と地続きじゃない感がある」
思わず出た俺のつぶやきに、フジノキが答えてくれた。
確かにそうだ。明らかに今までとは別個のダンジョンな感じがする。
「この区画のボスを倒す――クリアするとボス部屋に転送陣が現れてクリア扱いになるらしいよ。広さはピンキリらしいけどね。それ以外で帰るにはここまで戻ってくるといいみたい」
フジノキはそう言うと俺の後ろを指さした。そこにはさ、さっき俺が出てきた転送陣がある。
「なるほど、クリアできそうにないときはこれで帰れるって事か」
「入り直したら、その区画をまた最初からやり直しだけどね。後はそうだね、未クリアの区画がある人は、何度入り直しても同じ区画に通されるみたい。だから当たり区画――あればだけど――を引き当てるまで入り直す、なんてことはできないみたいだね」
「ふむふむ、さすがにそううまくはいかないか。……でもそうなると、別々の未クリア区画がある人同士がパーティを組んだ場合はどうなるんだ?」
ふと出た疑問をフジノキにぶつけると、彼は指をパチリと鳴らし答えた。
「なるほど当然の疑問だよね。実は同じくそれを疑問に思った人が検証しててね、その検証によると先に未クリア区画に行った人が優先されるみたい。例えば昨日区画Aに行ってクリアできずに帰ってきた人と一昨日区画Bに行ってクリアできずに帰ってきた人がパーティを組むと、常に区画Bに通されるみたいだね」
「なるほどね、うまくできてるもんだ」
そんな風にフジノキに遺跡について教えてもらっていると、キツネさんから声がかかった。
「なにクリアできなかったときのことを心配してんの。アタシ達が目指すは一発クリアなんだから関係ないでしょ。それよりこっちにきなって」
声を上げるキツネさんの目の前には扉、そして左右に道が広がっている。ちょうどTの横棒の真ん中に扉がある形だろうか。
そして扉にはあからさまに2つの大きなくぼみがある。
「一応ね、カネティスちゃんに調べてもらったんだけど、やっぱりこの扉普通に開かないみたい。このくぼみにはまる何かを見つけてこないとダメみたいなんだよねー。……というわけで、どっちの道に行こっか?」
「ちょ!? 俺が決めるんですか?」
「え? いやなの? 仕方ないなぁ。それじゃあ、じゃーんけーん、ぽん!」
「!?」
キツネさん声に促され、つい手を出してしまう。
「はい、チョキ。私の負けー。さ、どっちに行く?」
「え? あ、はい。それじゃあ右で」
「おっけおっけ、それじゃあレッツゴー」
意気揚々とキツネさんは右の方へと向かう。
でもあれ? ちょっと待て。そもそもじゃんけんって意味あったのか?
◆
「いやぁ、この区画の敵、結構めんどくさい、ね!」
キツネさんが、かみついてくる巨大な蜘蛛を捌きながら言う。
「確かに」
答えながら、目の前の蜘蛛に突きを放つ。それがとどめとなったのか、その蜘蛛は動きを止めた。
だが奥を見ると、白く大きな繭がもぞもぞと動いている。
さっきからあの繭がはじけて中から巨大な蜘蛛が現れてきてる。きりが無いったらありゃしない。いや、繭の数には限りがあるから無限沸きじゃないんだろうけど……。
……あの繭を壊したら、蜘蛛がわいてくるのを止められないものか……。弓でと思ってチラリとカネティスの方を見たが、彼女は彼女でで手がいっぱいのようだ。
実のところ蜘蛛と一緒にコウモリもわいて出てきて、カネティスはそっちの処理に回ってるんだよな。相手は飛んでるから前衛組は攻撃機会が限られるし。
……となると、――よしっ
「キツネさん! 俺、手が空いたんで奥の繭の処理してきます」
「え!? あ、うーん。……よしわかった、お願い。フジノキはコダマっちのサポートに回って」
「了解。右の止めてる蜘蛛。あと10秒で動くから気をつけてね」
「おっけー」
よし、キツネさんの許可はとった。みんなにできるだけ負担をかけないように、手早く済ませないとな。
さっそく蜘蛛糸で白くなった石畳を、奥にある繭に向けて駆けていく。
みんながタゲを取り、敵の動きを止めてくれたおかげで、道中邪魔をするものはいない。
『――止まれ!!』
突然の細剣の声に驚き足を止める。
『よく見てみろ、そこの蜘蛛糸だけ色が違う。罠かもしれんな』
その言葉に改めて地面を見てみる。他では白い蜘蛛糸がそこだけ黄色く濁っていた。
よくよく見ると黄色く濁った蜘蛛糸は、ぽつりぽつりと繭玉に向かう地点に設置されている。なんていやらしい。
『ありがとう、助かった』
レントゥスに礼を言っていると、急に立ち止まった俺をいぶかしげに思ったのか、フジノキが声をかけてきた。
「コダマ、どうかした。何かあったの?」
「いや、何か罠があるみたいだから少し迂回をしていく」
そう告げて、少し迂回をしながら繭玉に向かっていく。――大丈夫、今度は何もない。
そしてたどり着いた繭玉の前。微妙にもぞもぞと蠢くその姿は、正直言って気持ち悪い。
それに、ここまできたは良いものの、これって攻撃したら羽化が早まって即座に戦闘なんて事にならないだろうな。
なんか昔見たエイリアン系の映画で、そんな感じで襲われるのを見た気もするんだが……。
……ええーい南無三。
レントゥスでもって、目の前の繭を切り裂く。
繭はサクリと、思いのほか軽い手応えで切り裂かれ――
――ボフンと大きく緑の粉塵をまき散らした。
「うおっと」
とっさにマントで振り払うも、さすがにすべては振り払いきれずその粉塵を吸い込んでしまう。
むせるほどではなかったが、とたんに身体に走る微妙な嫌悪感。自身のステータスを見ると弱毒とある。
……なるほど。放置してたら蜘蛛がわいて出てくるし、かといって壊そうとすると毒をまき散らす、と。
なんていやらしい。
「どうする。毒、今治す?」
「いや、後でいいよ」
今治しても、他の繭を壊したら元の木阿弥だしな。
というわけでよし! 全部壊すとするか。
片っ端からレントゥスで繭を切り裂いていく。毒の粉塵が舞い散るもマントで口元を覆ってたおかげか、毒が悪化することはなかった。
まったく、マント様々、トラヴァーさん様々である。
残った毒も、フジノキがすぐに解毒&回復してくれたから問題なしだ。
こちらが繭を破壊し終わるのと時を同じくして、蜘蛛とコウモリの処理も終わったらしく、キツネさんたちが声をかけてきた。
「コダマっちありがとねー。いやあ、繭が怪しいとは思ってたんだけどさすがに手が回らなくてね。こっちが言う前に動いてくれて助かったよー」
「いえ、こちらこそ。フジノキをつけてくれたおかげで毒った後も安心できましたし」
「……その毒ですが」背後からカネティスがひやりと声をかけてくる。「その腰の銃を使えば良かったのではないですか? 残弾に不安があるとかなら別ですが……」
「あ……」
「……あ? もしかして忘れていたのでは――」
『――忘れていたんじゃないだろうね』
カネティスの言と同時に銃からも声がかかる。
やばい、忘れてた。正直言って銃はパリィに使うものみたいな、変な先入観が入ってたかもしれない。
『おいおい、せっかくちょっとは見直したと思ったらこれかい。いくら道具が良くても――』
「――いくら道具が良くても、ちゃんと使わなければ無用の長物でしかないんですよ」
おおおう、自業自得とは言えこのサラウンド説教は堪える。
「兄さん、聞いてますか?」
「あ、ああ。聞いてはいるんだが、今フォルティスからもサラウンドで似たようなことを言われててな……」
「フォルティス? それって――」
「――まぁまぁ、カネティスちゃんもそこら辺にしときなって。嫌われちゃうよ」
キツネさんが間に入ってくれた。まぁ今更こんなことで嫌う嫌わないもないんだが、カネティスがトーンダウンしてくれたのはありがたい。
「そ、れ、よ、り、も」キツネさんが指を立てて言葉を続ける「フォルティスからも同じ事言われるってどういうこと? もしかして武器と会話できるの」
「あれ? そういや話してなかったですっけ。この二人――レントゥスとフォルティスとは会話ができるんですよ。〔念話:限定〕ってスキルがあるんで、それのおかげだとは思うんですけど」
「へーー、じゃあその2つはインテリジェンスウェポンってわけだ。いいなぁ」
キツネさんが手をワキワキさせながら近づいてきた。
身の危険を感じ、とっさに身を離す。
「ダメです、あげませんよ。こいつらは大事な相棒なんですから」
「ちぇ、けちーー。……でも、こいつら、ね。ふーんそっかそっか」
意味ありげに微笑むキツネさん。
「ほらみんな、敵がまたわかないとも限らないんだから、先に行こうよ」
こちらを見ていたフジノキが声をかけてきた。
おっと確かにフジノキの言うとおりだ。こんなところで立ち止まってる暇はない。先に行かなきゃな、さきに、うん。
「ほら、フジノキもこう言ってることだし、カネティスもキツネさんも早く進みましょう」
「……そうですね。わかりました」
「確かにそうだねー。今回は勘弁して上げよう」
何とか二人を促して、遺跡の奥へと進むことになった。
……フジノキ、ありがとう。




