いさぎ良い者はカッコよく見えるものです
「カツラなんかかぶらないでいっそ坊主にしてしまえばよいと思うのですがね。」
デルタはひと段落して出発する前に4人を前にまだ笑っていた。
「きっとああいう方は根っからの隠蔽体質なんですわ。それに比べグルーチョさんはさっぱりしてらっしゃる。」
アトは苦笑いをしながら言った。
アトに悪気はないのだろうが、はっきりグルーチョがはげているといっているようなもんだ。
しかし、グルーチョはまたのほほんとした顔で空に浮かんできた星々を見上げていた。
グルーチョははげだと言われても痛くも痒くもない。
むしろその太陽のように光り輝く頭を誇りの様に磨いている姿をピコは何度か見ていた。
「さて、ここは任せて森へ発つ準備をしなさい。もう店も閉まってしまいますからね。アト、しっかりとグルーチョさんをお守りするんですよ。」
「はい、お父様。帰るときはこの国の平和を土産にしますわ。」
そう言うとデルタはピコにとられた分の金をそのままわたした。
その札の量は生々しくピコは冷や汗を流した。
「あぁ、それとメガさん。盗みをしたことは罪に問うべきことですが、町民に返していたということで処分を保留したい。その話についてだが明日の朝、そこの宿に来てください。絶対に…。」
デルタはメガを威嚇するように言った。
メガはビクッと身を竦ませると無言のまま頷いた。
その後4人はデルタに別れを言い、メガの家に荷物を取りに戻ると町に向かった。
「あぁ、やっぱ俺捕まるんだよね…。」
メガはその容姿に似合わず弱気な発言をして気を落としていた。
「貴方の発想は幼稚ですが、自分なりに町民を助けたいと思ったのでしょう?だったら罰を受け胸を張って戻ってくればいいのです。」
アトはガラにもなく悪人をかばうようなことを言ったせいで顔を真っ赤にして照れていた。
どうやらメガの印象はかなりよくなっているようだ。
「じゃ、私達は買物をするので…。」
ピコとアトは武器屋で足を止めメガに別れを切り出した。
グルーチョもそれにあわせて止まる。
「あ!待って…」
メガは武器屋に入っていこうとする3人を引き止めた。
メガはその場所から手招きをして3人を引き戻した。
「どうしたんですの?」
アトは不思議そうに言うとメガはまだ武器屋の方を見ながらピコとアトの手をとって歩き出した。
「あ…ちょっと…。」
ピコもアトも驚きながらもそれに従って歩いた。
グルーチョは金魚の糞のようにフラフラと着いてくる。
しばらく歩いた先でメガは止まった。
その目線の先にはさっきとは違う武器屋があった。
「危ないとこだったよ。あの武器屋のは品がよくない上に吹っかけてくるんだ。ここなら太鼓判を押すよ。」
そう言ったメガの目はキラキラと輝いていた。
どうやらメガは見た目に似合わずお節介な性格らしい。
「あ、ありがとう。」
その後メガと店主の勧めで武器を買った。
アトは小さいが威力の強い魔石が填っている30センチほどの杖を、ピコは初心者でも使える魔術道具的な武器を何点かグルーチョは、黄金の剣では重過ぎるだろうということで予備に長剣なのに恐ろしく軽いものを選んだ。
グルーチョに関しては使うかどうかはわからないが、ピコは新しいおもちゃを手に入れたように目を輝かせて使い方を店主から聞いていた。
3人が一通りそれを買うと店主は店じまいの準備をしながらメガに言った。
「あぁ、そうそう、この前面白い品が手に入ってな。お前にいいんじゃないかってとって置いたんだよ。」
店主は4人を残して店の奥に入っていくと何かを取り出してきた。
それはグローブのような物だった。
非常にシンプルな黒い指の出る手袋で手の甲の辺りに金属だか石だかわからぬ黒っぽいものがついていた。
「なんですか?」
メガはそれを受け取りながら言った。
「変化グローブだ。」
「は?」
それを聞いていたピコやアトもポカンとした表情だった。
「まぁ、それ、魔力の強い奴じゃなきゃ扱えないみたいだし、偶然ここにたどりついた人気の薄い品だ。千ルーンでいい。ほら、使い方も複雑でこんな説明書まで付いてる。お前には持って来いだと思うんだが。」
そう言って店主は厚さ1センチ以上もある説明書を渡した。
メガはそれを見て若干嬉しそうにしたがすぐに醒めた顔をして店主を見た。
「やっかいばらい?」
「あ…いや…違う違う。」
店主は何故か焦りぎみに否定した。
「なんか曰くがあるんじゃ?」
メガの問いは的を射ていたようで店主は動揺して笑った。
「あはは…まぁ、そんなとこだが、お前なら心配ない。それにむしろお前にとってはいいものになるだろうさ。むしろお前しか使えないと言っても過言はない。」
店主は確信を持ったような顔でメガに言った。
結局メガはそれを買うことになった。
明日から囚われの身になるかもしれないのに。
何故かメガはそれを買わなければいけないような気がしたのだ。
店主とも懇意にしているからそう思わされたのかもしれないが。
そのグローブをはめてやけにしっくり来る手を見つめながらメガはそのまま防具屋に3人を連れてきた。
そこでも同じようにメガと店主の勧めで防具を決めた。
メガはやけにそういうものの説明がうまく、防具屋では店主よりも商品に対して詳しかった。
ピコとグルーチョは軽くて動きやすい防具を少しだけ選んで終った。
同じように道具屋と携帯食を売ってるような店に行くとテントと薬草や毒消しなどを買った。
その過程でピコとアトのリュックはパンパンになっていまにもはちきれんばかりになり外側にも色々くくりつけられている。
大荷物だ。
「ありがとう!助かりました。」
ピコはやっと用事が終って案内してくれたメガにお礼を言った。
「貴方すごいですわね。私も知らないような魔術道具の知識に長けていてびっくりしましたわ。」
アトの子供とは思えない発言にメガはなれたのかただ照れるばかりだった。
「じゃ、また会えることがあったら、その時まで。」
メガはそう言うと駆け足で家に帰って行った。
ピコ達も同じようにデルタが用意してくれた宿に帰ろうとした。
「あ…あれ?おじいちゃんは?」
ピコがキョロキョロと周りを見渡してもその姿は見えなかった。
アトが少し走ったあたりで止まってある店の前で固まった。
「やぁだぁ、おじいちゃんったら、ほらほら、寄ってってぇ。」
何やら女性の甘ったるい声が聞こえたと思ったら、グルーチョを若い女の子達が取り囲んでいた。
そのハーレム状態にグルーチョはホエホエとした笑顔で立っており、店の中に連れ込まれそうになっていた。
店の看板にはこう書かれている
―お触りパブ天国の扉
「…な…何やってんじゃーい!!!!?」
―ペチ!!
駆け寄ってきたピコはグルーチョの頭を軽く平手で叩き引き戻した。
「おお、なんじゃ、ピコ。どうしたんじゃ?」
グルーチョはボケているのかわざとなのか何が起こったのかわからない様子だった。
「おじいちゃん!いくよ!」
ピコは少し怒ってグルーチョの手を引いて帰った。
その様子を見ていたアトはため息をつきながら二人の後ろを歩き出した。
更新が遅れてすみません。
私事が立て込んでおり、予約を忘れていました。