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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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 封鎖されていた街道を切り抜け自国へと戻る事が出来たホシー達は、ガウリス大公に半年前の情報を報告した。

 余りにも古い情報だが沿岸州の状況を考え、危険を顧みずに突破してきた我が国の兵士達の勇気を称えガウリスは労いの言葉を返した。

 北方で起こっている情勢の変化が、ガウリスの思っていた以上に激しいものである事だけでも有益と前向きに思う様にした。

「おいホシー、見たかガウリス様が俺達を褒めてくれたぞ、これで少しは俺達も名が上がったんじゃねえか」

 城を出て行く途中にダッグがホシーに話しかけてきた。

「何言ってるの、あんな古い情報でガウリス様が喜ぶはずが無いじゃない、本当なら何ヶ月も前に伝えておく情報だったんだよ」

「そんなの沿岸州の馬鹿共の所為じゃねえか、俺達は必死で切り抜けてきたのに意味ねえって思われたくはねえぞ」

「だからガウリス様は俺達の事を怒らなかったじゃん、それが答えだよ」

 名を上げ貴族に成れれば楽な生活が出来ると考えているダッグにとって、今回の任務は失敗でしかなかった。

「少なくとも俺達の評価は下がらなかったと思うよ、次の任務で頑張れば良いだけじゃん」

「いつになったら俺達は上にあがれるんだよ」

 小隊長の座を捨ててまで偵察部隊に参加したというのに、一向に地位が上がらない事ばかりで苛々する、これもホシーの性格なのか、地位や名声よりも人生を楽しみたいとダッグとは正反対の考えを持っていた為である。

 才能はあるのにそれを活かそうとしないホシーにいつも苛々させられていた。

「久しぶりに帰ってきたんだからナホちゃんの所に行ってあげなよ、きっと寂しがってるよ」

「ふんっ言われなくても分かってらぁ」

 約一年ぶりの長い任務を終え、それぞれの待つ家に帰って行った。




「お呼びで御座いますか?」

 ガウリスに呼ばれたグルバヌスは、もたらされたエスタルの情報について質問を受けた。

「……」

 グルバヌスは答えなかった、と言うより答えられなかったのだ。

(ディアンドル様のエスタル王暗殺計画が上手く行ったという事ですね、それでマールさんがローザンに向かったという事ですか)

 それを知るのはグルバヌスだけで、ガウリスにディアンドルとの繋がりを話せる訳がない、しかしそこで不思議に思った、エスタル王暗殺成功なら魔導王がいなくなったこの世の魔導が消えないのは何故だろうと。

「私が気になっているのは魔導王たるエスタル王が殺されたのに、まだこの世に魔導が存在しているという事です、あの言い伝えが嘘だったとすれば魔道士達に混乱が生じると思うのですが、それが起きていないというのが気になります」

「ふむ、魔導王が存在するからこそ魔導が存在する定説が崩れるわけですな、しかしそうなっていないとすれば噂は嘘であったか……若しくは新たな魔導王が誕生したという事ですかな?}

(それなら一体誰が……)

 という疑問が出てくる。

 エスタル王家の男子は一人だったはず、他には女性でマルティアーゼしかいないはず、なのにギルドに混乱が生じていないのが不思議だった。

「エスタル王女が王位に就いたとしても……」

 例えそれがマルティアーゼでも魔導王には成れないはずで、エスタルに何が起きているのかグルバヌスには答えられなかった、それを察したガウリスは、

「グルバヌス殿がこの前送った魔道士の偵察からの報告待ちになりますかな、しかし北方も一枚岩では無いと言う事が分かっただけでも良しとせねばなるまいか」

「そうなります、彼女なら何かしらの情報を持って帰ってくれると思います」

「ローザンと言えばエスタル王女が育った国では無かったかな、故郷とも言うべき国がエスタル王を暗殺したというのはどういう事だ、それ程までにローザンとエスタルは仲が悪かったのでしょうかな」

「……そこまでは私にも」

 じろりとガウリスの目がグルバヌスを見た。

「ともあれエスタル王国の地盤が揺らいだのはこちらにとって都合が良い、それに沿岸州でも次の戦争が始まりそうな状況、我らも準備に取りかからねばならぬ時に来たのかも知れん」

 ガウリスのいう次の戦争とは、ホシー達の街道突破でムングロ国とディストレア国で小競り合いが勃発して以来、街道封鎖が強化され緊張が張り詰めていた。

「だがディストレアはケルテに勝ったムングロに無理に挑発せず防衛に力を入れておる、ムングロも自国内の平定に今は力を入れており積極的に攻めようとは考えてはいないようだ」

「では私共が行って争わせように仕向ければ宜しいのですか?」

「いや、我々が手を出すのは得策ではない、我々はこの間にエストラ国の問題をどうにかしようと思っておってエストラから資産を運び出しておる」

「国力を下げるという事ですか?」

 かつてはグルバヌス自身の手で発展の為に注力したエストラ王国を、今は貧困国に変えようとするガウリスに複雑な面持ちで聞いていた。

「うむ、反乱の意思があるかないかではない、物理的に力を削いでおけば荒野の国に力を溜める術はないだろう、あとはエストラの者だけに運営を任せておけば良いだろう、向こうに常駐させている部隊も我が軍に必要な人材だ、エストラ王も我が手中にある、おいそれと手は出して来れぬだろう」

 これもエスタルのマルティアーゼを手にする為とはいえ、自分の実績が壊れていく事への切なさを感じるだけグルバヌスにも人の心はまだ持ち合わせていた。

(もう私には関係の無い国とはいえこの寂しさは何でしょうか)

 懸命に尽くした国に最後まで魔道士の偏見は見直されず、反対意見も通らずに滅亡への道を歩んでしまった国に愛想が尽きてしまったのだ。

(彼らが望んだ結果です、私はそれを止めようとしただけなのにどうして罪悪感を感じないといけないのですか)

 それに比べて敵国だったキエヌは魔導を取り入れ魔道士を優遇してくれた、これが最後には過去に囚われ先祖の復讐を遂げる為に切り捨てたエストラと、国の未来を考えこの先必要だと新しいものを取り入れたキエヌとの大きな差である。

(例え利用されているとしても私にも後ろ盾が必要ですからね、ガウリス様が世界最強のエスタルの打倒を目指すのが私の目的と一致しているからです、その後の事は分かりませんが私に取っては些末な事、マールさんさえ手に入れば何処か人の寄りつかない場所で二人で今生を過ごすだけが願いなんですから)

 ガウリスがエスタル打倒にグルバヌスを使い捨てにするつもりであっても、グルバヌスだってキエヌはエスタルにぶつける使い捨ての国でしかない。

(目的を達成するまではどんな事でも手伝いますよ)

「ガウリス様、エストラの国力を下げるのであれば一つ良い案がありますが」

「ほう、何ですかな?」

「水路に毒を流して作物を育てなくするのです」

「毒とはまた随分と大胆な考えですな、水路はグルバヌス殿が開通させたのであるまいか、貴殿で作ったものをその様な事に利用して宜しいのですかな?」

 ガウリスはグルバヌスが自分からその様な提案をしてくるとは思っておらず、意外な反応を見せた。

「エストラの最大の問題は食糧です、反抗の意思を削ぐというのでしたら食糧という活力の元を排除すれば戦う以前に生きる事に精一杯になりましょう」

「貴殿はそれで構わぬのですかな、元とはいえエストラに忠誠を誓った国に毒を流すとは」

「あの水路は農業用、飲料水ではありません、人を殺すのではなく作物を殺すだけと思えば……食糧が足りなくなればキエヌ側が援助という形で支援すれば宜しいでしょう」

「これはこれは」

 とガウリスは驚いた、グルバヌスが策を巡らすとは思っていなかったからだ、彼の言葉を聞いたガウリスにはすぐにその真意を理解していた。

「エストラの命綱をキエヌが握るという事ですな、食糧であれば兵士を使わずとも統治出来るか……それは良い案ですな」

 にやりとガウリスから満面の笑みを受け取ったグルバヌスは静かに頭を下げた。

「その策、取り入れる、貴殿に任せても宜しいですかな?」

「勿論で御座います、この様な仕事は私以外に任せられませんので」

「ではお任せしよう」

「はい」

 グルバヌスは丁重にお辞儀をすると部屋を出て行く。

 世界各地で起きている騒動に連動するようにキエヌでも裏側で来たる時の為に準備を進め始めていた。

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