第1章
春の風が吹いていた。
白い石造りの大きな門。
空へ伸びる尖塔。
広すぎる中庭。
そして、その奥にそびえる校舎。
「ここが……」
セレナは門の前で立ち止まった。
「アストリア魔法学院……!」
胸が高鳴る。
ルクシア王国で最も優秀な光魔法使い達が集まる場所。
そして、いつか王国を守る魔法使いになるための場所。
セレナは両手をぎゅっと握った。
「よし」
小さく息を吸う。
「いっぱい勉強して、いっぱい強くなって……」
青い瞳がまっすぐ前を向く。
「立派な魔法使いになるんだから!」
そう言って、セレナは校門をくぐった。
◇
入学式は長かった。
とても長かった。
学院長の話。
来賓の話。
ルクシアの未来についての話。
最初こそ真剣に聞いていたセレナだったが、三人目の挨拶が始まる頃には、もう半分くらい意識が飛んでいた。
「……まだ終わらないのかな」
小さく呟く。
ようやく学院長が話を締めた時、セレナはぱっと顔を上げた。
終わった。
そう思った。
「では、新入生はこれより入学試験を行います」
「……え?」
講堂がざわついた。
セレナも固まる。
「にゅ、入学試験?」
聞いていない。
少なくとも、今ここでやるとは思っていなかった。
教師が淡々と説明する。
「アストリアでは、入学時の成績によってクラスを決定します。筆記、魔力量測定、実技。この三つの総合評価で配属クラスが決まります」
セレナの顔から少し血の気が引いた。
「えぇ……」
強くなるつもりでは来た。
勉強するつもりでも来た。
しかし、そういう風にクラスが決まるとは思わなかった。
「ひえぇぇぇええ。」
◇
試験は夕方まで続いた。
筆記。
魔力量測定。
光魔法の実技。
終わる頃には、セレナは完全に疲れ切っていた。
「学院って……もっと楽しい場所だと思ってた……」
ふらふらになりながら講堂へ戻る。
そこへ教師が声を張った。
「結果集計まで少々時間があります。その間、生徒会長より新入生へ挨拶があります」
新入生達の視線が壇上へ向く。
一人の男子生徒が上がった。
白金色の髪。
落ち着いた立ち姿。
静かな瞳。
セレナはぼんやりと見上げる。
生徒会長。
まだ、それ以上のことは知らなかった。
彼は新入生達を見渡し、穏やかに口を開いた。
「皆さん、試験お疲れ様でした」
その一言だけで、講堂の空気が少し柔らかくなった。
「今は結果が気になると思います。ですが、今日の結果はあくまで今の実力です」
静かな声なのに、よく通る。
「上位だった者は油断せず。思う結果が出なかった者は諦めず」
セレナは自然と背筋を伸ばしていた。
「アストリアは、今日の順位ではなく、これからの努力を見る学院です」
一拍置いて。
生徒会長は少しだけ微笑んだ。
「一年後の皆さんを、楽しみにしています」
派手な言葉ではなかった。
でも。
なぜか胸に残った。
「……なんか」
セレナは小さく呟く。
「格好良い人だなぁ」
近くの女子生徒が驚いたように振り返った。
「知らないの?」
「え?」
「ルシアン先輩だよ。生徒会長の」
「ルシアン……」
その名前を、セレナは初めて聞いた。
◇
しばらくして、教師達が大きな掲示板を運んできた。
「クラス分けを発表します」
新入生達が一斉にざわつく。
「A組が一番上位だよな?」
「うわ、緊張する……」
「頼む頼む頼む……!」
セレナも慌てて人混みへ向かう。
「私の名前……どこ……?」
背伸びをする。
人の肩越しに掲示板を見る。
名前が並んでいる。
A組。
B組。
C組。
「セレナ……セレナ……」
そして。
見つけた。
「……あった」
セレナの目が大きく開く。
そこに書かれていたクラスは――。




