3話
……ザクザク。
焼けた草むらを踏む音が聞こえ、その方向に振り返ると一匹のウサギが目に止まる。
それは、ただのウサギじゃあない。
まず、二足歩行で歩いてる。
月兎とか言う生物とは違って、瞳が鮮やかな青色ででかい。
単純な計算だが、僕の四倍くらいはあるんじゃあないか?
さらに、片方の瞳にメガネのようなレンズが付けてて、ちょっと知的に見える。
「……なるほど。君も戦争の参加者と言うことですか」
君も……って言ったか?
じゃあ、こいつも神見習いの一人ってことか。
「戦争……? なんのことだ? 僕はただ、殺されそうになったから、殺しただけだ。ごく普通のことだろ?」
あえて、知らないフリをしてみた。
これで、向こうの出方を見る。
「そうですか。確かに、それはごく普通のことですね。……これ以上、貴方に探りを入れても無意味のようですし……ここは、お暇させてもらいます。それに……遅かれ早かれ、貴方とはまた会える……そんな気がします!」
それだけ言って、奴は森の中に消えていった。
……逃げた。
いや、どちらかと言えば強者の余裕。
お前なんかいつでも殺せる。
だから、今は見逃してやるよ!
ってところだろう。
だが、あながち間違ってない気がする。
あの体から、突き刺すように感じた魔力と冷酷さ。
「……なかなか、楽しくなりそうだ!」
弱者を一方的にいじめる。
確かにそれも楽しいが……強者、それも僕より圧倒的に強い奴。
そっちの方が、ゾクゾクしてもっと楽しい。
すると――ドサッ、ドサドサ。
また、足音が聞こえた。
「なんだ……?」
足音と言うか、何がこちらに走ってくる音。
それは、人間の女だった。
身長から察するに子供……いや、栄養状態が悪そうに見えるから、あれで大人なのかもしれない。
さらに、なぜか服を着てなくて体中、傷だらけ。
それは、そんな格好で走って来たからかもしれないが……それにしては、傷が深いし出血の量が多すぎる。
僕はこっそり彼女に近づいた。
近づいて気づいたことがある。
異様にお腹が膨らんでる。
乳もデカくて乳首も真っ黒に黒ずんでて、乳白色の液体がポタポタ垂れてる。
「……なるほど」
つまり、彼女は妊婦であの液体は母乳ってことか。
……母乳。
僕、母乳って飲んだことない。
物心付いた時にはもう施設にいた。
だから、両親の顔も知らない。
……飲んでみたい!!
多分、この感情は知的好奇心から。
どんな匂いで、どんな味がするのか?
そんな考えが、頭の中をぐるぐる回ってる。
「……ダメだ!」
知的好奇心に負けた僕は、彼女の乳首に飛び付いた。
「きゃっ!」
彼女は、びっくりして尻もちをついてしまった。
だけど、そんなこと眼中にない。
飲んだことのない母乳の味に夢中だ。
「……なるほど」
牛乳より圧倒的に脂肪分が多く、舌にまとわり付く感じがある。
甘いには甘いが……どこか、鉄分ぽい味が残る。
よく母乳にロマンを感じるキモい男がいるって聞くが……正直、僕は何がいいのか全くわからん。
そんなことより……なぜ裸で何かから逃げるように走って来たのか、理解できてしまった。
お腹にでかでかと書かれた肉◯器と言う文字に、人の形をした象形文字のようなもの。
彼女から漂う独特の生臭い匂い。
「……売春婦」
しかも、自ら望んでなったわけではない。
おそらく、借金の肩代わりか工場の仕事と嘘をつかれて連れて来られたか。
「……かわいそうだな。彼女もお腹の中の子も」
そんなこと一ミリも思っていない。
思っていないが……自分と重ねてしまっているのかも知れない。
さっき両親の顔は知らないと言ったが……どんな人間かは知ってる。
正確には母親だけだが。
結論から言えば、母親は売春婦で僕は客の男性との子供。
店の決まりで堕ろすことになっていたらしいが、母親は内緒で僕を産んだ。
だから、僕を施設に捨てたってわけだ。
まあ、そのこと自体はなんとも思っていないけど。




