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神秘のメダルと迷宮探索者  作者: 樹瑛斗
第5章 神秘の迷宮
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第36話 土の道

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 アルフ大陸の北部のネライダ地方と北東部のファートゥル地方を分け隔てるのは、地竜山脈。その山脈の西側の麓の地域を人々は濃霧の森と呼んでいる。


 ノルとファノは、その濃霧の森の隠者の館から東に向かって進んでいた。


 濃霧の森を切り裂くように敷設された硬い土の道。ノルとファノは黙々とその土の道を辿っていた。


 その土の道の途中には、一定間隔で小型の硬い土で作られた小屋が建てられていた。中を覗くと、土の椅子に土のテーブル、土のベッドが備え付けられている。どの家も基本的な構造は同じ。更に家の四方の外壁には、魔除けの魔方陣が描かれていた。

 おそらく、土の道を敷いた何者かが、野営用に作ったのであろう。

 ノルとファノは丁度良く野営に使わせて貰っている。


 途中、何度か大蛇に襲われたが、苦もなく退けるノル達。干し肉に飽きて、一度、その大蛇の肉に手を出したのだが、恐ろしく不味かった。


 何と言う魔獣かは知らないノル達であったが、もし魔獣辞典を作っている者と知り合えたならば、その魔獣の注意書きとして、肉が恐ろしく不味いことを書き加えて貰おうと話し合うのであった。


 4日ほどで濃霧の森を抜けると地竜山脈に辿り着く。ノル達は、その地竜山脈の横腹に大きな穴が空いているのを発見する。そして、土の道は、その穴の中へと続いているのであった。


 ここまで、真っ直ぐに敷かれていた土の道が、洞窟内に入るとなくなっていた。


 ただし、途中途中で、あの野営用の小屋が作られているので、形跡を辿ることは出来る。



「まるで迷宮だな」

「地図を書いていても迷いそうよ」



 本当に洞窟型の迷宮なのではないかと思い始めるノルとファノであるが、やはり、迷宮の独特な空気感、雰囲気ではなく、自然洞窟なのだろうと納得する。



「それにしてもデカイよな」

「人が掘ったものではないわね」



 どの道も高さも幅も5メートルを越えている。『灯火の石』を道の中央に置くと、天井まで灯りが届かないのだから、本当に広い。


 道中は、蝙蝠、鼠、蜥蜴、正体不明の爬虫類、蜘蛛等々の小型の魔獣と遭遇する。特に脅威ではないのだが、数が多いのと、ファノには姿形が生理的に受け付けないようで、精神的に疲弊していた。



「今日で何日目なんだろうな」

「……一週間くらい?」



 陽がない洞窟内であり、ずっと代わり映えしない景色に時間感覚も狂わされるノル達であった。



 ◇◇◇



 そして、一週間が過ぎた頃、大きな空洞へと出る。迷宮管理局の建物がすっぽりとおさまりそうなほどに大きな空間であった。



「この空間、不思議な感じがするな」

「神殿みたいな神聖な感じ?」

「うん、それに近いかも」



 暗がりに目を凝らして見ると、祭壇のようなものがある。ノルとファノの感じた通り、神殿に近い場所なのかもしれない。



「っ!ファノ……」

「……分かってる」



 その広い神殿のような空間に二人が進むと、周囲から何者かが集まってくる気配があった。それも、1人、2人ではなく、数十人である。


 ノルとファノが周囲を警戒していると、突然、明かりが点く。



「お前達は何者だ!」



 男の声は洞窟に反響し、ノルとファノの胸を振動させる。



闇長耳系妖精族(ダークエルフ)のノルとファノだ!」



 ノルもお返しとばかりに大声で返す。あまりにも大きな声にファノは思わず耳を塞ぎ、ノルを睨む。



「あなた方こそ何者なんですか?」



 ファノにごめんと仕草で伝え、今度は少し押さえ気味に男達へと問い返す。



「答える道理はない。お前達がどんな目的でここに侵入したとしても関係ない。即刻、立ち去るが良い!」



 有無をも言わせぬ物言いに少しカチンとくるノル。



「ここは、地竜山脈の中。どの国の領土でもないはず。それを侵入と言い張るからには、その根拠を示して貰おう!」



 ノルも堂々と言い放つ。少し気分が高揚している。それを感じたファノは、そっとノルの腕を触る。



「ここは、遥か昔から我ら地竜系竜人族の住処である!どの国であろうと、どの種族であろうと、我らの住処を荒らす者は許さない!」



 ノル達を囲っている者の正体が地竜系竜人族と判明するが、そもそも住処を荒らすつもりがないノル達。



「地竜系竜人族の勇者達よ、俺らはあなた方の住処を荒らすつもりは皆無!

 俺達はある男の足跡を追ってきた。ここより西に野営用の小屋を作った普人族の男。

 俺達はその普人族の男を追う宿命を背負っている。

 おそらく、その男の足跡は、ここより東に繋がっている筈なんだ」



 ノルは住処を荒らすつもりがないことを伝えるとともに、普人族のダイジのこともちゃっかりと出して様子を探ってみる。



「賊風情の戯れ言には付き合わん!即刻立ち去れ!」



 何を言っても無駄のようだ。こう言うことは前にもあった。いつだったか……どう解決したのだったか……



「……たった二人相手に大人数で囲わなければ話も出来ない臆病者よ!此方を従わせたいのであれば、一対一で俺を倒してからにしろ!」



 相手を挑発するノル。ちょっと、言い過ぎないでよ、事を荒立てないでよ、と小声で注意するファノ。



「従わせるつもりはない。賊風情が立場をわきまえろ。立ち去らぬならば、殺すのみ!」



 地竜系竜人族の言葉を聞いて顔を見合わせるノルとファノ。



「なぁ、もうこれ以上は何を言っても無駄じゃないか?」

「無駄っぽいけど、どうするの?」



 小声で相談するノルとファノ。



「……もう一回、挑発してみても良いかな?」

「えっ?これ以上荒立たせるつもり?」

「ちょっとだけ、ね?」

「……任せる」



「俺の知っている黒竜系竜人族の男は勇敢なヤツだが……同じ竜人族でも地竜系は臆病なんだな」

「なん、だと?貴様、我ら地竜系竜人族を愚弄するつもりか!

 ……ダルカン、前へ出ろ」

「おう!」



 幅広の両刃の大剣を担いだ大きな男が前に進み出る。



「もしも俺がこの大男に勝ったら、俺達の話を聞いて貰うぞ」

「貴様が万に一つも勝つことはないが、我らの誇りをかけて約束しよう」

「では……いざ、勝負!」



 突然始まった一対一の戦闘。


 大男は、幅広で両刃の大剣を正眼に構える。


 ノルは闇の靄を纏い、無手で突撃する。


 大男は、ノルの攻撃に備え……


 ガキンと硬質な音が鳴り響くと、大男の大剣が粉々に砕けていた。


 大男が反応も出来ずに唖然とする中、ノルの拳撃が大男の腹部に吸い込まれる。


 大男は何もすることが出来ずに膝をつき、顔面から地面に倒れ込む。


 正に一瞬の出来事であった。



「俺の……勝ちだよな?」



 勝ち名乗りを上げるノル。

 地竜系竜人族の面々は言葉を失っていた。



「俺の勝ちに納得出来ないヤツは相手になるぜ?」



 何も反応がないので、更に挑発するノルだが……



「……」



 地竜系竜人族のリーダーは反応しない。反応出来ないのだ。なんと返せば良いのかわからない。おそらく、この人数で束になってかかっても相手にならない。それ程の実力を目の前の男は持っている。地竜系竜人族のリーダーはそう覚るのであった。



「……お主……何者だ」

「えーと……

 獣人族国家ノースグラスのノル。銀狼系獣人族と闇長耳系妖精族(ダークエルフ)の混血で、迷宮探索者だ。

 まずは、俺達があなた方の住処に無断で侵入したことを謝らせてもらう。ごめんなさい。

 で、俺達がここにいる理由は、さっきも言ったけど、黒髪黒瞳の普人族のダイジってヤツを追っている。

 おそらく、数年前にここを通っている筈なんだ。そいつは、神秘のメダルを求めて世界各地を回っている筈なんだ」



 大男に勝ったら、話を聞いて貰う。そう約束したので、話を聞いて貰おうと一気に話すノル。



「そうか……

 我らも一方的に賊と決めつけたことを詫びよう。済まなかった。

 そして、我は地竜系竜人族の族長ンガルミと申す。

 ノル殿が追っている普人族の男は確かに覚えておる。

 あれは、およそ5年前……」



 突然、この地を訪れた黒髪黒瞳の普人族の男。地竜系竜人族が神と崇めていた、この地に住む古い地竜を、その男に殺められた。同時に地竜系竜人族の戦士も十数人が殺められた。そして、地竜は『力のメダル』の保持者であり、その普人族の男にメダルを奪われたのだ。



「……言い訳になるが、それから……我らは、この地に無断で侵入する者を異常な程に警戒するようになったのだ」



 地竜系竜人族の族長であるンガルミはそう語った。


 隠者の館でメイドに聞いた話とまるで同じ手口であった。その話を聞いたノルとファノは、尚更、ダイジを野放しに出来ないと心に決めるのであった。



「地竜系竜人族のンガルミ殿、その地竜を殺した男が俺達の追っている普人族のダイジと同一人物ならば、あなた方の無念を、俺達が晴らしてみせましょう」



 こうして、ノルは地竜系竜人族の族長ンガルミと固い握手を交わすのだった。


 そして、ここまで集めた情報では、ダイジが『隠者のメダル』と『力のメダル』を保持していることになる。


 おそらく、他にもメダルを保持しているのではないかと思われる。それは、ダイジが危険であり、かなりの強敵であることを示している。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


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