進撃
なだらかな登り斜面を草を蹴飛ばしながら森を走る。
見える限りでは穏やかな、静かな森といった風態だが、そこかしこから嫌な気配を感じる。
右から左から、前から後ろから、というだけではない。
時には上から、下からも来る。
そして、今また。
ゲキャッゲキャッ
と人の心を寒くする奇声と共に黒い小人が降って来た。
魔王鎧の小手を棒状に伸ばし、三匹の小人の頭を殴りら飛ばした。
「ダルガ右!ビリィ左!」
「おぅ!」
「ん」
間髪置かず狼に乗った小人が左右から三匹づつ、後ろからは弾弓を引き絞った小人が五匹現れた。
「フーカ、後ろだ援護に入る」
「はいっ」
前方からの襲撃がない事を確認しつつ、光の矢を構えるフーカの前に滑り込み、フーカに向けて飛んで来た石の球を弾き落とす。
入れ違いに飛び交った光の矢が五匹の小人をハリネズミにした。
ビリィは・・・問題ない。
アレは森の中なら狼より速く走る。
ダルガは、流石に分が悪い。
押し負ける事はないが、機動力が違う。
即座に騎狼小人の側面に入り、ダルガに気を取られている黒小人を狼ごと叩き潰し、蹴り飛ばした。
他に敵は・・・居ない。
「よし」
連携はまずまずだ。
ダルガも最初こそ周囲を気にして傷を負う事もあったが、連戦に次ぐ連戦から自分の仕事を理解して、任せる所は人に任せる大事さを分かってくれたようだ。
「フーカ、魔力は大丈夫か?」
「三割減といった所です。このままの調子ですと、後二時間程が限界かと・・・」
「よし、分かった」
ダルガとビリィの体力は問題ないだろうが、フーカの魔力量と後、
「ディルクート、大丈夫か?」
「は、はいっまだ行けます」
ディルクートの体力が心配だ。
「里まで後、どの位ある?」
「かなり早いペースですので日が傾く頃には着くと思います」
イラクサの町を出て、森に入り一時間程、頻繁にあった襲撃も今は大分少なくなった。
とはいえ、里までまだ大分あるというのにこの広さをカバーして配置しているのかと考えると少し恐ろしい。
小人はその殆どが三人以上で組み、組織的に当たって来る。
となると・・・。
「今の速度で突き進むのは少し危ないか・・・」
あまり整備されて居ないとはいえ、道だ。
襲撃の頻度から見ても、道を使う限りこっちの行動は把握され続けると思った方がいいだろう。
出来れば、里に入る時には強襲という形を取りたい。
「ビリィ、こいつらはどこまで統制されてると思う?」
「少しばかり信じ難いが・・・、かなり高いレベルで訓練されているとしか思えない。ジンの索敵レベルが高すぎて奇襲こそ成功できていないけど、普通に軍とかで進行してたら結構な被害が出ると思う。ただ・・・」
「ただ、なんだ?」
「この森林戦の手法が私達がよくやるやり方に似ている。ダークキュイビットを使役してるのってもしかしたら・・・」
ビリィがディルクートをチラリと見て、言葉を濁した。
それは想像してなかった。
裏でエルフ族が一枚噛んでる可能性か・・・。
だが、今は早計という他ない。そう断定出来る要素が乏しい。可能性の一つとして頭の隅に残しておこう。
「ちなみに、このまま突き進んだとして、どうなると思う?」
「私なら包囲策か分断策、もしくはその両方だな。強い個体、ここで言うならオーグ三編隊くらいを断続的に突っ込ませて、騎兵で囲んで各個撃破狙う」
怖っ
そんなのやられたらこっちにも被害が出るな。
「情報統制ってどこまで出来てると思う?」
「それは・・・、いくら訓練で編隊行動が出来ると言っても、ダークキュイビット自体がそこまで賢くない。拠点を一個か二個作って、そこに情報をまとめて中央に送るくらいじゃないかな?」
「細かく情報拠点を作って二次策、三次策を取っている可能性は?」
「ダークキュイビットとオーグ以外の種族が居ないと無理だろうなぁ。ダークキュイビットだけならすぐ混乱して使い物にならなくなると思う」
なら、やりようはあるな。
「それなら、拠点を潰しに行くか」
「場所は?分かるの?」
「監視してる奴の動きと、それらしい気配の塊から大体は絞れてる」
「うわぁ、ジンの索敵レベルは本当にエグい。森林戦の利点を尽く潰すねぇ」
ビリィの尻尾がバッサバッサと振れてる。楽しそうだねぇ。
「それじゃビリィ、監視は樹上に一匹とその下の狼に乗った小人一匹のセットが二つなんだけど、一人でいける?」
「難しい事を言うね」
「あっちに一組、そのちょい奥の方にもう一組。手前の方はこっちで引きつけるから奥の方から頼むわ」
「あいあい」
「よし、行くぞ」
掛け声と共に、道から外れて森の中に入った。
森の中は積み重なった枯れ葉や下生えが邪魔で少し歩きづらい。が、歩き難いという程度で、人を拒絶するように鬱蒼としている木々を切り開かなければいけないという程ではない。
この位ならいけるだろう。
そして、ビリィは森に入ったと思ったらいつの間にかに居なくなっていた。
本当に森の中だと頼りになる。
少しもたもたとしている風に進んでいると、奥の方で気配が続け様に三つ消えた。
ビリィが上手くやったようだ。
近い方の監視が少しづつ場所を変えているが、まだ異変に気付いていない。
そろそろかな?
「行ってくる。ゆっくり追って来い」
そう言い残し、姿勢を低くして走った。
「お気を付けて」
後ろからフーカの声が聞こえた。
走りながら気配を追う。
俺の行動にすぐさま気付いたようだ。
下にいる二つの気配が動いた。
狼に乗った小人が連絡に走ったんだろうが、そっちの方向にはビリィがいるはずだ。問題ない。
樹上にいる小人の姿は見えている。
まだ遠いが、樹上の黒小人と目が合った。気がした。
黒小人が動く、その手に何かを持ち・・・、あっ!いかん‼︎
角笛だ!
すぐさま魔王鎧を変形させる。
形は弾弓。
一応、使える事だけは確認したが、練習はしてない。
一か八か。
黒小人の石弾を収納から取り出して引き絞る。
ギュィィィィ ギッ ギッ
弾弓が鳴く。
重いぃぃぃ、調整してねぇから・・・。
狙いを定めて、放った。
パキィ
石弾が打ち出される瞬間、何か文様が刻まれた⁉︎
万知さん⁉︎今、何を仕込んだ!
打ち出した石弾が青い光となって尾を引き、飛ぶ。
外れた!
と、思った瞬間、直角に曲がって小人の頭を撃ち抜き・・・消えた。
・・・。
え?
弓が強すぎて?撃ち出した瞬間に石が砕けるから補助した?
え・・・、あ、うん、ありがとう。
封印だな。この弓。
いや、フーカの負担軽減になるから条件付きで使うか。
「お見事でした」
後ろを見れば、フーカ、ダルガ、ディルクートが並んで立っていた。
その中でフーカとディルクートの熱い視線が痛い。
「ありゃ弾弓っていうよりむしろ魔弾だな。威力が酷い」
ダルガは少し呆れてる様だ。その気持ちがよく分かる。
「あんな事が出来るんだったら、私が走る必要なかったんじゃないか?」
いつの間にかビリィも帰って来ていた。
そんなに呆けてたのか?
「いやいや、見えない奴を無差別に撃ち抜ける程、便利じゃないよ」
多分。
「ビリィ、ありがとさん」
ビリィの頭をポンポンの撫でておく。
「さて、ここからは急ぐぞ」
異変に気づかれる前に拠点を潰さねば。
ただ・・・。
「ディルクート、大丈夫か?」
「は、はい、大丈夫です!」
元気はある様だが、少し息が切れてる。
体力がない。というよりは多分、疲労が溜まってたんだろう。
まだ先が長い分、無理はさせたくない。
背負ってくか。
ダルガは・・・体力はあるが、森の中を走り慣れてない分、キツイか。
ビリィは遊撃に残しておきたいから・・・、俺が背負うか。
「ディルクート、途中まで背負ってくから乗れ」
「「「え?」」」
ハモった。
ディルクートは分かるが、何故ビリィとフーカも驚く?
「いや、そんな、大丈夫ですから、走ります!」
「無理だ。ここから先は拠点を潰しながら走り続ける事になる。お前に途中で潰れられると困るんだ」
言い争ってる暇はない。
有無を言わさずディルクートを担ぎ上げ、背負った。
「ひゃっ!」
ひゃ?
・・・。
背中に掛かる感触が妙に柔らかい。
「急ぐぞ!舌を噛むなよ」
「は、はいっ」
何事もなかった様にとりあえず、走る。
こいつ、少年だとばかり思ってたが、少女だったのか。
いや、男だろうが女だろうが関係ない。
知ってても同じ事になってただろうし、深く考えるのはやめよう。
面倒くさい。




