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ギルド長

 昼飯の後、フーカを連れて冒険者ギルドへとやってきた。


 ビリィとダルガは食休みに飯屋に置いてきた。

 特に何もないとは思うが、ディルクートの護衛も兼ねて、一応。である。


 後、わざわざ雁首そろえて全員で行く必要もないと思っただけでもある。


 両開きの扉を押し開けて入ったギルドの中は思ったよりも人がいた。


 人相の悪い、人を何人か殺してそうなのがチラチラ見えるのはご愛嬌だろう。


 ただ、なんとはなし、殺気立っているように感じる。


 理由は外にいる黒小人のせいだろうか?

 まぁ、今の俺には関係のない話だ。


 中にいる冒険者らしい人の多さの割には受付は空いている。

 手近な受付に行く事にした。


「ギルド長が呼んでいる聞いてきた。ジンだ」


 そう言うと、若干胡散臭そうに俺を見ていた受付の女性が、


「ジン、様ですね。かしこまりました。少々お待ちください」


 と、言い残し席を立った。


 むぅ。


「フーカ」


「なんでしょう」


「俺の服装って見すぼらしいだろうか?」


「ジン様はどの様な格好をしておられてもジン様です。確かに冒険者と呼ばれる様な姿ではありませんが、気にされる事もないかと」


 ふむぅ。

 靴こそ魔王鎧なのでゴツいが、後はちょっと仕立てのいいズボンと半袖シャツのみだ。

 犬狼の国から出た時から、というか、この世界に来た時からの服装である。


 いい加減これしか着てないので若干、よれてきた感がある。


「いい加減に新しい服を買うかな」


「おともします」


 フーカがこっちをじっと見ているのに気付いた。


 ふむ。


 こっちの世界の感性と、俺の感性では多少違うのは分かってる。

 変に個性的と見られるよりなら、こっちの住人であるフーカの意見は聞くべきな気がする。


「分かった。今度頼もう」


「はい、承知しました」


 フーカが丁寧な礼をしてくる横で、先程奥へと消えた受付の人が帰ってくるのが見えた。


「お待たせいたしました」


 と、業務スマイルで武装した受付が奥へを案内してくれた。


 向った先は四階。

 受付は扉をノックしてから開けると、


「ジン様をお連れしました」


 と、中に向かって一礼し、俺らを招き入れた。


 中で俺らを迎えたのは酷い筋肉の塊だった。


「おぉ、よく来てくれたジン殿。儂はここでギルド長をやってるコークスだ。よろしく頼む」


 などと言いながら大仰に歓迎の意を示してくる筋肉。


 半袖シャツ一枚にズボンという出で立ちは俺の服装と似てはいるが、はち切れんばかり盛り上がった筋肉がなんとも暑苦しい。

 首の殆ど埋まった筋肉からハゲた頭が生えている。


 何を食って、どう鍛えたらそこまでになるのか、ちょっとだけ聞きたい。


 その筋肉が両手を広げて近付いて来て、握手を求める様に差し出してきた。


 応じない訳にはいかんよな。


 そっと手を差し出すと、あっはっはと笑いながら両手で掴み、ぶんぶんと振ってくる。


 手が厚い、指が太い。

 俺の手を完全に覆い隠した手が万力まんりきの様にギリギリと締めてくる。潰す気か?


 三度程振った所で気が済んだのか離してくれた。


「ささ、掛けてくれ」


 促されるまま、革張りのソファーに座った。


 すでにもう帰りたい。面倒臭い。


「新銀の冒険者であるが、中々にやる様だな。どれも大物の皮を多量に持ってきてくれたのはありがたいが・・・すまんが、少しばかり疑っていたのだよ」


 やっぱり、潰さんばかりに手を握ってきたのは俺を試す為か。


「いや、年の割にかなり鍛えられとる。その様子なら直ぐにでも金級に上がれるだろう。どうだね?幾つか依頼をこなしていく気はないかね?」


「悪いけど旅の途中でね。今は昇級に興味はない」


 元々、手っ取り早くお金が欲しかっただけで、仕事はなんでも良かった訳だし、今は特に困ってないし。


「そうか、それは残念だが・・・どうだね?褒賞は弾む、一つだけでも構わん。受けてくれんか?」


「何もない時なら受けてもよかったんだが、申し訳ないが、今丁度依頼を受けたばかりでね。遠慮させてもらうよ」


「依頼?ギルドが出した依頼かね?」


「いや、個人から受けた依頼だ」


「・・・差し支えなければ、どんな依頼を受けたのか、教えて貰えるかな?」


 筋肉ハゲの笑みが少し変わった。

 口元の笑みはかわらずだが、目に怪しい光が見える。

 手もひじを付いて前に組み、太い指を遊ばせている。


「エルフの里の救援」


 俺の言葉に筋肉ハゲの笑みが消えた。


「・・・正気かね?」


 筋肉ハゲを格好を真似する様に、前に乗り出して肘を付いて手を組んだ。


「冗談に聞こえたか?」


 バチィ


 と激しい音が鳴る。


 瞬発的に飛んできた筋肉ハゲの裏拳を、俺が右手で受けた音だ。


「フーカ」


 俺の後ろに立っているフーカの動きが止まった気配がする。


「やめなさい」


 今の瞬間に光の槍を構えていたフーカが、振り上げた手をゆっくりと下ろし、光の槍が霧散していく。


 少々怖い顔をしている筋肉ハゲがその手をゆっくりと下げた。


「いや、試すような真似をして申し訳ない」


 両手を膝の上に置いたハゲが、その頭を深く下げた。


「ギルドとしても受け切れないと断った依頼をうけているとは思わなかった。衰えたとはいえ、儂の拳を涼しげに受けられるともな・・・、思わんかった」


 ボリボリと照れ臭そうにハゲた頭を掻いている。


「儂の負けだなぁ」


 と、独り言の様にごちた。


「日頃、世話になっとったエルフを切り捨てる様な真似をしたのは苦渋の決断であった」


筋肉ハゲは目をつむり、何か思案してる様だ。


「ギルドとして、出来る支援をしよう。金級三組なら直ぐにでも出せる。依頼も仮になるだろうがすぐに出す。それから」


「いや、悪いが断らせてもらう」


「何と⁉︎」


「その金級も今すぐに、という訳にもいかないだろ?俺は今ここ出たらそのままエルフの里に向かうつもりだ」


「今からでは日が暮れるぞ?暗闇の中でダークキュイビットやオーグとやり合うつもりか?」


「いや、日が暮れる前に里の解放までやるつもりだ」


 不可能だ。

 そう言いたげな顔をしている。


「どのみち金級三組をどんなに言いくるめて出した所で、俺の言うことなんて聞かないだろ」


 それに真っ直ぐ突っ込むつもりの俺にどうせ付いて来れやしないし、結局は足手纏だ。


「依頼も俺が勝手に受けただけだ。そのままでいい。まぁ、アレだ。生きて帰って来たら酒でも奢ってくれ」


 そう言って席を立った。


 筋肉ハゲは腕を組んだまま、黙り込んでいる。


 部屋を出ようとドアノブに手を掛けた所で、


「待て」


 と、声が掛かった。


 筋肉ハゲが机に行き、ガチャガチャと鳴る大きな袋を持って来た。


「とりあえず、預かった皮の代金だ。受け取れ」


「遠慮なく」


 ジャラりとした重い袋を受け取る。


「それから、事を終えてちゃんと帰って来たなら、儂のとっておき中のとっておきを出してやる。ちゃんと帰ってこいよ」


 思わず笑みがこぼれた。


「楽しみにしてるよ」

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