依頼
冒険者ギルドへの仕事をダルガとフーカに頼み、俺とビリィは冒険者ギルドの向かいにある食べ物屋にエルフの少年を連れて入る事にした。
今回は冒険者ギルドに行こうと思っていたのだが、まぁ中々にままならないものだ。
「何か食うか?」
適当な席に陣取り、向かいに座ったエルフの少年に声を掛けた。
「いえ、大丈夫です」
やや緊張した面持ちでエルフの少年が首を振った。
「そうか、俺はジン。コイツはビリィ。お前の名前を聞いてもいいか?」
「僕は・・・、ディルクートです」
「ディルクートだな。分かった、いい名前だ」
周囲を見回し、目の会った店員を手招きして呼び寄せて飲み物を三つ頼んだ。
「それでディルクート。助けて欲しいとはどういう事だ?」
「はいっ、あの・・・僕の村がオーグの群れに襲われたんです。ただ・・・オーグの群れ位だったら大変だったにしてもそんな酷い事にはならないんだけど・・・、そいつら、狼に乗ったダークキュイビットとかいっぱい連れて、あっという間に・・・」
それ・・・、もう手遅れじゃないのか?
「なんとかみんな教会に逃げ込んだんだけど、教会の備蓄もそんなに多くないから・・・みんな・・・みんな・・・」
必死に、感情を抑えて話そうとしているが、溢れる涙を止められなかったようだ。
まぁ、気持ちは分かる。
親兄弟どころか、知り合いの全て、故郷そのものまで失うかと思えば・・・、それはとても怖い事だ。
共感してやりたい所なんだが、言ってる事が良くわからん。
こういう時にフーカが居ると聞かなくても教えてくれるから楽なんだが・・・、仕方ない。ビリィに聞くか。
「ビリィ、オーグってなんだ?」
「簡単に言えば気性が荒い、角の生えたダルガ」
ふむ。
群れたダルガは結構ヤバそうだな。ただ群れ位だったらそんな怖くないとか言ってたよな?
エルフも結構大概っぽい。
「後、教会ってそんなに頑丈な物なのか?」
食料の問題より、もっと直接的に危ないと思うのだが。
「多分、強い保護がかかってるんだろう。長い歴史を持つ里にはそういう昔の偉人聖人が強力な保護を掛けた聖域が置かれている事がままある」
「なるほど」
確かにちょっと外に出るだけで魔獣がゴロゴロいる世界だ。そういうのがあっても不思議じゃない。
空気を読まない店員さんが飲み物を三つ置いていった。
少し黄色味がかった飲み物だ。
一口含むと口の中に爽やかな甘い酸味が広がる。
レモン水かな?
「けど、エルフって森と生きる種族なんじゃないのか?聖域なら、何千年と生きた御神木とか、そんなんじゃないのか?」
エルフの里に教会があるとか凄い違和感があるんだが。
「ジン、それハイエルフだ」
ハイ?
「じゃ、凄い排他的だとか、森から出ないとか・・・」
「それもハイエルフの事だと思います」
「あと、長寿とか若い姿のままだとかも?」
「ハイエルフの事ですね。詳しいですね」
「じゃ、ディルクートの歳は十二、三ってくらいか?」
「いえ・・・、二十三になります・・・」
お前も年上か‼︎
いや、年下か・・・。
「ほぅ、そんな感じなのか。エルフの歳をあまり気にした事はなかったが・・・、もう少し我々に近いかと思っていたよ」
「まぁ、個人差は結構ありますから。僕もエルフ族の中では成長が遅い方ですし・・・」
まぁ、そういうのもあるか。
普通に人間でも小学校で大体の大きさまでになっちゃう子もいれば、高校に入ってからぐんっと大きくなる子もいるしなぁ。
「まぁ、エルフ、ハイエルフの事は分かった。教会に立て籠もってて、時間がないってのも分かった。でもなんで俺だったんだ?そういう時の為に冒険者ギルドはあるんだろ?」
「ギルドには行ったよ!行ったけど・・・断られた。対応出来る冒険者が居ないって・・・」
「断られた?」
「まぁ、それはそうだろう。私らもそうだが、森林を主戦場にしているエルフ族で対応出来なかった森の魔獣に、普通の人族の冒険者が相手になる訳がない。多分だが、森の中の管理に関して、君の一族が手を貸していたんじゃないのか?」
ビリィが耳をピコピコさせながら言ってる。
「その通りです。森の中の事では、この辺りでは僕たちの里のエルフ族より戦力になる人達はいません。ギルドでも、最低でも金級冒険者が五組に魔鋼級が一組は居なければ・・・と言われました」
なるほどねぇ。
「ですけど!ジンさんが持っていた毛皮はグランティラプアのものでしょう?それにティラスプラやクリューグゲイトのものありました。僕たちエルフ族でも手を出す事を躊躇う厄介な魔獣たちです」
何を言ってるのかは分からんが、何を言いたいのかは分かった。
「そんな魔獣を相手に出来る人達が銀級な訳がありません。きっとなにか事情があるのでしょうが・・・、お願いします!僕の里をみんなを助けて下さい‼︎」
「いいよ」
「出せるものはあまり多くないけ・・・え?今何て・・・?」
「いいよ。助けに行こう」
そんな必死に助けを求めてくる奴を無下にする程、人間をやめてるつもりはない。
「あ、あの、報酬は・・・」
「出来高払いでいいぞ」
「い、いや、そんな軽く・・・」
「さ、昼飯にしよう。あの二人もそろそろ戻ってくる筈だ。ディルクート、お前も食べるか?」
「ぼ、僕は・・・その」
「なんだ?」
「着の身着のままで里から出てきたから」
「あぁ、金がないのか。気にするな。うちの連中はみんな大食らいだ。お前が一人混ざった所で大差ない。遠慮せず食え」
さて、店員はどこだ?
一人こっちに来そうな奴がいるな。近くまで来たら呼び止めるか。
っと・・・。
丁度、店内に入り見回しているダルガとフーカが見えた。
手を振って呼び寄せた。
「お疲れ様、どうだった?」
「それなのですがジン様」
「ん?なんだ?」
「少々高額なので時間が欲しいという事と、そのギルド長という方がジン様にお会いしたい、と」
「そうか分かった、それじゃ後で行くか」
近くまで来た店員を呼び寄せる。
その間もフーカとダルガは、立ったままだった。
「どうした?食わないのか?」
「ギルドに行かれるのではないのですか?」
ん?
「いや、ギルドには行くが、ご飯が先だ。丁度昼時に呼び出そうって言うんだ。当然食べてからだろう」
「急ぎという可能性は?」
「急ぐなら本人が来るか、ギルドの職員が来ればいいんだ。お金を都合出来なかったのは向こうの都合、話しがしたいのも向こうの都合。なら俺の都合に向こうが合わせるべきだろう。俺は別に話したい事は無いからな」
「そうですね。分かりました」
「あぁ、それとな。ご飯食ったらこのディルクートの里に救援に行く事になった。こっちは急を要する。あまり休む時間がないのは申し訳ないが、よろしく頼む」
各々が、それぞれに了承の返事をする中で、一人ディルクートだけが、困った様な渋い顔をしていた。
「すみませんジン様」
しまった、フーカの様付けがディルクートに移ってしまった。
「様を付けなくていいからな?ディルクート。それでどうした?」
「いえ、はい。急いでもらえるのはありがたいんですけど、今から出たら里に着く頃には日が暮れます。オーグもダークキュイビットも夜の方が活発です。朝に出発した方が・・・」
「いや、それなら尚更急いだ方がいいかも知れないぞ?ディルクート」
「え?」
「考えるに立て籠もってるエルフ達は皆、極限状態にある可能性が高い。食料に乏しく、教会はいつまで保つのか分からず、救援がいつ来るかも分からない。そんな状態が続けば、ヤケを起こす可能性もある。確かに夜の方が活発な奴を相手に、夜に行動を起こすのは危ないかも知れない。それは行ってから状況を見て判断する。それでいいな?」
「は、はいっ分かりました!」
「よし、そうと決まればご飯の時間だ。しっかり食って英気を養うぞ」
それぞれの返事が返って来る中に混じって、恨み言が聞こえた気がした。
この場では英気を養えない奴が一人。
状況が状況だけに勘弁して欲しいのだが・・・、仕方がない。
一人分、お持ち帰りを用意して貰うからそれで許せ。




