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 いい匂いがする。


 なにかなつかしい、なにかを思い出す、いい匂い。


 けど、なにか違う。


 ・・・。


 思い出した。


 わらだ。藁の匂いだが稲藁いなわらの匂いじゃない。


 これは・・・麦?


 目が覚めた。


 見たことのない張りがき出しの天井。


 縦横じゅうおうに柱の走る壁。


 柱?壁?


 壁に柱は縦横に走らんだろ。


 ・・・。


 って事は、ここは牢屋か?


 えっと・・・、俺、なんかしたっけか?


 身体を動かすとガサリと音がした。


 藁、干した麦藁にシーツを掛けてベッドにしたのか。


 藁はよく干されている様だし、シーツも真っさら、とはいかないがちゃんと洗濯されている物みたいだ。


 牢に入れられちゃいるが、扱いは悪いものではないっぽい。


 はぁ、寝心地は良いとは言い難いが、悪いものではないな。


 はぁ・・・。


 ・・・。


 思い出した‼︎


 ここ異世界で、俺はギュスターブになったんだ?


 思わず跳ね起きた。


 いや、ギュスターブにはなってないな。


 獣人の斥候せっこうに偶然を装って会いに行こうとして、途中で血を吐いて、倒れた。


 胸を見ると血っぽい点々が付いてた。


 ・・・?


 なんかおかしいな。

 何か違和感がある。


 体調は良い。


 頭が痛かったもの嘘のように引いてる。

 胸の変なムカつきもない。

 どちらかというと力がみなぎるような・・・、


 右の手の平を見て、甲を見た。


 皺が減ってる?


 ハッとして視覚を飛ばし、自分を見た。

 召喚された時に見た自分の殻は、死んだ時の俺と同じくらいに歳くってたはず、それから見て明らかに皺が減ってる。


 力を行使したら、血を吐いて、若返った。


 意味がわからん。


 カチャ キィ


 あ、戸が開いた。


「おや、目が覚めたようだな」


 あ、犬耳娘だ。・・・デカいな。

 俺が172㎝位だったかな、それより目線一つ高い感じ・・・だな。175㎝くらいか?

 背は高いが線は細い。茶色のだふっとしたズボンに丈の短い白のシャツ。胸が随分ずいぶんと盛り上がっててヘソが見えてた。

 武器になりそうな物は寸鉄すんてつ一つも帯びてない。そのチチはある意味凶器だが無防備だな、それとも・・・。


 犬耳娘が膝を突いて、藁布団に座ったままの俺に目線を合わせてきた。


「すまないな、種族は違えど血をいて倒れていた老人を牢に入れるというのは本意ではないのだが、我等は争っている最中さなかである。許して欲しい」


 頭を下げる犬耳娘。

 ぴょんとこした耳、もふもふした尻尾、目はキリッとしていて鋭いが何処か愛らしい。

 うーん、なんかどっかで見た事あるような顔だな。


「一応、規定きていもとづいて名前と森に入った理由を聞かねばならないのだが・・・その前に一つ聞きたい事がある、いいだろうか?」


 犬耳娘にうなずいて見せた。

 すんごい対応は丁寧だ。けど凄い警戒もされてる。戸口付近に三人、裏に一人、隠れて控えてる。まぁ、不審人物だし、そんなもんか。


「昨晩、私の隊の者が哨戒しょうかいにあたっていたのだが、その時に黒いふわふわとした服を着た、小さい女の子を見つけたのだ」


 森に?女の子?夜に?


「その少女は何も言わずに隊の者を手招きして呼び、それを追った隊の者はあなたを見つけ、少女を見失ったのだそうだ。その少女に覚えはないか?」


 覚えがなさ過ぎて反応に困る。

 とりあえず、首を振って見せた。


「いや、すまない変な事を聞いたな。では名前と森に入った理由を教えてくれるか?」


 名前か、本名を言う訳にはいかないが・・・。


 まぁ、嘘をつくのは簡単だ。

 ただなんとなく、嘘を見破る方法もいくつか用意してますって雰囲気もあるが・・・。

 ん、思いついた。

 えっと言葉使いってどんなだったっけかな?


「儂の名前はギュスターブ・フォン・コペルニクスという。儂は」


 理由を言う前に、犬耳娘が跳ねた。ものすごい勢いで下がったな、おい。

 それと同時に外に控えていた犬耳男が三人、戸を慌ただしく開けて入って来た。


「なぜその名前を知っている⁉︎」


「姫、危険ですお下がりください」


 顔をけわしくする犬耳娘、その前に立って俺との間に入るしば耳男。その両隣に狼耳男とパピヨン耳男が立った。


 うむ、柴耳はピンッてしてていいね。柴耳男もそんな、柴っぽいはしっこそうな小柄な感じだ。狼耳はカッコイイ、耳カッコいい、従兄弟のとこで飼ってたハスキー思い出す。あの子ええ子やった。

 ただ問題はパピヨンだ。パピヨンったら小型犬だが・・・こいつが一番デカい。筋骨むきむきでいかつい顔、それにふぁさふぁさした毛をなびかせてる大きな耳が乗ってる。なんかキモい、つーかキモい。俺が知らないだけでパピヨン耳の大型犬がいるんかな・・・。いや、ここは異世界だから別にいいの・・・か?


「姫の質問に答えろ。貴様は何者だ」


 姫はそんなこと聞いてなかったと思うが・・・。

 姫はなんて言ってたっけ?姫・・・、姫のぴょんとこした耳が一番いいなぁ。あれ何耳だろ?あの厚みのあるふこふこした感じは・・・秋田犬が一番近いかな?


 ってか犬耳娘は姫だったんか。昨日会った姫とはまた大分だいぶ違うなぁ。


「おいっ!」


 あぁ、すまん。


「もう一度言おう、儂はギュスターブ・フォン・コペルニクス。君たちに会うために森に入り途中で倒れてしまった、ただの老いぼれだよ。まずは・・・アレだな、倒れていた所を助けてもらったようだな。世話になった、ありがとう」


 胡座あぐらをかいたまま頭を下げた。


「容姿は似ている、が、聞いている報告とは年齢が違うように見受けるが?」


 犬耳姫に聞かれた。


 すげぇな。あんな秘事ひじみたいなやり方してたのに、名前だけじゃなく細かい容姿までバレてんのか。

 存亡の危機って話しだけは嘘じゃないみたいだな。


「どこまで知っておるのか知らないが、若返っておる理由は儂にもわからんよ。倒れるまではもう少しジジイだったと思うがな」


 まぁ、正直に言うしかないが・・・、この口調めんどくさくなってきたな。


「貴様、適当な事を・・・、倒れて若返るなど聞いた事もないわ!」


 パピヨン耳がえた。

 体格にあった野太い声だが耳にあってない。キモい。

 ただまぁその意見には同感だ。


「やめなさいパピエン、まだ私の話が終わっていない」


 ふぉっ⁉︎

 名前パピエン⁉︎パピエンってなんだよ、俺の腹筋崩壊させる気か⁉︎

 いかん、名前を笑っちゃいかん。名前はいかん・・・。ひっひっふーうん、ひっひっふーうん。


「ごふっごふっ」


 なんとか耐えた。


「大丈夫か?」


 気を使ってくれるならそのパピヨン耳を下げてくれると助かる。


「大丈夫だ、問題ない」


 それが言えない自分がさびしい。


「それで、貴方は召喚された英雄であると言うのだな?」


「まぁ、召喚されたってのはそうだが、英雄かって言われると違うと言いたいな。俺ぁ元はただの畑作ってたジジイだ」


 まどろっこしいな。


「話を一つ一つり合わせていってもいいんだが、俺もあんまり時間が残されてないっぽいんでな。こっちの事情だけ先に説明するぞ。いいな?」


「わかりました」


「まず、名前だ。俺はギュスターブじゃない」


「貴様⁉︎」


 激昂したパピヨンを姫犬耳娘が止めた。


「まぁ話を聞け、俺は召喚された時、あっちの姫に自分の名前を知られる事で、何かよくない事になりそうな気がしたんで嘘をいたんだ。まぁ、それで本当の名前を教えられねぇんだが、まぁそれはかまわんよな?」


 姫犬がうなずいた。


「嘘の名前を教えて、命令を拒絶きょぜつして気を失ったふりをした俺は、隙を突いて脱走しスラムを目指した。

 理由はあっちの姫がいう魔族に攻め滅ぼされそうになってるって話の真偽しんぎを確かめるためだな。そこで俺は檻に入れられている犬耳狐耳を見つけて、スラムに手を出す事を諦めた。

 そんで、もしかしたらその仲間が近くにいるんじゃないかと思い、城の外に情報を求めに出て、倒れた。

 そんな感じなんだが、なんか質問はあるか?」


 姫犬さんがあごに手を当て難しい顔をしている。

 その顔とか仕草に一々見覚えがあるんだが・・・こんな感じの娘に心当たりがないんだよなぁ・・・誰だ?


「あなたがこの森を目指した理由はなんだ?何を求めて接触を求めてきた?」


「ここを目指したのはここに獣っぽい気配を百ほど感じたからだよ。スラムにとらわれてる子らの仲間と感じたからだ。接触を計ったのは情報の為だな、あっちの姫の言い分の真偽を確かめる為、かな?」


「そんな簡単に気配を探れるのか?貴方は」


「簡単じゃないぞ、多分それをしたせいで血をいて倒れたと思ってる」


「あなたの求める情報とはなんだ?何が聞きたい?」


「んーなんでもだな。俺はこっちの世界の人間じゃないんでな、この世界の事をなーんにも知らねぇんだよ。そんな状態であれが敵だから倒せ、って言われても困るだろ?」


 ふむ、と姫犬さんがうなずいた。

 納得はしてくれたようだ。


「では、もう一つ。時間が残り少ないとは、どういう意味だ?」


 ああ、やっぱりそれ気になるよね。


「あんたは俺がどういった召喚をされたのか知ってるか?」


 姫犬が首を振った。


「それは王家のみに伝わる秘術だったようで、残念ながら調べられなかった」


「んじゃ、俺の知る分は教えとこう。俺は召喚者の契約を拒否した場合、程なく死ぬらしい」


 お、驚いてくれた。本当に知らないんだな。


「程なく、というのは?」


「魔法陣をきちんと調べた訳じゃないからな、いついつまでに死ぬ、何をしたら死ぬ、ってのはさっぱりわからん。まぁ、俺の見立てじゃ一週間は持たない、と思ってる」


「・・・あなたはそれでいいのか?」


「戦争の兵器にされるくらいなら死んだ方がマシだぁね。それになにより俺ぁ元々死んでたんだ。家族親戚友人に囲まれて大往生。未練なんてのは・・・少ししか残してない」


 未練で思い出したわ。こいつ俺の犬に似てたんだな。あいつたまに難しい顔してなんか考えてるっぽい時の顔にソックリだわ。


「わかった。あなたのいう事を一時、信用しよう」


「助かる」


「では、情報だな。判断は任せるが我々の状況を教えよう」


「頼むわ」


 これでようやく一歩前進か、やれやれだ。

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