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雷獣

 同時に動き出しはしたが、先手は取らせてもらう。


 ホルトルから遥か手前、ホルトルの得物でもギリギリ届かない間合から急制動をかける。

 スパイクが草を噛み、土に食い込む。跳ね上がりそうになる力をそのまま右の拳に乗せ、


「けぁ!」


 打ち出す。


 刹那の間、急制動に気を取られたホルトルの頭を目掛け、突きの勢いそのままに小手が伸びる。


 当たる。


 ・・・そう思った右の突きはホルトルの顔をすり抜けた。


 僅かに膝が落ちてる。

 自分から態勢(たいせい)を崩して頭の位置を変えた⁉︎だがそれじゃ・・・。


「オオォッ」


 態勢を崩したまま、ホルトルが右手を振り上げる。

 無茶だ振れる訳が・・・。


「ルァ‼︎」


 態勢が崩れるまま、倒れ込む様に得物を振り抜いた。


 振った右手にやや遅れて巨塊な得物が俺の頭に寸分違わず振ってくる⁉︎

 んな、馬鹿な。


 避けれない。なら受ける!


 伸びきった右の小手を引き戻しながら、左の拳でホルトルの得物を迎え撃つ。


 ギャギャ


 ホルトルの得物を横から撃ち、頭から軌道をそらして、地面に向けて放り飛ばした。


 さらに勢いを増して地面へと突き刺さったホルトルの得物は地面を爆発させ、めり込む。


 いかにホルトルと言えど、崩れた態勢からさらに巨大な得物に振り回されては・・・、と思ったホルトルがしっかりと両足で立ち、めり込んだ得物に力を込めているのが見えた。


「アァッ!」


 次の瞬間、地に埋まった得物を引き抜き、そのまま横薙ぎに振った。


 胴にくるっ。


「かぁ‼︎」


 小手に力を込め、得物を両手で持って受ける。


 腕で吸収出来なかった衝撃を身体からそらし、抑え込む。足裏から生えたスパイクが草を千切り、土をえぐってようやく止まった。


 だが、ホルトルはその力を弱める事なく、押し込んでくる。


 ガリッギッギッギッ


 ホルトルの得物と俺の小手が不気味な音を鳴らす。


 なんとか膠着(こうちゃく)に持ち込めた。が、読み合いで負けた。


 多分だが、ホルトルは俺が得物をそらし、地面に打ち落す事を読んでいたんだろう。それを逆手に取り、その勢いで態勢を戻した。そうとしか考えられない。


 さてしかし、抑えたはいいものの・・・この次はどうするか。


「ホルトル・ガ・イレグェン!貴様のあ、悪逆ひ・・・」


 ホルトルが圧を徐々に、少しづつ、強めてくる。


 ギギャッギギャッ


 少し、少しづつ、押し込まれる・・・やはり単純な力勝負では勝てない。

 表情は変えず、平気な素振りしたまま、自分の呼吸をわざと乱(みだ)す。


 ホルトルの顔が近い。


 よし、俺の呼吸の乱れを無意識に感じとったな。

 後はお前の荒い息遣いが・・・次の瞬間を教えてくれる!


 再び力を込めてくる瞬間、そのわずかな呼吸の変化、筋肉の動き、力の入れ替わるわずかな隙間を狙い、ホルトルの得物を真上に跳ね上げた。


 ギャリッと悲鳴の様な音が鳴り、ホルトルの巨塊な得物が跳ね上がった。


 面食らったホルトルの顔が見える。


 ふははっ何が起こったか分からんだろう。

 これが合気(あいき)ってヤツだ!俺も初めて実戦でやったから、多少強引だったけどな。それでも思ったより上手くいってビックリしてるよ!


 さて、無防備になったホルトルへ、無造作に歩(ほ)を進める。


 さぁホルトル、もう一回驚け。今の俺が出来る最高の技だ。


 拍落(はくらく)。


 俺はまだこの技をやるには準備がいる。修練不足だ。


 一歩、足を進める間に呼吸を整え、身体の筋肉、関節、神経、その全てに意識を張り巡らせる。


 さぁ。


 足が地に付き、全身の筋肉を始動させようとしたその瞬間、バチンッと横からの衝撃に身体が弾かれた⁉︎


 一瞬、光が走った様に見えたが・・・、いや、アレは光。そう稲光(いなびかり)みたいだった。


 弾かれ、宙を舞う自分の身体を慌てて整え、受け身を取って地面に叩きつけられながら態勢を整えた。


 急いで元いた場所、ホルトルの方を見ると・・・見覚えのない熊人族がいた。


 白を基調としたズボンと背広に似た上着を着ている。なぜか背広の裾が右側だけ長く、左側だけ普通の長さになっているその奇怪は服は、カッコいいと言うよりは、どこかアホっぽい。


 ・・・誰だ?


 白い熊人が俺に向けて指差し、髪を掻き上げながら口を開いた。


「ホルトル・ガ・イレグェンと互角に戦い、且(か)つ我が一撃を受けてなお立ち上がるとは人族にしては見所のある奴である!だが貴様に用はない。ここに居た事は不問にしてやる故(ゆえ)、即刻この場から立ち去るがよい!」


 ・・・。


 何を言ってるのかサッパリわからん。


 何でいきなり横槍を入れて来た奴に、帰れと言われにゃならんのだ。


 あ、なんかすげぇムカついて来た。


「我の事は分かるな、ホルトル・ガ・イレグェン。中鋒部管理統制室執行部のリリャク・エンファガーである。貴様の違法薬物精製及び、その非人道的極まる悪辣な実験の調べは付いている。早々に縛(ばく)に付き証拠品を差し出すがよい。さすれば」


「がっはっはっはっはっは」


 一緒にイライラしていたホルトルが急に腹を抱えて笑いだした。


「テメェが雷獣か話は聞いてるぜぇ?」


「我を雷獣と知るならば、もう理解したであろう。抵抗は無」


「おぅおぅ知っとる知っとる。話も聞かず場に突っ込んでは全部ぶっ壊して回る力自慢の馬鹿雷獣だろう?テメェの横暴っぷりは耳の毛が抜ける程聞いとるわぃ」


 雷獣君がイラッとしてるのが見て取れる。しかし・・・雷獣とな。


「だがな?雷獣。テメェの出る幕はねぇ。テメェがとっとと失(う)せろ」


 ホルトルの身体から闘気が溢れ出す。臨戦態勢に入った。


「我と知りて尚、抵抗するか。致し方なし」


 瞬間、パッと轟音と共に光が走った。


 まさしく稲光。その目に残る光は獣の形をした雷そのもの。確かにこれは雷獣だ。


 雷獣君が一瞬にして稲妻となり、ホルトルに拳を打ち込んでいた。

 ホルトルはその拳を左の腕で受けている。


「我が拳を受けるか!その逸話に偽りなし!」


 パッパッパッと再び稲光となり雷獣君がホルトルに襲いかかる。

 確かに速い。音を置き去りにする稲妻そのもの。ホルトルもその打撃を全て受けてはいるが、その威力に押され、二歩三歩と後ろに下がっている。


 けどなぁ。


「何故だ!何故に我の打撃をここまで受けられる⁉︎」


 予備動作が大きすぎるからだよ。馬鹿だなぁ。


 雷光というか、稲妻というか。その攻撃は確かに凄い。全く知らなかったら一発はどうやってももらうだろうさ。

 けども、攻撃できるのは稲妻一回に付き一回だけ、それも単純な動きに限られるらしい。


 距離を詰めて腕を伸ばす。距離を詰めて腕を回す。


 ただそれだけ。


 しかもどこを狙うか、どっちの腕でどう攻撃するか。準備をしてからじゃなきゃ稲妻になれないようだ。


 そんなんタネが知れたら当たる方が難しいわ。


 さて。


「我の雷撃拳が破られる筈がない!マグレが続いた程度でいい気になるな。我が秘中の秘技にて」


 なんか大仰(おおぎょう)にポージングを決めて力を貯め始めたので、


「うごっ」


 横っ面をぶん殴った。


 やはり小手で伸ばせるとはいえ、一メートルも上にある頭は殴り難い。


 頭から地面に叩きつけられ、転がった雷獣君だが、二転した辺りで気を取り戻したのか跳ねるように立ち上がった。


 多少加減したとはいえ、鈍器で殴られたのと同じくらいには痛い筈なのに・・・頑丈だなぁ。


「き、貴様ぁ、ひっひっ人族の分際でぇぇぇ」


 ピシッと背筋を伸ばし、俺を指差してくる雷獣君。


 あぁ、そうか。


 なんか変に大仰な動きが多いと思ったら、予備動作をごまかす為か。そっちの後ろに隠してる手で殴る準備してるのバレバレなんだが・・・。


 徐々に姿勢を変え、前に出している左足に体重が乗る。


 はい、ドン。


 稲妻となり俺の頭を殴りにくるが、そこに俺の頭はもうない。


 逆に雷光化の解けたその瞬間に、俺の右の小手が、


「ぅごっ」


 雷獣君の腹に刺さる。


「がっ」


 呻きながら、腹を抑えながら、雷獣君が目を回して崩れ落ちた。


 やれやれ。


 技は凄いのに、勿体(もったい)ない。その雷光 撃とかいうのにゃ隙はないけど、あんたが隙だらけじゃ意味ないだろうに。


 ・・・来たのはこいつだけか?


 いや、さすがにそれはないだろう。薬がどうとか言ってたから、このアホを泳がせてその騒ぎの隙に証拠を集めるとかならありそうな気がする。


 ビリィとフーカはどうしてるかな?


 そう思い周囲を見回すが・・・。


 土の柱の横に寝かされているフーカの姿とその横に腕を組みして仁王立ちしている顔がボコボコに腫れ、紫のまだら模様になっている熊人の姿しか見えない。


 ホルトルの居た観覧席にも人の気配はなく、耳をそばだてるとなにやら騒然とした物音が聞こえて来た。


 全然気付かなかった・・・。いつの間にやら始まっていたらしい。


 なら、ウチのビリィさんはどこ行った?


 ビリィの気配を探しながら見回していると、闘技場の隅に黒い山が出来ているのに気付いた。


 なんだ??あれ?


 そこに唐突に、ビリィの気配が現れた。

 黒くてデカい物を片手に一つづつ、観覧の階段を引き摺り歩き、無造作に闘技場に投げ捨てている。


 アレは黒い服を着た熊人?


 死んではないな。気を失ってるだけ。


 ・・・。


 何があったか知らんけど、まぁ何かあったんだろうなぁ。

 ほっとくか。


「いつまで呆けてやがる。続きをやるぞ」


 振り返ると鼻息荒く、得物を肩に担いで戦闘態勢に入っているホルトルが居た。


 やれやれ元気なヤツめ。


「さぁ、俺が態勢を崩して、お前が俺に一発入れる所からだ」


 ホルトルに向けて歩きながら、首を傾げた。


「いいのか?戦場なら予想しなかった事態なんぞよくある話だろう?」


 それに俺自身、アレがなければ・・・なんて言う気もない。ホルトルに見せてない手はまだまだある。


「いんや、ダメだ。頭じゃ分かっちゃいるが、アレが無かったら負けてたかもしれねぇ、なんて思いは残したくねぇ」


 それもそうか。


 これはホルトルの最後の戦いだったな。願いは叶えてやらにゃあ。


 無造作に歩きながらゆっくりと準備を整える。


「わかった。望むままにやろう」


「おぅ、来い!何をする気だったのか俺に見せろ」


 ホルトルが得物を大きく振り上げ、自分から態勢を崩す。


 徹底してんなぁ。


 そこに滑り込む様に一撃の間合いに入る。


 さぁ、驚け。


 拍落!

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