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物資補給

「城?」


「城」


 俺の疑問にビリィが短く答えた。


 城と言うのだから城なんだろうなぁ・・・コレ。

 俺の目の前に広がるのは鬱蒼(うっそう)とした森だ。


 いや、どっちかって言ったら山・・・小山かもしれない。


 街の真ん中に小高い丘というか山があるのは見えていた。それが青々と木々の生い茂る森だというのもまた、見えてた。

 ただその森が城だとはさすがに思ってなかったなぁ。


 っていうか、この森の木々の太い事、高い事。


 大型車が一台・・・こっちの世界で言うなら大型馬車か?が悠々と通れそうな程に広く森は開かれている。だが、囲む木々が高く道の上が枝葉に覆い隠されていて、中は仄暗い。

 これじゃ山道っていうよか、木々の洞窟だな。


「何をしている?行くぞ」


 見惚れてる俺に不思議そうな視線を送り、そう言い捨てたビリィがさっさと中に入って行った。


 あいつにゃ当たり前なんだろうが、俺にとっちゃかなり不思議面白いんだが・・・、まぁいいか。


 ビリィの後を追って俺も森に足を踏み入れた。


 森の中はやや薄暗いといえども木漏れ日もあり、外から見た時のような薄気味悪さはなかった。

 むしろやや湿った心地よい風が運ぶ深緑の匂いと、細々と差してくる木漏れ日が幻想的だった。


 やや勾配(こうばい)のある山道だが、苦になるというより、面白さの方が先に立つ。


 いいなぁ、ここ。

 散歩コースにしたい。


 登り道を二つ折れ、先に進んだ所で光が見えた。


 出口だろう。

 なんか夢の終わりの様な儚さを感じるなぁ。


 光を目指し一歩一歩踏みしめて歩く。

 少しずつ目が明るさに慣れ、外の世界が見えてきた。


「こ、れぁ、なんとも」


 木々の洞窟から覗いた外の世界はまた、森の幻想感を裏切らない不思議な物だった。


 正面に構える巨大な黒い建築物。

 窓が四段あるから四階建てか?一階一階の高さがかなりありそうだ。

 しかもこの建物、木造だ。

 デカくて黒い木の板を横に張り重ねた様な壁、屋根も板葺きみたいだが、やはり一枚一枚が妙にデカい。

 昔の日本の木造住宅を思い出させるが、存在感がおかし過ぎる。

 しかも、つい最近建てたばかりの様な真新しさがある。なんだろう、建材が普通の物じゃないんだろうな。やはり魔法のなんかだろうか。


 森から外へと近づくにつれ、その周囲も見えてきた。

 なんつーか、広い。


 一面に石畳が敷かれ、黒い建物の右手には蔵の様な建物やらが建ち並び、左手にも建物がポツポツと見える。


 どれもこれもが同じ建材なんだろう。どれも黒く真新しく見える。


 しかし、なんだ。

 城っていう割に無防備に見える。


 人はちらほらと見えるが衛兵っぽいのが居ない。この森が城壁であり、堀の代わりというのは分からないではないが、あまりに・・・。


 森から抜けようと、足を踏み出した所で足が止まった。


 否(いな)、止めされられた。


 紛(まぎ)れもない殺気。

 もう一歩でも踏み入ったなら容赦無く殺す。

 そんな警告にも似た鋭いものを感じる。


 どこからだ?

 瞬時には判断が付かなかったが、周囲に視線を飛ばしてすぐに気付いた。


 森の中の木をそのまま物見櫓(ものみやぐら)に作り変えている物が幾つもある。


 その中の獣耳の一人が俺に向けて矢を引き絞り、もう一人が鐘に向き合い金槌を構えていた。

 無防備じゃないのは分かったが物騒だな。


「おや、バレたかな?」


 声に振り向けばビリィが何やら嬉しそうに笑っていた。


「何がだ?」


「弓、向けられてるの」


「そりゃあ、な」


 ビリィはトコトコと出口の端の方へ歩き、垂れているロープを掴み、クイっと引っ張った。


 カラカラカラカラと乾いた音が鳴り響き、殺気が引いた。


「コレを引っ張らずに中に入ろうとすると射掛けられるから気を付けて」


「言うのが明らかに遅過ぎんだろ」


「ジンならどうするのか、ちょっと気になってな」


 ビリィが悪びれもせず、はにかんだ笑顔を俺に向けた。

 このやろう。何で照れてんだよ意味わからん。


「城って言った意味は分かったが・・・」


「何か気になる所でもあったか?」


 気になるって言うか・・・。


「火をかけられたらどうすんだ?」


 不思議と燃えそうなイメージが湧かなかったが木は木だ。火に弱くちゃ城にならん。


「あぁ、森の中は聖域になるってるからな」


 聖域?


「森の中では火が使えないんだよ。試してみるか?」


「・・・いや、やめとく」


 今度は本当に矢が飛んで来そうな気がする。


「それじゃ蔵に行こうか。食料庫と備品庫と・・・何だったら宝物庫にも行くか?」


 確かに自由に持って行ってもいいって話だったが限度があるだろ。さらっと怖い事言うヤツだな。


「行かねぇよ。それより国王さんに挨拶に行くのが先だろ」


「いや、父上はもうここには居ないはずだから必要ない。その辺のヤツに伝言を残しておくから問題ないよ」


「そう・・・か」


 まぁ、いいならいいんだが。


「さ、行くぞ」


「はいはい」


 再び先を歩くビリィの後をついて歩く。


 コツコツと石畳の上を歩く音と共に、サラサラとした水の流れる音が聞こえて来た。


 どこからだろ。

 周囲を見渡しても水路の様な物は見えないが・・・。


「ジン様、どうされました?」


 挙動不審だったろうか、フーカに聞かれた。


「ん?いや、水の音が聞こえるのに水路がないな、とな」


「それでしたら、アレじゃありませんか?」


「ん?」


 フーカの指差した先に石畳から迫(せ)り出した囲いがあった。

 城っていうくらいだから水くらいは用意してるとは思ってたが・・・。

 近付けば囲いに切られた溝から溢れた水が石畳の下に流れていっているのが見えた。


「湧いてる?」


 なんで山頂で湧いてんだ?


「なんでも初代国王がこの場に建国を決めた際、同行していた賢者に作ってもらった物なのだそうですよ」


 魔法・・・なのかな?

 そういえば日本にも独鈷(どっこ)で地を突いて温泉が湧き出した伝説とかあった気がするな。

 似た様なものだろうか。


 これ飲み水だよな。

 手に救って一口含んでみた。やらかい水だな、うまい。

 貰っていくか。


 手を突っ込み、収納の空き空間に水を流し込む。収納二つ分ほどあればしばらく足りるかな?


「おい、何してる?」


 いつの間にやらビリィが背後に立っていた。

 相変わらず気配が薄いな。っていうか、背後に立つのが好きだなお前。


「飲み水の確保」


 確保と言っても手を突っ込んでるだけだから、見ただけじゃ分からんよな。水量は目に見えて減ってるが。


「便利だよなその能力。私にも使えないかな?」


「原理が分からんから教えようがないな」


 ビリィも俺と同じく神(?)の力が混じってるはずだから出来ない事はないのかも知らんが・・・、今度万知さんに聞いてみるか。


 俺がこの世界に呼ばれた時から俺の中に入ってた魔書、万知の書。魔法の類にはめっぽう強く、それ以外には一切反応しない万知(?)さん。

 そういえば彼(彼女?)は何者なんだろうな。ただの意思を持つ本ってだけじゃない気がする。


「よし、溜まった。それじゃ行くか」


「はいよ」


 再びビリィ後を付いて歩く。


 しかし、異世界の食材と対面出来るとなると心が躍るなぁ。

 一応、メシは食わせてもらってたが、肉ばっかりで野菜はスープに入った煮込まれたのをチラチラっと見ただけ・・・。

 まぁ、肉は美味かったんだが、米も野菜もないと心が荒(すさ)む。


 あ、ここ犬狼族の国だし、野菜食わないとか・・・ないよなぁ。


 蔵っぽい物が建ち並ぶ所まで行き、ビリィは「ちょっと待ってて」と蔵の横にある小屋へを入って行った。


 程なく柴耳っぽいのを頭から生やしたはしっこそうな少しくたびれた男を連れてビリィが出てきた。

 年の頃は五十代後半か、定年間近のおっさんの様な雰囲気がある。


「ジン様ですね、お待ちしておりました。私は倉庫と資材を管理しておりますピンキンスと申します。王より令を賜っております。ささっこちらへどうぞ」


 そう言ってピンキンスと名乗った柴耳が、軽く頭を下げると俺と目を合わさずに歩き出した。


 言葉は丁寧だが、なんかヤな感じだな。嫌われてる?


「この場所にて賄(まかな)える物であれば何でも。とはお聞きしておりますが、いかがな物をお求めでしょうか?」


 背を向けたまま言うなよ。せめてこっち向けや。


 まぁ、いい。


「米はあるか?」


 米があったら許す。


「米・・・ですか」


 やっとこっちを向いたピンキンスが困ったような、イラっとしたような表情を見せた。


 やっぱりなかったか・・・米。


「西方からの交易品として幾つか持っておりますが・・・、持っていかれますか?」


 あんのかい!


「あるのなら是非に欲しい」


「分かりました。ご案内します」


 そう言ってピンキンスが蔵の一つに向けて歩き出した。


 しかしなんだろ、変な反応だったな。


「フーカ」


「なんでしょうか」


「米って知ってる?」


「西方にて主食として栽培されている、比較的に栄養価の高い穀物、と聞いております」


「食ったことは?」


「ありません。独特の臭気があり、犬狼族の好みには合わない。と聞いたことはありますが・・・」


「そうか、ありがとう」


 臭気?

 もしかして南京米?

 あれはうるちみたいに普通に炊くと匂いがキツいらしいからな・・・、チャーハン的な使い方にしないと食えないかもな。


 いや、それでも、南京米だったとしても米は欲しい。米食いたい。


「こちらです」


 小麦粉の匂いのする倉庫の中、ピンキンスに示された棚に麻っぽい袋が四つほど積まれていた。


 ここは穀物庫なんだろう。おそらく大量にある袋の中身は小麦や大麦、ライ麦だろう。非常用の備蓄も兼ねてるんだろうな。


 そんな中、隅の方にたった四つ積まれているだけの麻袋は異様な存在感があった。


「中身を見ても?」


「ええ、構いませんよ」


 一俵(いっぴょう)は入りそうなあ大きな麻袋を一つ引っ張り出して、口を開けて中身を見る。


 籾(もみ)?


 本来、米の品質を長時間保たせられるのは籾保存だ。

 ただ、籾殻が付いたままだと非常に嵩張(かさば)るし、籾のままある一定以上水分を吸収してしまうと発芽してしまう。なので普通は玄米で保存するんだが・・・。


 それがよく乾(かわ)いた籾で置かれてるんだから状態はかなりいいと思っていいだろう。

 しかもこれ・・・魔法がかかってるな。状態保存の魔法?

 便利なものがあるな。


 二、三粒を手にとって指で擦り籾を割り、玄米を出した。


 楕円形のふっくらした丸い玄米だ。

 南京米ではなさそうだが、細長くない南京米もあるらしいので食ってみるまではなんとも言えない。


 ふっ息を吹きかけて籾殻を吹き飛ばし、玄米を口に入れる。


 ポリポリ


 臭い・・・という事はないな。

 うん、質も悪いという感じはしない。


「これ一つ、貰って行っていいか?」


「え?えぇ、構いませんが・・・」


 ん?

 ピンキンスが変な顔でこっち見てた。なんだ?


「それは生で食べられる物なのでしょうか?」


 何?


「いや、生米は消化に悪いから普通は食わん」


「そうですか・・・」


 ??

 なんなんだ?


「次に調味料が欲しいんだが・・・、味噌と醤油はあるか?」


 米があるならという淡い期待を込めて。


「ミソ・・・、という物は聞いたことがありません。どういったものなのでしょう?」


「んー、大豆、というか豆を加工、発酵させた食品なんだか・・・」


「申し訳ありません、そのような食べ物は聞いた事がありません」


 少し、申し訳なさそうに耳を畳みながら頭を下げるピンキンス。

 そうか、さすがに味噌は欲張りだったか・・・。


「ショーユという物も聞いた事がありません。魚醤ならありますが・・・」


「それでもいい、それも譲ってくれるか?」


 そうだよなぁ、味噌がなきゃ醤油もないよなぁ。


「かしこまりました」


「あと、塩と胡椒もあったら譲って欲しい」


「はい、それでしたら存分に」

南京米:いわゆるインディカ米。タイ、中国、インドから輸入した米の通称。独特の匂いが強く、普通に炊くと食べにくい為、日本人には好まれない。食糧難の時代には刑務所などでもよく出された。俗に言う臭い飯とはこの時のインディカ米の事を言う。


うるち:日本で食べられている普通のお米の事。もち米と差別する時などによく使う。

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