第1章 第62話 龍宮流 対 タツミヤ流 その1
早朝、外に出て空の様子を見るアギト。
「もう大丈夫だな」
「そうですね」
振り向くとそこにはリリーナが立っていた。
「早いな、リリー」
「なんか、早く目が覚めて」
「そうか」
背伸びをするリリーナ。
「あの~お願いがあるんですが、いいですか?」
「何だ?」
「昨日アギトさん一人で土砂崩れの様子を見て来ましたよね?」
「あぁ」
「私もどうなってるか気になるんで見たいです」
少し考えるアギト。
「それもそうだな。それじゃあ、朝食をとった後、土砂崩れの様子を見に行くか。俺が確認してから変わってるかもしれないしな」
「じゃあ、付いて行ってもいいですか?」
「もちろんだ。ジーナさん、ミア、バディ、皆で行くか」
「はい!」
笑顔になるリリーナ。二人は家に戻ろうとすると、玄関からブルックが出て来た。
「お早うございます。アギトさん、リリーナさん。お二人ともお早いですね」
「お早う、ブルック」
「お早うございます、ブルックさん」
「朝早いのは、習慣なんだ。多分、ミアやバディ達も起きてると思うぞ」
すると、二階の窓からミアが顔を出す。
「お早う、皆」
ブルックの顔を見るアギト。
「なっ」
アギトとブルックはミアに手を振る。
「お早う、ミア」
「お早うございます、ミアさん」
「ところでミア、ジーナさんやバディも起きてるのか?」
「うん、二人とも着替えてるよ」
ミアの後ろからジーナとバディの声が聞こえる。
「ミア、余計な事いわないの」
「は、恥ずかしいだろう」
苦笑いするミア。どう反応したらいいのか分からないアギトは頭をかいた。
そんな様子を見てため息をつくブルック。
「それに引き換え、兄さんはまだ寝てます」
「寝れる時に、寝ればいい。それにまだ早い」
「そうですか? ところで今日はどうされるんです?」
「朝食とった後、皆で土砂崩れの様子を見てこようと思ってる」
「では、これからご飯の用意をしますね」
アギトに背中を向けるとブルックは家に戻ろうとする。
呼び止めるアギト。
「そんな事すればキミの両親とかパイロンが起きるぞ」
「かまいません。それに兄さんは最近仕事がサボリ気味なので、早く起こして仕事をさせないと」
「き、厳しいなブルックさん」
おもわずブルックに『さん』づけするアギト。
(ブルックって案外男を尻に敷くタイプか?)
「そうですか? この村では普通ですよ」
「そ、そう。じゃ、お願いするよブルック」
「はい」
アギト達は朝食を食べると、土砂崩れの様子を見に行った。現場に到着する一行。
ジーナ
「これは酷いわね」
アギト
「昨日とそんなに変化はないか……別の見方をすれば、これ以上酷くならなくて良かったのかもしれない。どちらにしても、もう少しブルックの所で厄介になるしかないな」
リリーナ
「迷惑をかけたくないですけど、仕方ありませんね」
バディ
「そうだな。ここで野営をするわけにもいかないしな」
バディの顔を見るミア。
「大変だね、バディ」
「なぜ私に振る?」
「だってさぁ……」
「何が言いたい?」
「あれ? 言っていいの?」
「まさか」
二人の会話に入るアギト。
「どうしたんだ、バディ?」
しかめ面をするバディ。ニコニコしてアギトに語りかけるミア。
「実はね、アギト。バディはパイロ……」
ミアの口をふさぐバディ。
「よ、余計な事を言うな、ミア!」
アギト
「バディ、何やってるんだ?」
「な、何でもない」
ジーナ
「パイロンさんがバディを好きみたいで、色々世話を焼いてるのよ」
「ジーナ、お前!」
アギト
「その事か? それなら俺も気付いてたぞ」
リリーナ
「私も知ってましたよ」
バディ
「な、何だと!」
「あれだけ甲斐甲斐しく世話を焼いてたら分かるぞ、バディ」
「アギト、気付いてたのか?」
「お前、俺を何だと思ってるんだ?」
ジーナ
「小さい事に気が付くアギト君が、気付かないはずないわよ、バディ」
「でもアギトは意外なところで鈍感だからな」
リリーナ
「それはそうですね」
ミア
「確かにアギトは変なところで抜けてるよね」
ジーナ
「そうそう、『アギト君、こんな事気付かないの?』って事あるわよね」
一斉にうなずく女性達。思わず後ずさりするアギト。
「うっ……」
その後、アギトの欠点を上げる女性達。
一息つくとアギトに微笑むジーナ。
「皆、ここら辺で許してあげましょう」
同じくアギトに微笑むリリーナ。
「そうですね」
ミアも笑顔でアギトに話しかける。
「もうちょっとイジメたかったけど、まっ、いいか」
アギトの肩に手を乗せるバディ。
「助かったな、アギト」
「何で俺が責められるんだ? バディの話じゃなかったのか?」
納得いかない顔をするアギト。
「まぁ、何だ。道の確認も出来たし、か、帰ろう」
一行は再びバディの話題で盛り上がり、村へと戻って行った。
~ウルフ~
村の出入り口に近づくと人影を見つけるアギト。
「皆、止まれ」
「どうしたんですか、アギトさん?」
険しい顔をするアギト。リリーナはその視線の先に目をやる。だか彼女には見えない。
「例の男がいる。ここから動くなリリー」
「……分かりました」
アギトは前方から視線を外さずバディの名を呼ぶ。
「バディ」
バディはアギトの隣まで馬の歩を進める。
「皆を頼む」
うなずくバディ。警戒しながら馬の歩を進めるアギト。
男
「久しぶりだな、坊主。いや、アギト。会ったのはこの間か」
「なぜ俺の名を知っている?」
「ある人物から仕事の依頼があってな。そいつがお前の名前を教えてくれたんだ」
「仕事の依頼だと?」
「そうだ」
「誰からの依頼だ? 仕事の内容は?」
驚く顔をする男。
「おいおい、依頼人の名前、仕事の内容を喋ると思うか?」
「それもそうだな。何でも引き受ける万事屋としては顧客の情報は秘密にしておかないとな」
「ほう、俺の事を知っていたとはな」
「裏の世界じゃ、なかなか有名みたいじゃないか」
アゴを手で撫でる男。
「そうか、俺も有名人になったもんだな」
男を観察するアギト。
(まさかリリーを……)
鐙(馬に乗る時に足をかけるモノ)から足を外す。
「そう警戒するなよ」
「『警戒するな』と言う方が無理だ」
「それもそうだな」
「ところで、この間の続きをするのか?」
近づく男。
「そう気負うな。折角また会ったんだ、仲良くしようや」
「俺の名を知っているなら、アンタの名を教えてくれないか?」
「ウルフ。俺の名はウルフだ」
「ウルフ?」
(通り名か?)
「ところでウルフさん、アンタの連れはどうした?」
「今はちょいと用事でな?」
「用事?」
「あぁ、用事だ」
引っかかるアギト。
「で、用件は何だ?」
アギトの馬の首を撫でるウルフ。
「いい馬だな。なに、お前と遠乗りをしたくてな」
「遠乗り?」
「あぁ。それとお前の連れの姉ちゃん達とな」
「なぜ彼女達を連れて行く必要がある?」
「おいおい、野暮な事聞くなよ、アギト?」
目を細めてバディ達を見る。
「男はみんな女と仲良くなりたいもんだぜ、特に美人とはな。しかもお前の連れの姉ちゃん達はみんなトビキリの美人だ。特にセミロングの金髪の女性。確かリリーナ姫だったか? ぜひ一緒に遠乗りしたいもんだ」
「お前!!」
ウルフは刀を己の体に対し垂直に近い状態にすると、左足を僅かに下げる。
それを見た瞬間、声を荒げるアギト。
「逃げろ!!!!」
アギトから離れた場所にいたリリーナ達。
バディ
「皆、別の門から村に入ろう」
うなずく一同。バディが先頭に立ち迂回しようとすると、一人の美女が行く手を阻む。
馬で近づく女。
「何処に行くんだい?」
バディ
「どいてもらおうか」
少し振り返り、村の門を見る女。
「だから、何処に行くんだい? ひょっとして村に逃げ込むつもりかい?」
「お前には関係ない」
「あるよ、これからアンタ達と馬で遠乗りする予定だからね」
「こちらとしてはそんな予定はないがな」
「じゃ、これから予定に入れときな」
二人の様子を見てバディに話しかけるリリーナ。
「バディさん」
「大丈夫だ、ここは私に任せてくれ」
バディはジーナとミアにアイコンタクトをする。うなずく二人。
リリーナに小声で話かけるジーナとミア。
「ここはバディに任せましょう」
「大丈夫だよリリー、アギトもいるしボク達もいるから」
うなずくリリーナ。その様子を見てバディに話しかける女。
「噂に聞いてるよ。アンタがバディだね?」
バディは女の腰に差していた剣を見る。
(あれはアギトと同じ剣、いや刀か)
「お前……ルナか?」
剣に手をかけようとするバディ。それを牽制する女。
「当たり。アタイの噂は聞いてるよね? バディ、剣を抜けば容赦しないよ」
バディは剣の柄に手をかけるが、抜く事はしない。
「でもなんだね、噂には尾ひれが付くもんだね」
「何が言いたい?」
「アンタあんまり強くないね。分かるだろう、アンタとアタイの力量の差」
「くっ!」
額から汗が流れるバデイ。その時アギトから声が聞こえる。
「逃げろ!!!!」
その声に反応するバディ。
「通らせてもらう!!」
バディはレイピアを抜くと、ルナの顔めがけて剣先を繰り出す。ルナはそれよりも早く抜刀し、刃先をバディの喉元の手前で止める。
「アタイの警告を無視するなら、ここで死んでもらうよ、バディ!!」
バディの援護をしようとするジーナとミア。それを目で牽制するルナ。
「動きなさんな!!」
仕方なく動きを止めるジーナ。
「くっ!」
同じく動きを止めるミア。
リリーナ達全体の動きを把握するルナ。
「予定より早く祭りが始まったみたいだね。それじゃ皆で見に行こうじゃないか」
ルナに質問を投げ掛けるミア。
「祭りって?」
ルナはアゴでアギトとウルフのいる方向を指す。
「見りゃ分かるだろう! さぁ、行きましょうか、リリーナ姫」
ルナの目を見て返事をするリリーナ。
「わ、分かりました」
「良い子だね姫様は。それとバディ、剣を鞘に戻しな!」
仕方なく剣を鞘に納めるバディ。それを確認すると自身の刀を鞘に納めるルナ。
「次は警告しないからね! 気を付けないとイキナリ首が飛ぶよ」
歯ぎしりするバディ。そしてルナとリリーナ達はアギトの方向へと馬を進めた。そこでは既に二人の激闘が始まっていた。




