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竜の刻印 ~異世界武芸帖~  作者: ペリドン
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第1章 第57話 万事屋


     ~黒髪の男~


 金品と女を略奪した盗賊達は、徐々に村から離れて行く。

 子分。


 「親分、まんまと上手くいきやしたね」


 「おうよ、こんなに上手くいくとは思わなかったぜ」


 「笑いが止まりゃせんね」


 「がっはははは、あいつに感謝しなくちゃな」


 「ところで万事屋はまだ来ませんね」


 「そうだな。だが、そろそろ来るはずだ」


 村の方に顔を向ける盗賊の頭。


 「火を付けたせいで自警団の奴等、追って来てねぇな。こりゃ、アイツの手を借りるまでもなかったか」


 「そうでやんすね」


 すると前方から馬に乗った男が、こちらに向かって来るのが見えた。

 盗賊の頭。

 (ちっ、やっぱりいやがったか)


 暗いため顔は確認できなかったが、タイミング的には万事屋に間違いなかった。


 「遅くなってすまねぇ。だがよ、上手くいったぜ。お前の取り分もちゃんと用意してるから心配するな」


 頭が問いかけても返事がない。目を細めて男の顔を確認しようとする頭。よく見ると髪があまり長くない。

 「濃紺じゃないな、黒髪なのか? それに、ずいぶんと若いな」


 黒髪の男は馬から降りると頭に近づいて行く。

 警戒する頭。


 「おめぇ、誰だ?」


 すると、黒髪の男が返事をした。


 「お前等みたいな悪党に名乗る名はない」


 「何だと、この野郎!」


 すると子分の1人が男の左側に現れた。


 「おめぇ、痛い目にあいたいらしいな」


 子分は馬上から槍を繰り出すと、男はその剣先をかわしながらつかの部分を掴む。掴んだ柄を素早く右回転させながら引っ張るとバランスを崩し落馬する。弾みで後ろに乗せられていた女性も落馬する。だが黒髪の男は素早くその女性を抱きかかえる。


 「怪我はないか?」


 「は、はい」


 「良かった」


 「あ、ありがとうございます」


 「礼はいい。それより危ないから少し離れてくれ」


 「あっ、はい」


 女性は黒髪の男から急いで距離をとる。立ち上がる子分。


 「てめぇ、よくもやったな! ただじゃ、おかねぇぞ!」


 「どうすると言うんだ?」


 「こうするんだよ!」


 子分はいきなり男の腹めがけて槍を繰り出した。だが、黒髪の男はその槍先を再び躱す。そして子分の懐に入り込むと腰を屈めた。


 『チン』


 何かの音が聞こえた。


 「なっ!」


 男は何もせずにその場から離れる。


 「てめぇ!」


 子分が男の後を追いかけると、その身体は徐々に右斜め下にズレていく。


 「ど、どうなってやがる! な、何をしやがっ…」


 言い終わる前に上半身と下半身が別れ、地面に転がっていった。そこにいた他の盗賊達は声を出せずにいた。暫くしてから女性達の悲鳴が鳴り響いた。


 「「「「「きゃーー!!」」」」


 やっと我に戻る盗賊達。


 盗賊の頭。

 あの僅かな間に斬ったのか? あの僅かな間に。


 頭は斬られた子分の身体を凝視する。

 こ、こいつはもしかして……見覚えがあるぞ、あの斬り口! 万事屋と同じ斬り口だ。


 「野郎ども、なに突っ立ってやがる。相手はたったの1人だ。囲んで串刺しにしてやれ!」


 「「「「へい!!!!」」」」


 子分達は先に女を馬から降ろすと、続いて自分達も降りる。そして、すぐさま男を取り囲む。


 黒髪の男。

 全部で18人か。少し手間取るな。


 子分達は男との距離をとりながら取り囲む。


 男は冷静だった。

 半径5~6mの円陣か……この中では2時の方向の奴が一番強いな。まず、アイツから仕留めるか。


 男はそう判断すると姿勢をやや右方向に修正する。そして、二歩一撃という歩法(足を交互に出すのではなく、両足をほぼ同時に繰り出して二歩進み一瞬で距離を詰める技。これに刀の長さを加えると、5~6mの距離を一瞬に詰める事が出来る)を使い一気に距離を縮める。


 間合い詰めると素早く刀を抜き、逆袈裟懸けで斬り上げる。今度は右にいた子分めがけ、振り上げていた刀をそのまま唐竹(上から下)に振り下ろす。防御をする時間を与えられない子分達は、その刀の切れ味を自分の身体で味わう事となる。少しすると最初に斬られた子分は胴体がゆっくりと上下に分かれ始める。


 慌てる子分。


 「ど、どうなってやがる」


 今度は2人目の子分の身体が左右に分かれていく。


 「あ、あれ、何か身体の真ん中が熱い…」


 2人の身体から赤い噴水が湧き上がる。何が起きたのか分からない盗賊達。だが、数秒してやっと気付く事になる。自分達の身に何が起きたのかを。この時、黒髪の男を囲んでいた包囲網は既に瓦解していた。


 盗賊の頭。


 (こ、こいつはヤバイ。万事屋より腕が数段上だ。ここはコイツ等を犠牲にして時間を稼ぐしかねぇな)

 盗賊の頭は後ろに乗せていた女をそっと地面に降ろすと、来た道を一目散に逃げ帰る。


 それを目にした子分達。


 「親分、俺達を置いて1人で逃げるんですかい!?」


 振り向きもせず逃走する頭。


 「命がありゃ、また会おうぜ!」


 「親分!!」


 子分の後ろには、刀を持った男が既に立っていた。そこからは一方的な展開となる。女性達はその惨劇から顔を背けていた。ただ、最初に助けられた女性だけはその光景を見ていた。


 「す、すごい!!」


 すると女性はいきなり男に声をかける。


 「盗賊2人が馬で逃げようとしてます」


 男が振り向くと、確かに子分二人が馬に乗ろうとしていた。


 「分かった!!」


 男は二人の盗賊めがけてナイフを投げると、それぞれ背中に突き刺ささる。1人は馬にまたがるもそこから動けなくなる。もう1人はそのまま逃亡に成功した。


 「ちっ! 1人逃したか。だが」


 男は馬の上で動けなくなった子分の左側に移動する。すると、逆袈裟懸けで馬ごと斬り倒す。馬は真っ二つになるも子分の方は足を斬られただけだった。地面に転がり回る子分。そこに、ゆっくりと近づく黒髪の男。


 「ま、待ってくれ、俺の話を聞いてく……」


 話を終える前に、男の剣先が子分の首に吸い込まれる。


 「悪いが悪党の戯言に耳を傾けるほど暇じゃない」


 黒髪の男は逃げた2人を除き、残り18人の盗賊を全て斬りふせた。女性達の中から1人の女性が男に近づく。


 「助けていただいて、ありがとうございます」


 「い、いや。それより他の女性達は大丈夫か?」


 「はい、みんな怪我はありません」


 「そうか、良かった」


 「よろしかったら、お名前を教えていただけませんか? あっ、私はブルックと言います」


 「俺は……」


 男が名を明かそうとした時、村の方から馬に乗った一団が、こちらの方に向かって来る。身構える黒髪の男。一団の中から体格のいい男が近づいて来る。


 「お前は村の女性達をさらった盗賊の仲間か!! だったら容赦しない、覚悟しろ!!」


 男は槍を構える。その時ブルックは自警団の男の前に両手を広げ立ちはだかった。


 「待って兄さん! この人は私達を助けてくれたの。周りをよく見て!」


 ブルックの兄は辺りを見渡す。すると確かに多くの屍が地面を覆い尽くしていた。


 「こ、これをアンタ1人でやったのか?」


 「あぁ」


 「そうよ、この人が1人で盗賊達から私達を救ってくれたの。だから、この人に謝って!!」


 「す、すまない。なんせ気が立ってたもんだから」


 頭を下げるブルックの兄。


 「気にしなくていい」


 「俺はこいつの兄でパイロン。アンタは?」


 「俺の名は……」


 その時、男の後ろから若い女性の声が聞こえてくる。


 「アギトーー!」


 「にーさーまー!」


 「アギトくーーん!」


 「アギトーー!」


 ミア、リリーナ、ジーナ、バディが男の名を呼びながら近づいて来た。

 パイロン。


 「ア、アギトでいいのか?」


 「……あぁ……」


 ブルック。


 「アギトさん……ですか?」


 「……あぁ……アギトだ」


 ブルック、パイロン。


 「「……」」


 アギト。


 「……」


 アギトに追いついたミア。


 「アギト、怪我はない? もし、あったら、回復魔法をかけ……何で固まってるんだ?」


 「いや、何でもない。それより皆きてくれたのか」


 バディ。


 「あぁ、もう危険はなさそうだからな」


 リリーナ。


 「兄様、私の我儘をきいてくれてありがとうございます」


 「その事はもういい」


 パイロン。


 「彼女達は?」


 「俺の連れだ」


 パイロンはリリーナ、ジーナ、ミア、バディを見て驚く。


 「み、みんな飛びっきりの美人ばかりじゃないか!」

 凄く綺麗な男がいるな。あれは男? 女? 女なら好みなんだが…男ならイヤだな。まぁ、後で聞くか。


 アギト。


 「パイロンさん、連れの面倒をみてくれないか?」


 「あぁ、それはお安い御用だ。で、アンタは?」


 「俺はさっき逃げた盗賊を追う」


 驚くジーナ。


 「深追いは危険よ、アギト君!」


 「それは時と場合による。もし、さっき逃した奴が多くの子分を引き連れ再びやって来たら、村は大きなダメージを追う。それは避けたい」


 「そ、それはそうだけど、危険よ」


 「分かってる。それに乗り掛かった舟だ。やる以上は徹底的にやる」


 不安な顔をするジーナ。


 「アギト君」


 「心配してくれるのは嬉しいよ、ジーナさん。だけど、これはむしろチャンスなんだ」


 「どう言う事?」


 「今逃げた盗賊の根城を突き止め壊滅させる事が出来れば、この村はもう安全だ」


 パイロンが話に割って入る。


 「お、お前、いや失礼。アギト殿はまさか1人で乗り込む気なのか?」


 「あぁ、そうだ」


 「何人いるかわからない敵の拠点を1人で?」


 「あぁ、何人いてもかまわない。ここで多くの人を守りながら戦うより、1人で戦った方がやり易い」


 周りを見渡し屍の山を見るパイロン。


 「確かにアンタは強い。だが1人じゃ危険だ。だったら俺も加勢するぜ!」


 「すまないが、1人の方がいい」


 太い腕を曲げ、力コブを見せるパイロン。


 「俺は意外と強いぜ! 足手まといにはならないはずだ」


 アギトを援護するリリーナ。


 「パイロンさん、すみませんが彼の言う通りにさせてあげてください。お願いします」


 パイロンに頭を下げるリリーナ。


 「しかし……」


 ブルック。


 「兄さん、アギト様を信じましょう! ねぇ」


 「仕方ない」


 「すまないな、パイロンさん」


 そう言うとアギトは盗賊達が逃げた方角に馬を走らせる。


 ブルック。

 アギトさん、どうかご無事で。






     ~万事屋~


 少し離れた場所に一組の男女がいた。

 1人は濃紺で腰まであるロングヘアーの女性。瞳もコバルトブルーでやや釣り目。かなりの美人。プロポーションは凄まじくジーナとあまり変わらない様に見える。背は170cmぐらいか。年齢は23、24ぐらいに見える。服装は濃紺のライダーズジャケット風に、下は濃紺のレザー風パンツ。そして濃紺のブーツ。


 もう1人は濃紺でやや長髪の男。瞳もコバルトブルーでややタレ目。無精ひげを生やしている。中肉中背だがその身体はかなり鍛えられているようだ。背は180cmほど。年齢は26、27ぐらいに見える。服装は女性と同じく、濃紺のライダーズジャケット風に、下も濃紺のレザー風ズボン。濃紺のブーツ。見た目はチョイ悪オヤジに見える。


 2人は盗賊達が村を荒らしている様子を小さな望遠鏡で覗いていた。


 長髪の男。


 「何で付いて来たんだよ?」


 ロングヘアーの女。


 「アタイとアンタは一心同体じゃないか」


 「でもよ……」


 「一緒にいると何か都合の悪い事でもあんのかい?」


 「い、いや、何もないが(お前がいるとこの後、楽しめないんだよ!)」


 「なら、いいじゃない」


 「そ、そうだな」


 「それより親分さん、順調のようね」


 「あぁ」


 難しい顔をする男。


 「何か気に入らない事でもあるの?」


 「まぁな」


 「どこが?」


 「親分には『女だけにしろ』と言っておいたんだが、しっかり金品まで盗ってやがる」


 「何で金品はいけないのさ?」


 「今回の仕事は深夜じゃない。金品を盗むにゃ時間がかかる。だから『女』だけに的を絞ったんだ」


 「何で女だけに的を絞ったのさ?」


 「親分達は女日照りだ。それに俺も、たまにはお前以外の女を抱きたい……」


 怒った女は素早く男の脇に指を指し込むと、おもいっきりつねる。悲鳴を上げる男。


 「い、いってーー!! そこは皮膚が柔らかいから止めてくれ!!」


 男をにらみ付ける女。


 「アンタね、よくもアタイのいる前でそんな事が言えるね!!」


 「オ、オメェが聞いたから、素直に答えたんだよ!」


 「それでも、普通自分の女には隠すもんだろう、あぁーー!!」


 今度は男の顔を下からみつける女。


 「で、でもウソがバレたら、オメェ怒るだろう?」


 「当たり前だろう!!」


 「どっちにしても怒るんじゃねぇか!!」


 「アンタがそんな事を考えつかなきゃ良かったんだよ!!」


 両手を合わせ謝る男。


 「す、すまねぇ、悪気はないんだーー!!」


 再びつねる女。


 「悪気がないなら、最初からこんな計画立てるな!!」


 男は涙目になり、脇をこする。


 「まぁ、そう言うワケで今回は女だけに絞ったんだ」


 「何がそう言うワケだい!! で、どうすんの? そろそろ約束の時間だよ!」


 盗賊の後方を見ると、自警団が追いかけているのが見て取れた。


 「仕方ない、予定通りに助けてやるか」


 男は望遠鏡を胸のポケットにしのべると、近くに繋ぎ停めていた馬に乗るために立ち上がる。その時、男はある異変に気が付いた。


 「アンタ、どうしたんだい?」


 「村の方に誰か近付いてる」


 「まさか、役人?」


 男は再び望遠鏡を取り出す。女も鞄の中から望遠鏡を取り出して、その様子を観察する。


 「一騎だけだね」


 「そうだな」


 「親分さんと何か話してるわね」


 「あぁ」


 すると子分の一人が、黒髪の男に斬られるのが見えた。その凄まじい斬撃を目にする二人。


 「ア、アンタ、あれは?」


 「まだだ、もう少し様子を見てからだ」


 今度は子分が2人斬られ、残りの子分もほとんど一方的に斬り殺された。


 黒髪の男を注意深く観察していた男が女に話かける。


 「間違いねぇな」


 「そうだね。あの動き、あの太刀筋」


 「俺達と同じ、タツミヤ流だ!」


 男と女は腰に帯びていた剣の柄に触る。だが、それは剣ではなく、アギトと同じ日本刀だった。


 



お久しぶりです、ペリドンです。投稿するペースが遅くなってすみません。今回、今まで投稿した分をおもいっきり改稿してます。二ヶ月程かかると思います。その間、新作は月二回のペースで投稿したいと思います。次回投稿は3月16日を予定しています。よろしくお願いします。

 

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