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竜の刻印 ~異世界武芸帖~  作者: ペリドン
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第1章 第45話 コーカス村攻防戦 第2幕 慟哭

 

 各地で激戦が繰り広げられている中、リリーナの捕獲に成功する一報が届けられた。オークス側からは歓喜の声が沸き上がる。喜びが顔に出るレオナ。


 「やっと、やっとリリーナ姫を確保できたか!」


 反対にリリーナ側からは悔しさの声が沸き上がった。顔に悔しさがにじみ出るクレア。


 「まだよ、まだ今ならリリーちゃんを取り戻せるわ! 皆あきらめないで!!」


 オークスに手首を捕まれ、引きずられるリリーナ。


 「姫様、往生際が悪いですぞ!」


 「私は貴方に捕まる訳にはいきません!」


 「あきらめなさい姫様! もう貴女を助ける者はおりません。貴女を守る戦士たちは自分達の戦いで精一杯です」


 「それでも貴方に捕まる訳にはいきません!」


 「それならば仕方ない。少々手荒な事をしますが許されよ!」


 オークスはそう言うとヒモを取り出しリリーナの身体を拘束しようとする。その時、黒い髪の男が現れる。


 「汚い手で、リリーに触るな!!」


 リリーナを掴んでいたオークスの左手首を切り落とす。


 「ぐわぁーーーー!!!!」


 鮮血が噴き出す。


 「お、お前はアギト!!」


 「兄様、アギトさん!!」


 「お前は、あの激流にのまれて死んだ筈では!」


 「生憎あいにくと俺は悪運が強いみたいでね!」


 「くそ! それと何だ、その目の輝きは!」


 「そんな事、俺は知らない! ただ俺のリリーに手を出す奴は誰であろうと許さない!!」


 オークスは右手で左肩を縛り、止血する。


 「やはり生きていたんですね、兄様!!」


 涙ぐむリリーナ。


 「安心してくれリリー! 今度こそお前を守る!」


 「はい、兄様!! でも、その目と刻印の輝きは?!」


 「今はどうでもいい!」


 「は、はい」


 戦いながらそれを見ていたジーナ、ミア、バディ。3人の女性達は涙ぐみながら声を出す。


 「心配させてアギト君は、もう! でも何、あの目と胸の輝きは?」


 「やっぱし、アギトは生きてたんだ! よかった……よかった!」


 「アギトはあんな事で、死ぬような奴じゃない! 分かっていた事だ。それでも……よかった!」



 次にユアン、ノエル、クレア、ホーマー、ダレンがアギトに気付く。


 「ア、アニさん!」


 「アギトさん!」


 「やはりアギト君は死んでなかった。ハンナ、これで形勢が逆転したわね! しかし、あれは……」


 呆然とアギトを見るハンナ。


 「まさか! 生きていたとは」


 ホーマー


 「彼がアギト君か! しかし、何だ、あの輝きは!?」


 ダレン


 「あ、あれがアギトか? どうなってるんだ!」


 

 敵でありながらアギトが生きている事を喜んでいる女性がいた。


 「アギトさん、生きてたんだ」


 ミア


 「何でアメリアが喜んでるんだ?」


 「違うわ、彼と戦える事が嬉しいのよ」


 「弱いくせに!」


 「うるさいわね!」




 黒ずくめの男達が一斉にアギトに襲いかかる。だが、それを瞬く間に斬りふせる。


 「邪魔をするな!!」


 アギトの強さを初めて見たホーマー。


 「な、なんて強さだ! あれ程、手こずっていた相手をいとも簡単に!」


 「分かった、アナタ? 彼がアギト君よ!」


 アギトは周りの仲間に声をかける。


 「俺1人でコイツ等を排除する。 皆はリリーを守ってくれ!」


 ジーナ、ミア、バディがそれに応える。


 「分かったわ、アギト君!」 


 「分かったよ、アギト!」


 「言われなくてもリリーは私が守る!」



 皆アギトの言う通り、リリーナの護衛に着いた。


 「よくも好き勝手してくれたな! 礼は利子を付けて返させてもらう!!」


 「アギト君!!」


 1人の女性がアギトの名を呼ぶ。


 「ジーンさん、もう大丈夫だ!」


 ジーンの腕の中で動かなくなったレスを見る。


 「ま、まさか……レス……さん、レスさん!!」


 駆け寄るアギト。


 「まさか…まさか…」


 「アギト君、夫は……レスは最後までリリーちゃんと私、ケビンを守って……くれたわ」


 涙を流しながらアギトにレスの最後を語るジーン。アギトはレスの身体を手で触れ頭を下げる。


 「レスさん、ありがとう…ありがとう……」


 涙を流しながらオークスやレオナ達をにらみ付けると、アギトの怒りが爆発する。すると、胸の刻印と瞳の輝きが紅から金色(こんじき)に変化する。


 「お前ら……許さん……絶対に許さんぞ!!!」


 アギトの周辺の温度が徐々に下がっていくと、空間に歪みが生じる。


 「お前ら全員、この地上から消し去ってやる!!!!」


 刻印が更に輝きを増す。その強烈なプレッシャーがオークス達の動きを封じる。動けないオークスとレオナ達。


 レオナ


 「ば、化け物! 誰があんな奴と戦えると言うの。不味いわ!!」


 レナーナ


 「瞳と胸の輝きが変化した。一体なに、何なの!?」


 シーラ


 「この呪縛から逃れないと、こ、殺される!!」


 必死でアギトから距離をとろうとするオークス。しかし、アギトはすぐ後ろにいた。


 「オークス、村長達の仇をとらせてもらう!!」


 国切丸を振り下ろそうとしたその瞬間、アギトの動きが止まった。突然、アギトの身体を水色の球体が包み込む。敵も味方もその現象に注目する。北北西の空に向かい独り言を言うアギト。


 「……」


 「誰だ、お前は!」


 「……」


 「俺は皆の仇をとるんだ。邪魔をするな!!」


 「……」


 「俺はどうなってもいい!」


 「……」


 「洗礼とはなんだ?」


 「……」


 「何故、言えない!」


 「……」



 アギトを見つめるミア。


 「どうしたんだアギト!」


 アギトの行動を観察するジーナ。


 「誰かと話をしているみたいね」


 「誰と?」


 「私に分かる訳ないでしょう!」


 「そ、そうだね!」


 心配するリリーナ、バディ、クレア、ユアン、ノエル、ジーン達。


 国切丸を振り上げたままのアギト。


 「俺はこの世界で彼等に世話になった。それをコイツ等は!!」


 「……」


 「ダメだ!! せっかく手に入れたこの力、皆を守れるこの力を手放す訳にはいかない!!」


 「……」


 「それでもかまわない!!」


 「……」


 「すまない」


 独り言を終えると、水色の球体は弾けて消えてしまった。


 「待たせたな、オークス!!」


 アギトは再び国切丸を振り下ろそうとすると、今度は身体中から血が噴き出す。


 「ぐぅ、身体がきしむ。い、痛い、全身が痛い!!!」

 たとえ俺の身体が崩壊しても、ここでコイツ等を始末しておかなければ、後々禍根を残す事になる。頼むから動いてくれ俺の身体。もってくれ俺の肉体。


 だがアギトの思惑通りにはいかなかった。今度は金色の球体が現れ、アギトの身体を包みこむ。すると、アギトの身体から噴出していた血が止まった。金色の瞳も元の黒い瞳に戻り、胸の刻印も徐々に輝きを無くしていく。金色の球体が消え去るとアギトはそのままひざまずき、動かなくなった。いや、動けなくなった。 


 あっけにとられる、オークス陣営とリリーナ陣営。呪縛から解き放たれたレオナが声をあげる。


 「何だか分からないが、これはチャンスだ! 皆、アギトを殺れ!!」


 レオナ、シーラ、レナーナが一斉にアギトに襲いかかる。だが、アギトの周りをジーナ、ミア、バディが取り囲んだ。


 ムチを構えるジーナ。

 

 「アギト君は」


 三節棍を回転させるミア。


 「ボク達が」


 レイピアを構えるバディ。


 「守る!」


 ジーナ達、女の戦いが始まる。その間にオークスはアギトに近づいた。


 「よくも私の左手を! だがこれで最後だ、タツミヤ・アギト!!」


 オークスの剣がアギトの頭上に振り下ろされる瞬間、アギトの国切丸がオークスの右手首を切り落とした。


 「ぐわーーーー!!!!」


 「舐めるな!!」


 よろめきながらも立ち上がるアギト。


 「覚悟はいいか、オークス!!!!」


 アギトはそのままオークスの腹部に国切丸を差し込む。


 「ぐは!!」


 吐血するオークス。


 「これが村長達の痛みだ、思い知れ!!」


 「まだだ、まだこれからだ!」


 オークスはその腹部に刺さった状態で前進する。


 「な、何だと!」


 国切丸はついにオークスの背中を突き抜けた。それでも前進を止めないオークス。


 「私も譲る事が出来ないのだよ、アギト! 今だハンナ、私ごとアギトを貫け!」


 驚くハンナ。


 「オークス様!!」


 オークスは国切丸を腹部に深く刺したまま、アギトに抱き着き国切丸の動きを封じる。


 「なんて馬鹿力だ! いや俺の力が弱ってるんだ」


 「早くしろ、ハンナ!!」


 「分かりました、オークス様!!」


 ハンナが剣を構えアギトとオークスに近づく。その前に金髪の女性が両手を広げ立ちはだかった。


 「兄様はやらせません!!」


 「どきなさい、リリーナ姫!!」


 僅かにハンナの動きが鈍る。その時、ハンナの剣に鎖が絡み付く。


 「姫さんとアニさんは殺らせない!!」


 ユアンが助太刀に入る。今度はノエルの鎖がハンナの首に絡み付く。


 「兄さん、私も手伝います!」


 2人をにらんで一喝するハンナ。


 「邪魔!!」


 「ハンナ、加勢するわ!」


 アメリアが加勢する。


 「助かるわ、アメリア!」


 ユアン、ノエル対ハンナ、アメリアの戦いが始まる。


 一方、アギトとオークスに目を向ける。オークスに抱き着かれ身動きがとれなくなったアギトは技を使う。国切丸の柄から両手を離し、オークスの腕の中で少しだけ身体をねじる。すると、僅かに隙間が出来る。その隙間を利用しオークスの下アゴめがけて、右手で掌底を打ち込んだ。軽い脳震盪をおこすオークス。


 今度は左の肘をオークスの水月すいげつ(みぞおち)に叩き込む。アギトを締め上げていた腕が緩む。するとアギトとオークスの僅かな隙間が、広い空間へと変化する。アギトはすかさず柄を握りしめると、腹に納まっていた国切丸を引き抜いた。


 「これで終わりだ、オークス!!!!」


 アギトは八相の構え(刀を顔の右側に立てる構え)をとると、そのまま袈裟懸け(左肩から右脇腹へと斜めに振り下ろす)に斬る。オークスの胴体が少しづつズレていく。最後を迎えるオークス。


 「ハンナ、息子を、ラノフを頼む!! あの子は臆病で人見知りするが、優しい子だ。キミの子として育てて欲しい。わ、私の我がままを聞いて……欲しい。頼む、ハン……ナ……」


 ハンナはユアンとノエルの間隙をかいくぐり、オークスの所に駆け付けた。


 「分かりました、オークス様! ラノフちゃんは必ず私が育てます! だから、安心してください!」


 「あ、ありがとう……ハン……ナ……」


 オークスはハンナの膝の上で息を引き取った。アギトはオークスとハンナのやり取りで、ある程度の事情を把握する。


 「ハンナ、本当にオークスの息子は生きてるのか?」


 「……」


 「亡くなってるんだな」


 「……」


 「本当の事を言わなかったのは、お前の優しさか?」


 「貴方に答える義務はないわ」


 「そうか、それが答えか」


 アギトは近くにいたアメリアにも声をかける。


 「お前達、人の気持ちを、真心を踏みにじる者は、いずれその報いを受ける事になるぞ!」


 ハンナ。


 「そんな事は分かってる。この仕事に就いた時から覚悟は出来てるわ」


 アメリア。


 「アギトさん、貴方は恵まれているのよ」


 「どう言う事だ?」


 「貴方と私、いえ、私達は生まれも生い立ちも全てが違う。私達にはこれしか生きる手立てがなかった。だから、仕方がないの。私達は……」


 「アメリア、それ以上は」


 「分かってるわ、ハンナ」


 「アギトさん、貴方とのデートは偽りだと分かっていました。でも、あのひと時は楽しかったです」


 その時、笛の音が鳴り響く。


 『ピィーーーー!!!!』


 レオナから撤退の合図だった。アメリアは悲しげな表情で語りかける。


 「アギトさん、貴方とは違う形で出会いたかった」


 「待て、アメリア!!」


 振り返らずに撤退を始めるアメリアとハンナ。それを見送るアギト。


 「アメリア、私達の情報を教えてはダメ!」


 「ごめんなさい、ハンナ」

 さようなら、アギトさん。


 

 小悪魔達が撤退すると、オークスの直属部隊も投降する。フレイザーが改めてリリーナの前にひざまずき彼女に忠誠を誓う。


 「リリーナ姫様ご無事でなによりです! 私はフレイザーと申します、以後お見知りおきを。この度は救援が遅れ、申し訳ございませんでした。私の不徳の致すところでございます。このフレイザー、今後は姫様に忠誠を誓います。その証としてこれからの護衛は私めが引き受けます」


 「将軍ありがとうございます! ですが、その気持ちだけいただきます」


 「と言うと?」


 「私には兄様、いえ、タツミヤ・アギトがいます。護衛は彼に任せます」


 「かの者ですか。確かに相当な手練れですな。私もかの者の戦いぶりを拝見させてもらいました。ですが」


 「いえ、彼でなくてはダメです。あとで説明をしますが、私と彼、そしてジーナの3人はある秘密を抱えております。故に、彼でないとダメなのです」


 「分かりました。その秘密とやらは後で教えて頂きます」


 「分かりました」


 今度はアギトの近くに来て挨拶をする。


 「貴殿がアギト殿か! この度は世話をかけたな、改めて礼を言う!」


 頭を下げるフレイザー。


 「礼はいらない。頭を下げるなら俺ではなく、村の男達にだ!」


 アギトは水没した村の方を指す。


 「そうだな、すまなかった」


 フレイザーは村の方に深々と頭を下げる。心の中でさらに謝罪し立ち去ろうとした。


 「贖罪はまだ済んでない!」


 「どう言う事だ?」


 「それで謝ったつもりか? それで全てを済ますつもりか? ふざけるなよ将軍!!」


 「何だと!!」


 「この惨劇を引き起こしたのは、貴方の責任だ! オークスが持っていた攻撃許可の命令文書には貴方のサインと印が押されていた。つまり命令書をキチンと管理していなかった貴方のミスだ」


 「そ、それは」


 「一番悪いのは帝国だと分かっている。だがな、貴方が白紙の命令書を厳密に管理していれば、これ程の惨劇を招いてないはずだ。違うか?」


 「……」


 「失敗は誰にでもある。それをとがめるつもりはない。だが、たった一度の失敗でも、これ程の惨劇が起きたとなると話が違ってくる。その原因を突きとめなければ、また同じ事が起きてしまう」


 「そ、そうだな」


 「貴方は自分の責任を認めるんだな」


 「確かに貴殿の言う通りだ。私の不注意だ」


 「ならば、亡くなった者達に死んで謝罪しろ! ここで腹を斬れ!」


 「なっ、何だと!」


 「俺のいた国では昔、責任の取り方の一つとして腹を斬る慣わしがあった」


 「それをワシにせよと」


 アギトは国切丸を抜くと、刃先をフレイザーの方に向ける。


 「出来ないのなら、俺が介錯してやる」


 アギトとフレイザーの間にクレアが割って入る。


 「アギト君! やり過ぎよ!」


 「そうか? この村の惨劇をみると、やり過ぎではないはずだ」


 「確かにアナタにはそれを言う権利はあるわ。この村の女性や子供達を救ったのはアナタだから。でも、それでもダメ!」


 「どいてもらおうか、クレアさん。貴女には世話になった。だから貴女を斬りたくはない」


 「どうしても、将軍を斬るつもり?」


 「あぁ」


 「なら私を斬りなさい! 私を斬って彼を許して! 彼は、将軍はこのスタンリー王国にとって必要な人。アナタに斬らせる訳にはいかないわ!」


 「ダメだ、将軍を斬る!」


 「どうしても?」


 「くどい!!」


 ホーマーが剣を抜き、いつでもアギトを攻撃できる様に態勢を整える。


 「アギト! キサマ調子に乗るなよ!! クレアに手を出してみろ、許さんぞ!!」


 ホーマーに顔を向けるアギト。


 「死にたくなければ黙ってろ!! 俺はまだ50人、100人は斬る事が出来る!! 向かって来る奴は容赦なく斬る!!!!」


 アギトの殺気のこもった怒声にホーマーは動けなくなる。


 「く、くそ!!」


 クレアに近づくアギト。


 「残念だ、クレアさん」


 「私もよ、アギト君」


 ミアが叫ぶ。


 「アギト、やめて! お母さんを斬らないで!!」


 ジーナも叫ぶ。


 「アギト君、お願いだから、やめて!!」


 リリーナ。


 「ダメです、兄様!!」


 バディ。


 「アギト、クレアさんはダメだ!!」


 覚悟を決めたクレア。


 「アギト君、娘達をお願いね!」


 「分かった」


 「ま、待て!! 原因はワシにある。クレアは下がっていろ!!」


 「ダメです、将軍! 貴方はこの国に必要な人。私が斬られる事で彼の怒りが納まるなら、斬られる価値はあります」


 「話は済んだか? ではクレアさん、斬らせてもらう」


 「えぇ」


 リリーナ


 「ダメーーーー!!!!」


 静かに目を閉じるクレア。アギトは居合いの構えをとると、そのまま逆袈裟懸けに斬り上げる。その一瞬、周りの人間は目をつぶった。そして、ゆっくりと目を開ける。そこには無残にも斬られたクレアの体が横たわっている筈だった。だが、クレアはそこに立っていた。アギトは地面に国切丸を刺し両膝をつく。


 「俺はやってはいけない事をした。女・子供を助ける為に、男達に犠牲を強いたんだ。子供は未来そのものだ。そして、子供には母親が必要だ。だから……だから、男達に犠牲を強いたんだ。本当はしちゃいけない事だ。命を救う為に命を犠牲にするのはいけない事だ。だって、そうだろう!! みんな命は一つだ。だから……だから。


 俺が彼等にこの提案をした時、みんな嫌な顔一つせず頷いたんだ。『分かり切った事を言うな、アギト』って。あの時、誰か一人でも反対してくれたら、俺は救われたかもしれない。でも、そんな男はいなかった」


 アギトに近づき、そっと肩に手を乗せるクレア。


 「ゴメンね、アギト君。私達が至らないばかりに、アナタにだけ重荷を背負わせて」


 自分の両手を見るアギト。


 「俺は、俺は、守れなかった……救えなかった。多くの兵をこの手で斬りふせたのに、多くの返り血をあびたのに……救えなかった。人を斬るのは嫌だ!! しかも、村の人達と同じスタンリー王国の人間を斬ったんだ!! それでも村の為に、皆の為に……死んでワビを入れるしか……」


 「バカな事はやめなさい!!」


 自決しようとするアギトから国切丸を取り上げるクレア。


 「アナタは村長や隊長達から命を、想いを受け継いだんじゃないの? 彼等の死を無駄にするき!? 命を粗末にしてはダメ!! それにアギト君に救われた女性達や子供達は皆アナタに感謝してるわ。それを受け止めなさい!! なによりアナタを愛している女性達があそこにいるのよ!! アナタは彼女達をさらに深い悲しみに落とすつもり?」


 クレアの指先の方向には、アギトを心配そうに見つめるリリーナ、ジーナ、ミア、バディがいた。クレアはアギトを優しく抱き締める。


 「もういいの、もう」


 「今も聞こえるんだ、村長の声が! まぶたに焼き付いてるんだ、隊長の顔が! そして……レスさんを救えなかった」


 さらに強く抱き締めるクレア。


 「アナタは良くやったわ。本当に良くやったわ! だから泣いていいの。もう泣いていいのよ、アギト君。ここにはアナタを責める人はいないわ」


 

 「……クレアさん……俺は……俺は……うわぁーーーー!!!!」


 静けさを取り戻していた夜の木々に、アギトの慟哭どうこくが鳴り響く。



 

  スタンリー王国兵。死者1731人(内アギトの手にかかって亡くなった者、約8割)

  村の男性。死者385人。(村の男性の約9割)

  警備隊員。死者37人。(コーカス村の守備についた者、全員死亡)



 こうしてコーカス村攻防戦は幕を降ろした。

 


 

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