第1章 第44話 コーカス村攻防戦 第2幕 覚醒の予兆
~荷車~
ジーナはアギトの最後の声を聴くと、流れ出しそうな涙をこらえた。そして荷車に乗っている護衛の男性達(村人)、ジーン、それともう1人、緑色の髪をした若い女性に話しかける。
「皆さん、これからジーンさんの故郷のフィル村に向かいます!」
赤ん坊を大事に抱きかかえるジーン。
「そうね、予定通り行くしかないわね。亡くなったアギト君の為にも!」
ジーンの隣にいた女性は、左手首にはめていたブレスレッドを指でなでる。そしてジーンに反論した。
「彼はきっと生きています! アギトさんは……アギトさんは」
「そうね、ゴメンなさい。彼はきっと生きているわ!」
ジーンの夫レスは2人の会話を聞きながら、綱を握る手に力が入る。
その荷車を追いかけてくる集団があった。1人の男と2人の女。その後ろには200人前後の騎馬隊が控えていた。ハンナがオークスに話しかける。
「見えました、オークス様!」
「そうだな、だがまだ遠い! 急ぐぞハンナ、レナーナ!」
「「はい!!」」
後方から追いかけて来る一団を見つけ、緑色の髪の女性がジーナに話しかける。
「ジーナさん、あれ!」
「不味いわね、このままだと追いつかれるわ。でもこれ以上、速度を上げられないし」
その時、荷車が大きい石に乗り上げてしまった。
レスが声をあげる。
「し、しまった!」
「な、何? どうしたのアナタ!」
降りて荷車を知らべるレス。
「暗くて分からないが、多分車軸が曲がったみたいだ」
ジーナがレスに問いかける。
「と言う事は、まさか!」
「すまない、これ以上動かす事は出来ない」
緑色の髪の女性。
「そ、そんな! もうすぐそこまで敵が迫っているのに!」
「腹をくくるしかないわ。レスさん、載せてある板を並べて迎え撃つ用意を!」
「そうだな」
レスは荷車の後方に板を数枚並べて、弓を構える。他の男性達もレスに続いた。ジーナはムチを、緑色の髪の女性はナイフを構える。ただし、ジーンは乳飲み子を抱えているため、馬車の中に隠れた。
レナーナがオークスに話しかける。
「オークス様、荷車が止まっております。何かあったみたいですね!」
「よし、一挙に追いつくぞ!」
「「はい!!」」
ジーナ。
「200から250人位が追いかけて来てるわね。それに比べて私達は10人。アギト君がいてくれれば、あんなのものの数じゃないのに!」
緑色の髪の女。
「ジーナさん」
「ゴ、ゴメンなさい。愚痴を言って」
弓を構えるレス。
「来たぞ!」
ジーナの荷車に追いついたオークス、ハンナ、レナーナの3人。一歩前に出るオークス。
「追いかけっこはここまでだお嬢さん!」
オークスの左隣に立つレナーナ。
「ジーナ、貴女とは前回の遺恨もあるけど、素直に姫様を渡してくれるなら穏便に済ませてもいいわ」
今度はオークスの右隣に立つハンナ。
「まずはその矢を降ろしてくれないと話が出来ません」
板の前に出てきたジーナ。
「この期に及んで貴方達と交渉が出来るのかしら?」
「それは君達次第だな」
「一応確認するけど、貴方達の要件は?」
「リリーナ姫の引き渡しだ」
「そう、残念ね。でもこの荷車にはリリーナ姫はいないわ。貴女達、出て来て」
ジーンと緑色の髪の女が出て来て、オークスにその姿を見せる。
「どう、納得できたかしら」
「レナーナ、確認を頼む。私とハンナは姫の顔を知らないからな」
身を乗り出し顔を確認するレナーナ。
「ここからでは分かりません。もう少し近寄らないと」
ここでハンナがジーナに話しかけた。
「何故、貴女達は1台だけ外れて、北の方に向かったの?」
「それは、貴方達を分散させる為」
「それはウソね!」
話に食い込むオークス。
「どう言う事だ、ハンナ」
「もし、リリーナ姫がいないのなら、投降すればいいのです。こちらも命までは奪わない。でも彼女達は板を立てて防壁を造り、矢を構えています。考えられる事は一つ。この中にリリーナ姫がいます!」
ハンナが言い終えると、レナーナが緑色の髪をした女性にムチで攻撃をした。しかし、ムチは女性の髪を絡め取っただけだった。
「やはり貴女がリリーナ姫!」
レナーナの手には、ムチで絡め取られた緑色のカツラがあった。偽りの髪の下からは金色の美しい髪が現れた。オークスがリリーナに話しかける。
「こちらに来てもらいましょうか、リリーナ姫」
「イヤです!」
「貴女がこちらに来れば、ここにいる人間に危害は加えません。お約束します」
「コーカス村の人達は私を逃がす為、命をかけてくれました。その死を無駄にする事は出来ません!」
「強情な!」
「オギャー、オギャー」
その時、荷車から赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。ジーンはジーナに視線を送ると、荷車に戻り赤ん坊に乳を与える。
オークス。
「ほう、赤子まで乗っていたのか、なら話は早い! 姫、その赤ん坊の運命を握っているのは貴女です。貴女の返事次第でその子の命はここで終わります。さぁ、どうされます?」
唇を噛みしめオークスをにらみ付けるリリーナ。既に荷車は200人の兵に囲まれていた。
「ひ、卑怯な! 貴方には家族はいないのですか? いればそんな事は言えません!」
「姫、それは違います!」
「どう違うのです!」
「家族がいるからこそ、私は悪魔になれるのです」
「言ってる意味が分かりません」
「……私にも息子がいます。たった1人の家族です」
「なら、どうして!」
「私の子は難病で、治る手立てがないのです。しかし、その病気を治せる薬草があったとすればどうします? そして、その薬草をもらうには貴女を引き渡す事が条件だったなら。貴女が私の立場だったら……答えていただきたい」
「それでも、貴方のしている事は許される行為ではありません」
「そう、だから私は悪魔に魂を売ったのです。たった1人の家族の為に、息子の為に!」
「それでも1人の命を救う為に、多くの命を犠牲にしていいと言う事にはなりません!」
「そうです、貴女の言う通りです。ですが、多くの知らない人の命よりも、たった一つでも息子の命が大事なんです! 私にとっては息子が全てなんです!!……まだ子を成していない貴女には分からないでしょう」
「それは……」
そこにホーマーとバディが木々の間から姿を現した。驚きと嬉しさが入り交じった顔をするジーナ。
「お、お父さん!!」
身構えるオークス。
「貴殿は?」
「私はルード宮殿を守る近衛隊隊長ホーマー。そして、そこにいるジーナの父親でもあります」
「ほう、貴方がクレアさんの夫ですか?」
「えぇ、彼女は私の妻です」
「頼もしい奥さんで羨ましいかぎりだ」
「褒めていただいた事には素直に感謝します、オークス中佐」
ホーマーはリリーナの方に顔を向け言葉をかける。
「立派になられましたな、リリーナさん。いや、リリーナ姫」
「お久しぶりです、おじ様」
「話は聞かせてもらいました、オークス中佐」
「貴方なら私の気持ちが分かるでしょう? 子を持つ同じ親ならば」
「いえ、分かりませんな」
「何故?」
「貴方は軍に入隊した時、どんな気持ちで入ったのです中佐?」
「……」
「このスタンリー王国の国民を守る為に入隊したのではないのですか? 多くの民が笑顔で暮らせる国、その笑顔を守る為に入隊したのではないのですか?」
「……」
「別に一個人の幸せを犠牲にしろと言っているのではありません。ですが、優先されるのは国民の平和。違いますか中佐?」
「それは綺麗事ですよ、ホーマー近衛長。人間、一番大事なのは家族です。もし貴方の娘ジーナさんが難病に犯された時、貴方は今のような言葉が言えますか?」
「……仕方ないでしょう、それが天命ならば」
「大した人ですな、貴方は!」
「貴方の気持ちは痛い程よく分かる。同じ親として」
「いや、貴方は分かっていない。貴方は私を可哀想な人間だと、高い場所から見下している。それは貴方が私と同じ場所に立っていないからだ。理解するにはその人と同じ立場、同じ環境に身を置かなければならない。そこで初めて、その痛み、苦労が分かる。貴方にはまだ余裕がある」
少しづつ荷車に近づくホーマーとバディ。
「そうですか、どうやら貴方とはどこまで行っても平行線のようだ」
「そこだけは一致しましたな。では用意はいいですか、ホーマー近衛長?」
「えぇ」
オークスはホーマーとバディが荷車にたどり着くのを待っていた。そして、ついに部下に号令を出す。
オークス。
「かかれ!」
「「「「オーーーー!!!!」」」」
オークスの兵はホーマーとオークスが話をしている間に板を用意し、矢の攻撃に備えていた。敵の動向を視て指示を出すホーマー。
「ジーナ、放射状に矢を射かけろ!」
「はい、お父さん!」
「バディさん、キミはリリーナ姫と赤ん坊、その母親を護衛してくれ!」
「分かった!」
「フレイザー将軍が来るまで時間を稼ぐんだ!!」
「「「「了解!!!!」」」」
戦闘が激しさを増す中、数で押され始めるホーマー。そんな時、ホーマーとバディが来た細い道からクレア、ミア、ダレン少佐、ユアン、ノエルが応援に駆け付けた。
「アナタ、お待たせ!」
「随分、待たよクレア。付き合い始めた頃を思い出すな。キミはいつも化粧に時間をかけてギリギリだった」
「そうね、アナタには綺麗な私を見て欲しかったから」
「その割には、あまり変わらなかったな」
「アナタ!」
「いや化粧をしなくても綺麗だったと言いたかったんだ」
「『だった』過去形なのね!!」
「……」
「アナタ、この件が落ち着いたら話があります!」
怯えるホーマー。その様子を見て呆れるミア。
「こんな状況なのに余裕あるな、お父さんも、お母さんも」
敵兵を相手しながらダレンに話しかけるバディ。
「もう大丈夫なのか少佐?」
「あぁ、クレアさんとミア君のおかげで良くなった」
「すまなかった、少佐」
「その事はいい。それよりもこの状況を何とか打破しないとな」
「そうだな」
敵側にも応援が駆け付けた。まずアメリア。
「ミア、ここで決着を付けさせてもらうわよ!」
「しつこいな、アメリアは!」
2人の棍が互いに交差する。その頃レオナとバディも対峙する。先にバディが仕掛けた。
「この間の借りをここで返させてもらうぞ、レオナ!」
「やれるモンならやってみな、バディ!」
お互いレイピアを構え、激戦を繰り広げる。驚くバディ。
「ここまでやるとは!」
「私はカロン程ではないが、お前よりは強いと思っていた。しかし、噂だけの事はある。カロンの一番弟子は伊達じゃないわね!」
「勝手に言ってろ。それより、アギトを罠にかけたお前は許さない!」
「敵討ちのつもり?」
「アギトは死んでいない! 彼は必ず私の前に帰って来る!!」
「そう、ならば彼が帰って来た時には、今度は貴女がいなくなってるのね!」
「いや、いなくなるのはお前だ、レオナ!!」
そこから少し離れた所では、ジーナとレナーナが見えない戦いを繰り広げていた。2人の間で乾いた音が交差する。レナーナがジーナに話しかける。
「この間の再戦ね、ジーナ!」
「そんな事はどうでもいいわ。それよりさっきリリーちゃんの顔めがけてムチを仕掛けたわね。当ったたら大変な事になっていたわよ!」
「心配いらないわ。だって私アナタと違ってムチの扱い上手だから」
「そう、ならどちらがムチの扱いか上か試しましょう!」
「望むところよ!」
乾いた音が徐々に大きくなっていく。荷車の近くではユアンとノエルがシーラと対峙する。
「私の相手は雑魚2人か、面白くないわね。でも仕事が早くすみそう」
不敵に笑うノエル。
「雑魚かどうか、これから分かるわ」
シーラがダガーを両手に持ち態勢を低くする。ユアンは両手に短剣を持ち正面から突っ込んで行く。
「男らしいわね、アナタ!」
シーラのすぐ傍まで来ると、その横をすり抜ける。その瞬間シーラの足に何かが絡み付いた。
「な、なに!?」
ユアンがシーラの視線を引き付け、その隙にノエルが細い鎖で彼女の左足首を絡め取っていた。ノエルは鎖を引っ張ると、そのまま地面に倒れ込むシーラ。
「よくも、ダマしたわね!」
「雑魚とか言って油断してるからよ、巨乳オバサン! ねぇ、兄さん!」
迷惑そうに返事をするユアン。
「そ、そうだな」
「2人とも覚悟しなさい!」
「貴女に出来るかしら?」
シーラはノエルにダガーを投げようとするが、今度はユアンがシーラの右手首を鎖で絡めとる。
「えぇい、チョコマカと!」
「兄さん!」
「分かってる!」
満足に動けないシーラにユアンとノエルは同時にナイフを投げようとする。その時、黒ずくめの男達が助けに入った。
「大丈夫ですか、シーラ様」
「えぇ、助かったわ! さて、形勢逆転ね!」
悔しがるノエル。
「あと少しだったのに!」
ユアンとノエルはシーラと黒ずくめの男達を相手にする事となる。
別の場所ではクレアとハンナが対峙する。ハンナに話しかけるクレア。
「色々とやってくれたわね、ハンナ!」
「そちらこそ私の作戦を邪魔をしたわね、クレアさん!」
「見破ったのは、アギト君よ! そして、その裏をかく作戦を立てたのも彼よ!」
「そう、彼が! お蔭で私達は大変な苦労をしたわ。でも、これでおしまい!」
「もうすぐ、ここにフレイザー将軍が来るわ。そうなれば逆に追い詰められるのは貴女達よハンナ!」
「上手くいくといいわね」
「どう言う事?」
「ここにいる200人の兵はオークス様の子飼いの兵よ。例え将軍が来ても彼等は将軍の命には従わない。従うのはオークス様の命令だけ……これは逆にチャンスかも。ここに来ればフレイザー将軍を仕留める事が出来るわ」
「何ですって!」
「考えてみて。仮に将軍が兵を連れて来ても、この狭い場所では上手く展開はできないはず」
「しまった!!」
「この狭い場所で必要なのは数でなく質よ。そして、貴女達はそれを持っていない。タツミヤ・アギトと言う一騎当千の男を! 彼がいなければ貴女達の逆転は無理よ。将軍ではダメ。彼は生贄になるだけよ!」
その場から離脱しフレイザー将軍に知らせようとする。
「行かせないわ!」
「どうしても?」
「どちらに転んでも貴女達は終わりよ。応援が来なければ数の少ない貴女達は終わり。応援が来ても数が多すぎて使えない。この今の状況を打破出来るのは、たった1人。タツミヤ・アギトのみ」
言い終えるとハンナは剣を構える。
「お手並み拝見させてもらいます、クレアさん!」
「仕方ないわね、ハンナ!」
お互い剣を構え数度打ち合うと、そのまま硬直状態におちいる。
「やるわね、ハンナ!」
「貴女こそ。流石、近衛副長だけの事はあるわ!」
「褒めてくれてありがとうハンナ。貴女レオナよりも品があるわね」
「あの下品な女と同じにしないで欲しいわ!」
クレアとハンナから少し離れた所では、オークスとホーマーが激戦を繰り広げていた。無言で殺り合う2人。オークスが鋭い突きを見せるとホーマーは最小限の動きでかわし、その手首めがけて剣を振り下ろす。
「流石やりますね、ホーマー近衛長!」
「貴方もな、オークス中佐!」
そこに現れる黒ずくめの男達。
「ホーマー近衛長、すまないが遊びはここまでだ! ここからはこの者達が貴方の相手をする!」
「リリーナ姫の所には行かせない!」
「それでは失礼!」
「待て!!」
オークスを追いかけようとすると、黒ずくめの男達が立ち塞がる。
「えぇい、邪魔だ!!」
こうしてホーマーは、この男達の相手をする事となった。
そんな中、遂にフレイザーが到着する。
フレイザーが目にしたのは、道いっぱいに繰り広げられた激戦だった。大きな声で叫ぶフレイザー。
「私はスタンリー王国軍を統括するフレイザー将軍である。者ども静まれ!!」
何度も叫ぶフレイザー。しかし、気が付いたのは僅かにホーマーとクレアだけ。その他は戦いに必死でそれどころではなかった。むしろオークス部隊の兵はフレイザーを敵視していた。
「どうなっているんだ、この状況は! まるで私を無視しているようだ」
連れて来た部下も、停戦を呼びかけるが誰も応じない。それどころか、フレイザーの兵にまで斬りかかってきた。
「この狭い道では兵を組織的に運用できぬな。こうなれば個人個人で戦うしかあるまい。しかし、これでは個人の力量がモノを言う。向こうはかなりの手練れを連れて来てるな……考えても仕方がない」
フレイザーは向きを変え、連れて来た兵に命令を下す。
「これからリリーナ姫様を救出する。皆は姫様の顔を知らんだろう。特徴は金髪の女性で、若くて一番綺麗な方が姫様だ! 分かったか!!」
多くの兵が剣を掲げ応える。
「「「「オーーーー!!!!」」」」
「では、かかれーー!!」
「「「「「オーーーーー!!!!」」」」
フレイザーの兵がオークス部隊の最後尾に襲いかかる。
一方、荷車の方に目を移すと、敵兵がジーンに襲いかかる。リリーナが咄嗟にジーンと赤ん坊に覆いかぶさった。それを見たジーンの夫レス。
「彼女達は僕が守る!」
敵兵の背後から剣を振り下ろすレス。敵兵の怒声が鳴り響く。
「邪魔だ、どけ!」
振り向きざまに敵の剣がレスの胸を貫いた。
「ぐっは!!」
ジーンの目の前で吐血する夫。
「アナターーー=!!!!」
レオナを牽制しつつ、近くにいたバディが駆けつける。
「キサマよくもレスをやったな!! 斬り刻んでやる!!」
バディの剣先が敵兵の腹部に無数の穴を開けると、その場で動かなくなった。レスに近づくジーン。
「アナタ!!!」
「愛してるよ、ジーン。キミに……」
吐血するレス。
「アナタ、もう喋らないで!!」
「ジーン聞いてくれ、息子を頼む。最後までケビンの成長を見る事が出来なくて、ざ、残念だ。キミに負担をかけるが、ケビンを頼む……頼む……」
ジーンの腕の中で息を引き取るレス。
「アナターーーー!!!!」
周りが悲しみに包まれる。そんな混戦の中、ついにオークスはリリーナを捕まえた。
「さぁ、一緒に来てもらいましょうか、リリーナ姫!」
リリーナは涙を流しながら、ある男の名を叫ぶ。
「いや、もうイヤ! 助けて兄様!! アギトさん!! アギトさーーーーん!!!!」
その時、オークス部隊の末尾で異変が起きる。近くにいたフレイザーがその様子を目撃する。思わず声を上げるフレイザー。
「な、何だ、あの男は!!」
そこには上半身裸のびしょ濡れの男が立っていた。この世界では珍しい黒い髪に珍しい剣を腰に差している。リリーナの叫び声に反応する男。
「待っていろ、リリー!! すぐに行く!!」
男の胸の刻印が紅い光を放ち、瞳が縦長に変化している。その爬虫類の様な瞳には紅蓮の炎が宿っていた。
「オークス、お前だけは絶対に許さない!!!!」
男は周りの兵を斬りふせると、リリーナのいる場所へと駆け出していた。




