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竜の刻印 ~異世界武芸帖~  作者: ペリドン
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第1章 第25話 仕掛けられた罠

 

 決着が着いたので、カロン側の立会人はバディと話をする。その後、馬に乗り西の方へと去って行った。その時、男の顔が少し笑っていた。


 アギト。

 なんだ? カロンが敗れたのに何故笑う? 別れ際にバディを見ながら舌舐めずりをしていたな。いったい何なんだあの男は?


 男が去った後、バディは馬に縛り付けてあるバッグから、今朝カロンから受け取った手紙を取り出し読み始めた。




 『親愛なるバディへ



  私がキミに手紙を書くのは初めてだな。キミがこの手紙を読んでいると言う事は、もう私はこの世にいないだろう。私がキミに出会ったのは今日みたいな雨の日だった。あの日、キミは親と死に別れ道端で立ちすくんでいた。武者修行中の私があの道を通り過ぎた時、キミは私の後を付いて来た。あれからもう12年が経つ。


 色々な事があった。その中でキミを養う為に、裏の家業に手を出した事もある。そんな状況でもキミは立派に成長してくれた。剣士として、女性として。


 今後キミの人生はキミ自身で決めればいい。私としては良い人と巡り合い、幸せな家庭を持ってもらいたい。キミが望むなら、道場を立ちあげ我が流派を広めるのもいい。また、それ以外の道を選ぶのもいい。だが、出来る事なら、私が歩んで来たこの血生臭い世界には来ないで欲しい。



 キミの行く末を見る事が出来ないのは残念だが、心からバディの幸せを祈っている。



 あまり手紙を書いた事がないので、読みにくいかもしれないが許して欲しい。





              親愛なる我が娘 バディへ



                                    カロンより  』




 バディは立ち上がると、天を仰ぎ大きな声で叫ぶ。


 「私は何も望まない、幸せもいらない! お師様がいてくれるだけでいい、それだけで!!」


 再び地面にうずくまると、小さな声でつぶやく。


 「お師様が、貴方がいてくれるだけで良かった。ただ、それだけで……」


 アギトはまだ傷が治ってない状態で彼女に近づく。先程とは打って変わって彼女の瞳には復讐の紅い炎が宿る。


 「今のままではお前には勝てない! しかし、今よりもっと腕を上げて必ずお前を倒す! 覚悟しておけ!」


 「あぁ、腕を上げて戻って来い! お前との約束、この胸に刻み込んでおく。それとカロンさんの遺体はコーカス村に埋葬していいか? このままでは可哀想だ。俺が面倒を見るから」


 彼女は少し考えた後、先程とは違う悲しい目でアギトの顔を見る。


 「頼めるなら、お願いしたい。このまま知らない場所で埋葬するよりよほど良い。それにコーカス村ならばお前にも会える。その時は必ず、必ず……」


 「分かった」


 彼女は形見になってしまったカロンのレイピアを抱きしめ、カロンの頬にキスをする。そして馬に乗ると男と同じ方角へ向かう。アギトはそんな彼女に忠告をする。


 「あの男とまた会うのか?」


 「そうだ。一度、仲間と合流してから故郷に帰る。何が言いたい?」


 「あの男、いやその仲間に気をつけろ!」


 「何を言っている、お前が心配する事ではない。お前は私に敗れる日の事を心配していろ」


 「そうだな。だが忠告はしたぞ!」


 「ふん!」


 バディはそのまま西へ消えて行った。それを見送るとクレアが寄って来て指で地面を指す。


 「早く寝なさい! まだ治療は済んでないのよ」


 アギトは言われるまま、再び横になると回復魔法をかけてもらう。暫くするとほぼ完治した。ここで彼女にお願いをする。


 「クレアさん一度コーカス村に帰って、リリーやミア達に勝った報告をお願いできないか? あとカロンさんの埋葬の事もお願いしたい。小間使いみたいな事をさせて悪いが」


 「アナタはどうするの?」


 「俺はバディの後を追いかける」


 「どうして?」


 「あの立会人のが気になるんだ。クレアさんは気が付かなかったか?」


 「どんな?」


 アギトはクレアに話す。


 「そうね、それは気になるわね。でもそれはこちらには関係のない事よ。アナタはどこまで首を突っ込むつもりなの? そんな事してたら果てがないわよ!」


 「クレアさんが言う事はよく分かるけど、放っておけないんだ}


 「アナタはもう……いいわ。あとは私がやっておくから、行ってきなさい! でも、ちゃんと帰って来るのよ!」


 「すまない、クレアさん! ジーナさんやミアはいい母親を持って幸せだな!」


 「おだてても、何も出ないわよ! さぁ、早く行きなさい!」


 「あとは頼みます!」


 アギトはひづめの後を見ながらバディを追いかけた。






     ~仕掛けられた罠~


 その頃バディは山の中腹にあるテントを訪れていた。そこはネイルと20人の兵が駐留している場所であった。ネイルがバディを見つけると声をかけてくる。


 「今回は惜しかったなバディ殿」


 「カーシー様は?」


 「カーシー様は、別荘で今後の方針を練っておられる。ここに居るのは、私と部下の20人だけだ!」


 「後の兵は?」


 「別荘で待機だ。それよりカーシー様は別荘で待機とおっしゃったのに何故フィル村に移った?」


 「あそこはコーカス村に近く、決戦までの間、心を落ち着かす事が出来るからだ。お師様がお前に言っていたはずだ」


 「オイオイ、これは明確な命令違反だな!」


 「私達はコンベール大王国からの応援だ。お前にとやかく言われる筋合いはない!」


 「しかし、アンジェ国王からの御達しでは、お前等はカーシー様の指示に従う様になっていたはずだが?」


 「それは時と場合によるはずだ!」


 「では、この命令書を見よ!」


 ネイルはアンジェ国王からの命令書を見せる。そこには如何なる場合でもカーシーの指示に従う様に記載されていた。


 「こ、これは私達が見た命令書と違う。これは、偽者だ!」


 「良く見て見ろ! アンジェ国王のサインがあるだろう。本物だよ! お前はひょっとして、こちらの書類の事を言っているのか?」


 ネイルはもう1枚の命令書を出し、バディに見せる。


 「そうだ、この命令書だ!」


 「ハハハ、そうだ、どちらも正式な書類だ。お前達が成功すれば、お前が見た命令書が優先され、失敗した時にはもう1枚の命令書が優先されるのだ」 


 「どう言う事だ?」


 「頭が悪いな、お前は! つまり失敗した時は、お前達を煮るなり焼くなり好きにして構わないという事だ。アンジェ国王はなカロンを近衛長にしたものの、後で暗殺もしていた事を知り世間体を気にしたんだ。

 そして、今回何か落ち度があれば、近衛長を解任する予定で我々に寄与させたんだ。要はお前等二人はアンジェ国王からはお払い箱にされたんだよ。カーシー様に利用されていた可哀想な道化だったんだ」


 「そ、そんな!」


 「普通に考えてみろ。暗殺なんぞやっていた人間など、近衛長にはなれん!」


 「お師様は私を育てる為に、一時的に裏の仕事をしただけだ。そんなに長い期間はたずさわってない!」


 「それはお前の意見であって、アンジェ国王はそうは思ってない。どんな理由であれ一国の近衛長が元殺し屋をやっていたなど、許される事ではない。しかし、何の落ち度もない人間を罷免する事は出来ない。

 だからカーシー様の応援という形にし、何か失敗があればそれを口実に責任を負わせようとしたのだ。その証拠がこの2枚の書類だ。分かったかバディ!」


 愕然とするバディ。


 「わ、私が、私の存在がお師様の足を引っ張ったのか?」


 「そういう事だ。しかも、お前達は二つのミスを犯した。まず一つはカーシー様の別荘で待機をするはずだったのに無視してフィル村で滞在した。二つ目はアギトに敗れた事だ。これは大いなる軍記違反だ。よって貴様を捉え、罰を与える!」


 周りにいた兵がバディに近づく。彼女はレイピアを抜き応戦する。二人の兵を瞬く間に刺殺するバディ。


 「流石に強い! カロンの弟子を名乗るだけの事はある」


 ネイルは余裕をかもし出しながら指を『パチン』と鳴らす。すると、バディの頭上から網が落下し彼女の自由を奪った。


 「離せ、何をする、離せ!」


 必死でもがくバディ。


 「よし、獣を捕獲したぞ! これからは祭りの用意だ。こいつを例の所へ連れて行け!」


 「ど、どこに連れて行くきだ!?」


 「天国だ、我々にとってはな! だがお前には地獄か、いや、お前にとっても天国か!」


 「クソ!!」


 「これから何をされるか、頭の悪いお前でも分かったか! ちなみに言っておくが、お前はコンベール大王国では戦死扱いだ。つまりこの世に存在しない人間だ。だから、何をしても文句は出ないし、お前を助けにくる奴は誰もいない。そう言う事だ、バディ・ルロワ! よし、連れて行け!」


 「「はっ!!」」


 レイピアを取り上げられると、網に絡まった状態で屈強な兵に運ばれて行くバディ。


 「離せー、クソー、クソー!!」


 バディがいなくなったその場所で、ネイルは薄ら笑いをする。


 「男所帯で皆イライラしてたんだ。極上の獲物が自分から飛び込んで来るとはな。今日は楽しくなるぞ! ハハハハ」


 ネイルの笑い声が大きく木霊こだまする。



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