表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の刻印 ~異世界武芸帖~  作者: ペリドン
24/63

第1章 第24話 決戦

    

 アギトとクレアは、雨の中マントのような防水服を着て馬に乗る。目的地に約30分程で着いた。

既にカロンとバディはその地で待っていた。そこには知らない人物が1人立っていた。


 カロン。


 「心配する事はない。この者は立ち会い人だ」


 「了解した。ところで、この地でいいんだな?」


 「そうだ、この地が我々の舞台だ! 最後までこの大地に立っていた者が勝者だ!」


 「分かった、始めようか」



 (それにしても、この場所はやけにぬかるんでいる。足が20㎝位沈む。これは酷すぎる。しかし、それはカロンも同じ条件のはず。速い動きが必要なカロンは俺より悪い条件のはずだ。だが、この地を選んだとなると、何かあるはず…今は考えても仕方ない)


 死合いに集中するアギト。カロンはレイピアを抜き、剣先を水平よりやや上に構える。アギトはやや腰を落とし国切丸の柄に手を添える。


 最初はカロンが仕掛ける。まず速いファント(身体を伸ばしきって行う突き)でアギトの胸元を狙う。アギトはそれをかわすが、反撃には出ない。いや、出られなかった。何故ならカロンが考えられない速さで元の態勢に戻ったからだ。カロンの足元を見る。先程まで光っていなかった足元が光っていた。


 (なんだ、あの輝きは?)


 アギトはもう一度カロンの出方を待つ。今度は剣先を水平にして仕掛けてきた。同じくかわすだけに専念する。

 

 何て事だ! 奴の足を包み込む光は、この泥の上を滑るように移動できる魔法か術。だからカロンはこの雨を待ってたんだ。この地は奴に適したフィールドで俺にとっては最悪の場所だ.


 アギトは一瞬、後悔したが今はこの現状で出来る事を模索する。


 カロン。

 

 「どうしたアギト殿、顔色が悪いぞ」


 「仕掛けがわかったよ。この泥の中でも自由に動けるその光が、あんたの自信のみなもとだったんだな」


 「そうだ。そしてこのチャンスをくれたのはキミだ、アギト殿」


 「そうだな、少し後悔をしているよ。だが戦いはこれからだ。こちらも前の戦いで見せていない歩法がある。それをあんたの目で確かめるんだな」


 「ま、まだあるのか? あの特殊な歩き方が!」


 「特別に教えてやるよ、歩法の名は、『走り懸け』。この歩法が反撃の狼煙のろしだ! 改めて参る!」


 アギトは左半身をやや前にし、刀のさやを左手で掴み少しずつカロンとの間合いを詰めていく。泥の抵抗はあるが、足に力を込め前進する。すり足で右のつま先をやや外向けにし、正中線を崩さずに移動する。偶数の歩数になった時右手で柄に手をかけ、右半身を出す瞬間に右半身を使い抜刀する。


 「くっ、ゆっくりした動きが突然速くなる。何なんだ、この捉えにくい技は」


 相手から見えるのは左半身だけ、右半身を前に出すと同時に右半身を使い抜刀する。この時、手で抜刀すると相手に見破られてしまう。アギトのゆっくりした動作に見な慣れた相手は、右半身を繰り出した時、突然速くなったように見え相手の虚をつく事が出来る。


 多めに距離をとるカロン。


 「まだ、こんな技があったとは!」


 「それはお互い様だ!」


 2人は小細工なしの本気の一撃を繰り出す。カロンは鋭いファントを繰り出し、アギトは右半身を使い抜刀する。泥のせいで本来の動きが出来ないとはいえ、それでも常人よりは速く動く事が出来る。


 カロンの剣先がアギトの脇腹をかすめ、アギトの刀先がカロンの胸元を僅かに斬り裂く。お互いに血を流すが、アギトの方がやや多かった。


 カロン。


 「流石だな、アギト殿。雨が味方してくれなければ、私はこの世にはいないな」


 「アンタこそ凄いな! 流石、裏の世界で名を馳せているだけの事はある。純粋に尊敬するよ!」


 「それは嬉しいな」


 再び構えをとる両者。激しさを増す雨が、アギトの顔を叩きつける。水滴が目に入る。その一瞬を見逃さないカロン。


 「もらった!!」


 アギトは態勢を崩しながら避ける。ここぞとばかりにカロンの連続攻撃が繰り出される。そして、ついにカロンの剣先がアギトを捉える。レイピアが深々とアギトの脇腹に突き刺さる。レイピアで腹の中をかき回すカロン。


 「ぐっ! クソ!」


 アギトは足に力を込め後方に飛ぶ。それを追いかけるカロン。アギトはカロンの剣先を膝抜きで避けると同時にいつもの構えで抜刀する。今度はカロンが退く。しかし、避けるのがやや遅くカロンは逆袈裟懸けをその身体で受ける事になる。しかし、今一歩踏み込みが浅かかった為、致命傷にはなっていない。だが、かなりの出血である。


 「お師様!!」


 今まで傍観者だったバディが参戦する。


 バデイ。


 「私も戦います、いいですね、お師様! アギト、ここからは私も戦う! 我々の流派には二身一体という技がある。言葉の通り2人で1人だ。その技をお前に披露する、いいな!」


 ここでクレアが声をあげた。


 「卑怯よ! これはアギト君とカロンの一騎打ちのはず! 貴女は関係ないはず。関係のない者は下がっていなさい!」


 「違う、これは龍宮アギト流対我がレニア流の戦いだ! はき違えるな!」


 「違うわ、これは1対1の戦いよ! そこに余人が口を挿むのは、2人の戦いに対する冒涜ぼうとくよ!」


 「クレアさん、俺は構わない。レニア流にそんな技があるなら、その技事叩きのめすまで!」


 「アギト君、そんな事を言ってるとアナタ死ぬわよ! アナタには家で待ってる女性達がいるのよ! 仕方ないわね、私も参戦するわ!」


 アギトはクレアに大きい声で怒声を浴びせた。


 「俺はそれでも構わないと言ってるんだ、口を挟むなクレア!!」


 一瞬たじろぐクレア。


 「ア、アナタね……好きにしなさい! だけど絶対勝ちなさい!! でないと許さないからね!!」


 「すまない、クレアさん我儘を言って」



 クレア。

 冷静に対処するて言ってたのに! 戦いに陶酔してるわねアギト君。それにしても、あの娘達、とんでもない男を好きになったわね! これは苦労するわ!



 アギトの方を向いて謝るカロン。


 「アギト殿、申し訳ない」


 「別にかまわない。そういう事だバディ! お前の参戦を認める。2人でかかって来い!」


 バディはアギトの顔を見て頭を下げる。


 「ありがたい、礼を言うぞアギト。だが手加減はしない。それはお前に対して礼を失する事になるからな」


 「それでいい。では仕切り直しだ」


 バディは足元を光らせると、アギトの背後に周り込む。


 アギト。

 やはり、そうきたか。


 技じゃなく、ただの挟み撃ちだ。アギトは前後に挟まれるの嫌い、彼女達に対して平行になるように身体を移動させた。アギトの左側にはカロン、右側にはバディ。常にその状態を維持し、国切丸は抜刀し剣先は下げ脱力したまま維持をする。目は視野を最大限に使い、必ず2人がその中に収まるようにする。


 2人同時に仕掛けてきた。カロンは出血と疲労の為、動きに切れがない。アギトはカロンに対応するよりバディを優先する。剣さばきは、カロンの方が上。しかし、疲れがないため剣に躍動感がある。


 「思ったよりやる」


 まだ体力に余裕があるアギト。だが、カロンに刺された腹の痛みで、動きに切れがなくなってきていた。そこをバディに狙われる。


 「動きが鈍くなったぞ、アギト!」


 「そうかい、ならこれはどうだ」


 アギトは足元の泥を蹴り上げバディの視覚を奪う。そのわずかな時間に斬りつけるが、左側にいたカロンが割って入る。


 「くそ、なかなか良い連携だ!」


 カロンはバディに指示を出す。


 「バディ、私の背後に回れ!」


 「はい、お師様!」


 バディはカロンの背に回り込むと姿を消した。僅かばかりの静けさ。


 アギトの直感が危機を知らせた。

 なんかヤバイ。何を仕掛けてくるんだ?


 その時カロンが、アギトの方に剣先を鋭く突き出した。アギトはそれを避けるが、何故か左腕を刺されていた。


 何だ、これは? 俺は確かに避けたはずだ。


 再びカロンが攻撃を仕掛けてくる。今回も避けるが、今度は右の肩が刺されていた。


 カロンの背中に隠れているバディが仕掛けているとしか思えない。


 アギトは相手の動きを見極める為、致命傷を負わないように気をつけながら、ワザと相手の剣先を受ける。しかし、全身血だらけになったのを見て、心配になったクレアが声をかける。


 「アギト君それ以上傷を負う様なら、私も参戦するわよ。いいわね!」


 「分かった、しかし、もう大丈夫だ!」


 「そう、何か掴んだのね! ならもう少し待ってあげるわ」


 「悪いな!」



 アギトは2人の息の合ったコンビネーションの秘密を、己の身体を犠牲にして理解した。それはカロンの右足のつま先の位置だった。カロンはつま先を僅かに右に向けると、バディはアギトの左側を攻め、つま先が左なら右側を攻めて来る。上半身を攻めるか下半身を攻めるかは、カロンの体勢をバディが判断して仕掛けている。


 反撃を開始するアギト。国切丸を一度鞘に納めわざと隙を作る。警戒するカロン。お互い向き合った状態で停止する。少しの間、時間が流れる。しびれを切らしたカロンが先に動く。カロンのつま先はまっすぐ。


 これを待っていた。


 カロンの強い一撃を状態を反らしてかわすと、背後にいるバディの剣先がアギトの右太腿に深く突き刺さる。その瞬間、右太腿に力を込め筋肉を膨張させると、バディのレイピアがアギトの太腿で固定され、その動きを止める。


 カロンもバディも一瞬、何が起きたのか分からず次の動作までのタイムラグが生まれた。アギトはこの瞬間を待っていた。国切丸を抜刀しカロンの身体を逆袈裟懸けで斬り上げる。国切丸がカロンの身体を通り過ぎると、徐々にその身体は向かって左下にずれていく。


 カロンはそれが何を意味するのか理解したようだが、バディは理解していない。いや、理解したくないのだろう。彼女の声が鳴り響く。


 「い、いやーー!! お、お師様ーーーー!!!!」


 カロンは崩れゆく己の身体を見つめつつ、アギトに声をかける。


 「お、お見事……」


 バディはカロンのレイピアを握り、アギトに襲いかかろうとする。だが、それより速く国切丸をバディの喉元に突き付けるアギト。


 「決着は着いた。剣を棄てろ。でないと、この剣先をお前の喉に突き刺す事になる!」


 「くっ!」


 「出来れば女は殺したくない!」


 地面にその身体を預けたカロンがバディに声をかける。


 「わ、私達の負けだ、バディ! 彼を恨んではいけない。彼は、私達が有利なるまで待ってくれた。しかも、2人を相手に戦ったのだ。彼はそんな卑怯な私達に、勝ったのだ……バ、バディ……今朝……渡した……て……手紙を読んで欲しい。そして、アギト殿、こ、これを……」


 カロンは自分がかけていたネックレスを外し、アギトに渡す。そのネックレスは銅貨に穴を開け、その穴に鎖を通した物だった。


 「それは私が初めて…稼いだお金だ。その銅貨に鎖を、と、通してお守りにしていた。私に勝った戦利品…として、キミにもらって…欲しい」


 カロンの手からネックレスを譲り受けるアギト。


 「……有り難くもらとっくよ」


 「バ、バディ、今まで、私に付いて来てくれて、ありがとう。こ、これからキミは自由だ。キミの行き……たい所に行くと……いい。キ、キミと過ごした12年間は、わ、私にとって、宝物だった」


 カロンの手をとり、自分の頬にあてるバディ。


 「お、お師様、お師様ーー!! わ、私1人を置いて、い、かないで、いかないで、くだ……さい」


 カロンは、バディのその問いには答えなかった。いや、答えられなかった。何故ならカロンの魂は、もうそこにはなかったから。アギトは仏になったカロンの前で両手を合わせると、右足に刺さっていたレイピアを引き抜き彼女に渡した。


 まだ温もりの残っている遺体に寄り添ったまま動かないバディ。すると、彼女の瞳から一筋の涙が流れた。

 そんな彼女にアギトは声をかける。


 「今よりも腕を上げて、俺を殺しに来い。俺は逃げも隠れもしない。お前を待ってる」


 バディは返事を返さない。アギトはそこから離れるとクレアに話かける。


 「すまない、クレアさんは回復魔法は使えるか?」

 

 「えぇ、初級なら」


 「よかったら、傷口に魔法をかけて欲しいんだが」


 「仕方ないわね。横になりなさい」


 アギトの腹と太股を見て驚くクレア。


 「な、なにこれ。アナタよくこんな状態で戦ってたわね。お腹凄い事になってるわよ。私の魔法ではかなり時間がかかるけどいい?」


 「かまわない」


 「あと何で彼女にあんな事を言うの? 下手をしたら本当に復讐に来るわよ!」


 クレアに回復魔法をかけてもらいながらバディの方を見る。彼女はまだカロンの遺体に寄り添っていた。


 「今彼女は生きる目標を無くしている。俺を恨む事によって生きる力が湧いてくるなら、それでいい」


 「アナタ、バカなの? 何で彼女にかまうの?」


 「今の彼女は少し前の俺と同じなんだ。俺はこの世界に来る前、家族が全員亡くなり、彼女も行方不明になった。やけになって自分で命を断つ事も考えた。だが出来なかった。死が怖かったんだ。彼女の瞳はその時の俺に似てるんだ。だから他人事に思えなくて、生きる目標を与えたかった」


 「アナタ、思ったよりお人好しね。分かったわ、好きなようにしなさい。でも、それで他の人に迷惑をかけてはダメよ。もし、何か起こった時は自分の力で解決しなさい」


 「そうだな、肝に命じておくよ」


 激しく降り注いていた雨はもう止んでいた。アギト達が死闘を繰り広げた場所には、僅かな日差しが差し込んでいた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ