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4・7 孤独な少年を愛した話

4・7 孤独な少年を愛した話


 柾木は、また一人になった。一人であることは、慣れていた。だが一人でないことを知ってしまった後で、一人はおそろしく寂しかった。彼は、また同じ目の同胞を探した。

 そして彼はまた、少年に出会った。同じ目をした、少年だった。好奇心の強い少年だった。目には憧れが渦巻いていた。柾木は、彼を育てようと思った。同じ目をした少年が、数年後に自分になってしまわないように。その憧れが強すぎるが故に、一人になってしまわないように。でもその眼差しだけは、消えないように。「彼方へ」の目だけは、変わらないように。それは矛盾をはらんだ偏愛だった。柾木は、彼がなりたかった自分の姿を、少年に投影しようとした。それは彼の自己愛だった。自らに向けることのできない自己愛を、同じ目をした少年に向けた。他人を、自己愛の人形にした。それは許されざる罪だった。

 柾木は少年を、たった一人の読者にした。ただ一人に向けて、彼は詩を書いた。書けないはずの童話も書いた。同じ目をした少年になら、きっと読めると思って書いた。それを読めるよう、国語の勉強を付ききりで教えた。少年は、彼の詩を読んでくれた。

「なんか…自分のことが書かれてるなって思って、恥ずかしかったけど、嬉しかったです。」

 たどたどしく途切れた言葉だった。それは柾木にとって、今まで出会ったどんな言葉より、美しい言葉だった。

 しばらくして彼は、自分を描く小説を書き出した。自分の生きていた記録として、私小説をやってみようと思った。その中の自分に、仮の名を付けた。

 二人目の少年の名は、柾木といった。(了)


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