4・8 彼に読ませる詩の話
今日は、一人称で書くことにする。柾木の名の彼が、泊まりに来ている。明日は、二人で北へ出かける。鈍行列車で、北を目指す。
彼に読ませる詩の話をしよう。僕は、白い線という詩を書いた。タイトルは、いつか偶然本屋で見つけた本から、拝借した。だが中身のほうの半分は、誰からの借り物でもない、僕自身だ。そしてもう半分は、彼のことだ。この詩の読者は、彼ひとりだ。
僕は、詩の中に少年を書いた。少年は、彼方への憧れを抱く。その目は、寂しい僕自身の目だ。そして同時に、彼自身の目だ。僕は詩の中に少年を描くとき、まず僕自身のことを書く。そして書けたら、それを全部消す。消したら、今度は彼のことを書く。そうして二回書いたものを、思い出しながら、三度目を書く。三度目に詩の中に生まれる少年は、僕の目をした、彼自身だ。それは叶いえない憧憬の成就だ。僕はきみのようになりたかった。僕は僕をやめ、きみとして生きたい。きみと同じ眼差しをしながら、きみとして、美しい生を生きたい。それがどれだけ傲慢なことか、そんなのはもう何度も反芻した。それが暴力になりえることも。強すぎる憧れは狂気になることも。だけど、それを捨ててしまっては、生きられない。
だから、僕は詩を書くしかない。現実に決して叶わないのなら、せめて詩の中でだけ、それを叶える。詩とは、文学とは、そういうことができる世界だ。だから僕は、わからないくせに、まだ文学なんかに寄生している。
明日僕たちは文学を求めて、北に行く。明日訪れる景色はきっと、いつか忘れえぬ詩になるだろう。(了)




