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4・6 孤独な少年と出逢った話

4・6 孤独な少年と出逢った話


 柾木は、少年の小説を書いた。彼の聖書は、「銀河鉄道の夜」だった。ジョバンニは、彼と同じ目をしていた。カムパネルラに、会いたくなった。彼はカムパネルラを探した。

 柾木は、個別指導塾のアルバイトをしていた。講師一人に、生徒一人。毎週八十分が、彼の時間だった。

 それはある日の春のことだった。柾木は、カムパネルラに出逢った。彼と同じ目をした少年が、そこにいた。彼は、これは奇蹟だと思った。はじめて、彼は生きようと思った。

 柾木は、少年と友人になりたかった。教師と生徒ではなく、友人になろうとした。毎週八十分が、彼の時間だった。

「あーあ、もしおれも君とおなじ年代なら、友達になれるのにな…」

「なればいいじゃないですか、てかもうなってますよ」

 少年は、教室で彼に会うのを楽しみにするようになった。

 ある時、柾木はひとつ提案を持ちかけた。それは少年の希望でもあった。連絡先の交換は、塾の方針で禁止だった。だから、授業後に本屋で待ち合わせをした。本屋で落ち合った最初の日、二人は悪だくみを楽しむ、無邪気な顔をしていた。アドレスを交換し、別々に店を出た。すぐに少年の方からメールが来た。

 そうして彼らは友人になった。毎週授業後は本屋で会った。誕生日には「銀河鉄道」を贈った。週末は、河原や天文台へ出かけた。少年の家にも招かれた。両親にはいたく歓迎された。少年はいつも柾木の話をしているようだった。そんなのは初めてだ、と両親は言った。柾木は、生きている、と思った。

 だが少年は、変わっていった。身長がひどく伸び、性格も変わった。もう、あの遠い目をしなくなった。彼らは、少しずつ疎遠になった。二回目の春には、少年はいなかった。

 柾木は、出会った頃に撮った少年の写真を、ときどき眺めた。(了)


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